新潮文庫ならこれを読んでおけ【おすすめ名作11冊】

日本では「文庫」という本の形態が当たり前のように普及しています。これをもっとも古くから実現していたのが新潮社の新潮文庫です(実は岩波より早い)。

とくに文学系のラインナップでは他社を圧倒しており、哲学系に興味のある人間が岩波文庫を片っ端から読むように、文学系に興味のある人間は新潮文庫を片っ端から読んでおけばたいていなんとかなります。

おまけに他社の文庫に比べると値段が安く、しかも紐がついてるからしおりが要らないのも嬉しいポイント。

では新潮文庫でとくにおすすめの作品はなんでしょうか?ここでは僕の独断と偏見で必読書を紹介したいと思います。

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小林秀雄・岡潔『人間の建設』

文系の天才・小林秀雄(批評家)と理系の天才・岡潔(数学者)による伝説の対談。

どちらかというと岡が主役で、小林は岡の話をうかがうポジションに徹している感じ。数学の根底には情緒があると主張する岡に小林は同調し、意気投合しています。

岡潔の名言ないし迷言が最大のみどころ。「人は極端に何かをやれば、必ず好きになる」「芸術はくたびれをなおすもので、くたびれさせるものではない」「勘は知力です」「知らないものを知るには、飛躍的にしかわからない」などなど。岡の暴走に読者は圧倒され、また惹きつけられます。

新潮文庫からは『直感を磨くもの』という対談集も出ていて、これもおすすめです。こちらは三木清、湯川秀樹、三好達治、福田恆存など12人を相手に小林が対話しています。

 

小野不由美「十二国記」シリーズ

小野不由美の超人気ファンタジー。2021年時点での最新作『白銀の墟 玄の月』は250万部を超えるヒットを記録したというから驚きます。

異世界に12の国があり、それぞれの国には一人の王と一体の麒麟(王を選定する生き物)がいる、という古代中国的な世界観。人物を中心に置いて物語るタイプなので読みやすく、ストーリーもフックが強いです。

ファンタジー系って歳を取るとハマれなくなったりもするんですが、本シリーズは例外ですね。いま読み返しても面白く、一度読み出すと一気に最終巻まで駆け抜けてしまいます。

元々は講談社文庫から出ていましたが2002年を最後に執筆が中断、2013年に再開されたときには新潮文庫に移籍していました。今から揃えるなら新潮文庫版がおすすめです。

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テネシー・ウィリアムズ『ガラスの動物園』

20世紀アメリカの戯曲家テネシー・ウィリアムズの代表作。個人的に20世紀の戯曲ではこれとサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』が双璧だと思ってます。

舞台は大恐慌時代のアメリカ。主人公のトムは勝気な母アマンダと病的なほど内気な姉ローラと極貧の生活をしています。ローラの行く末を案じた母は、結婚相手を見つけてくるようにトムに頼みます。他者の侵入に怯えるローラ。やがて彼女が大切にしていたガラス細工の動物園は…

ローラは作者の姉ローズをモデルにしているとのこと。ローズは精神病の兆候があったらしい。アルコール中毒の父はローズにロボトミー手術を受けさせ、以降ローズは廃人のようになってしまったそうです。

テネシーは姉ローズへの愛惜から『ガラスの動物園』という名作を生み出しました。

 

リルケ『若き詩人への手紙』

ドイツを代表する詩人リルケの書簡集です。「これを読んで力が湧いてこなければ詩人になる適性がない」とまで言われる名作。

詩人志望の若者カプスくんに向けてリルケが書いた手紙をまとめたものなのですが、一級の芸術論・詩人論になっていて、非常に感動的です。

もしあなたの日常があなたに貧しく思われるならば、その日常を非難してはなりません。あなた御自身をこそ非難なさい。あなたがまだ本当の詩人でないために、日常の富を呼び寄せることができないのだと自らに言い聞かせることです。というのは、創作する者にとっては貧困というものはなく、貧しい取るに足らぬ場所というものもないからです。(リルケ『若き詩人への手紙』高安国世訳)

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シェイクスピア『マクベス』

人類史上最高の詩人にして、16世紀イギリスを代表する劇作家シェイクスピア。

彼の日本語訳はいろんな出版社から出ていますが、僕は新潮文庫版をおすすめします。福田恆存による翻訳がすばらしいからです(『ロミオとジュリエット』だけ中野好夫訳)。代表作は新潮文庫でほとんど揃います。

どの作品にもフックがあり、しかも短いのですぐに読めるのですが、どれか一冊と言われれば『マクベス』を推します。四大悲劇の一角にしておそらくもっとも完成度の高い作品です。

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ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』

ドストエフスキーにも邦訳が山のようにありますが、とりあえず新潮文庫で読んでおけば間違いないです。代表作はすべて入ってます。

シェイクスピアの場合ほど「ぜひとも新潮文庫で」というわけではありませんが、入手のしやすさや訳文の格調高さを考えると、やっぱり新潮文庫が王道じゃないでしょうか。

好きなのから読めばいいのですが(できれば全部読んでほしい)、代表作を一冊だけという人には世界文学の最高傑作『カラマーゾフの兄弟』をおすすめします。

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ショーペンハウアー『幸福について』

幸せな人生とは何でしょうか?

ショーペンハウアーはこれに答えて「生きていないよりは断然ましだと言えるような生活のこと」だと書き、さらにその真の源泉は人のあり方のうちにあると指摘します。

何を所有しているかとか、他人からどう思われているかとかは幸福には関係がなく、その人間がどういう人間であるのかに人生の幸福がかかっていると言うのです。

誰でも自分自身にとっていちばんよいもの、いちばん大事なものは自分自身であり、いちばんよいこと、いちばん大事なことをしてくれるのも自分自身である。このいちばんよくて大事なものが多ければ多いほど、したがって享楽の源泉が自分自身のうちに得られれば得られるほど、それだけ幸福になる。(ショーペンハウアー『幸福について』橋本文夫訳)

この新潮文庫版はカバーのデザインが秀逸。厭世家と見られがちなショーペンハウアーがもつ、ユーモアや自由を表現しているいるように思います。

哲学書ではなくエッセイなので簡単に読めます。橋本文夫の訳も高尚な文体ですばらしいです。

 

プラトン『ソクラテスの弁明』

哲学の王プラトンの著作。ソクラテスが死刑判決を受ける『ソクラテスの弁明』、脱獄をすすめる友人に反論する『クリトン』、毒杯を仰いで平静に死を受け入れる『パイドン』と、内容的に関連する3作品が収録されています。

田中美知太郎による訳が美しい。句読点が多めで、「ですます」と「である」を混ぜ合わせる小林秀雄みたいな文章ですが、なんかクセになります。

この値段で3作品が収録されているので、コストパフォーマンスの観点からみても他社バージョンよりおすすめできます。

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木田元『反哲学入門』

現代日本を代表するハイデガー研究者による西洋哲学入門書。

西洋哲学は不自然な考え方だ、そんなものが非西洋人のわれわれにわかるはずない、しかしニーチェ以降の反哲学(西洋哲学批判)ならわれわれにもわかる。この反哲学の立場から西洋哲学史をざっと追いかけるのが本書の内容です。

解説は明晰でわかりやすく、また木田の本は読み物としての面白さを兼ね備える点が特徴。基本的にどれを読んでも楽しめます。

ちなみに『ハイデガー拾い読み』も新潮文庫で読めます。ハイデガーの講義録から面白い部分を拾ってきて解説してくれる良書です。

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藤原正彦『心は孤独な数学者』

数学者の藤原正彦による伝記的作品。この人はエッセイイストとしても一流で、本作も非常にクオリティが高いです。数学にまったく興味がなくてもほぼ確実にハマれると思います。

イギリスのニュートン、アイルランドのハミルトン、そしてインドのラマヌジャン。孤独で哀しくも気高い3人の数学者の生涯が物語られます。

とくにインドの天才数学者ラマヌジャンは強烈。夢の中で神様から数式の展開を教えてもらうという、正真正銘、文字通りの天才です。

この人の著作は『若き数学者のアメリカ』と『遥かなるケンブリッジ』もおすすめ。こっちは自伝で、若い頃に留学したアメリカとイギリスでの経験が綴られています。変人がバンバン登場して楽しい。両方とも新潮文庫で読めます。

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ビル・ブライソン『人類が知っていることすべての短い歴史』

新潮文庫にはサイエンス・アンド・マスと呼ばれる理数系シリーズがあります。色々と名作が出ていますが、僕がおすすめしたいのはビル・ブライソンの『人類が知っていることすべての短い歴史』です。

イギリスで人気の紀行作家が、宇宙の歴史を物語るというもの。ありとあらゆる自然科学のジャンルを参照するため、科学史としても読めます。自然科学の基礎知識を幅広く身につけることができ、非常に有益。

著者の文体が終始ユーモアを炸裂させており、笑えます。また科学者の変人エピソードも面白く、読み物としてもきわめて魅力的な作品です。

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以上、新潮文庫からとくにおすすめの作品をピックアップしました。また新しい名著に出会ったら追記していこうと思います。