ちくま学芸文庫ならこれを読んでおけ【おすすめ名作11冊】

2021年2月17日ドストエフスキー, ヘーゲル, 柄谷行人

ちくま学芸文庫といえば、哲学から社会科学、はては数学や自然科学にいたるまで様々な名作を文庫化してくれる、仏のようなシリーズ。

現代に近い作品ラインアップでは、岩波文庫を質量ともに大きく凌駕しているといっても過言ではないでしょう。

とくに読んでおくべき本はどれか?

以下、独断と偏見で良書をピックアップしたので参考にしてください。

なお岩波文庫と平凡社ライブラリーのおすすめ本についても以下の記事で書いてます。

 

加藤周一『日本文学史序説』

日本を代表する知識人、加藤周一の名著。英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、韓国語、中国語などの外国語に翻訳され、海外でも広く読まれています。日本研究のバイブル的存在といってもいいでしょう。

この本の特徴は「文学」のなかに哲学書や宗教書までも含めているところ。狭義の文学史ではなく、日本の思想にかかわるすべてが総動員されているのです。だから紫式部や藤原定家や夏目漱石だけでなく、空海や道元や西田幾太郎も登場します。

読みものとしての面白さも圧倒的です。読者をモチベートする力にも富み、本書に紹介された古典を片っ端から読みたくなってきます。

日本文化、文学、歴史、思想に興味のある方はもちろん、良質なブックガイドを求める人にもおすすめ。

 

網野善彦『日本の歴史を読みなおす』

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日本を代表する歴史学者の名著。

日本社会は20世紀に大きな変貌を遂げましたが、それと同等の、あるいはそれ以上の大変化に見舞われたのが14世紀でした。南北朝の動乱あたりの境にして、それ以前と以降ではまったく世界が異なっている。

いったい何が起こったのか?15世紀以降の日本人が当たり前と思っている世界が、14世紀以前にはどのように異なっていたのか?

中世日本を考察し、僕たちが昔の日本に対してもっている固定観念を破壊していきます。眼から鱗の連続で、日本史を見る目が変わること間違いありません。

もともとは上巻と下巻にわかれた本でしたが、ちくま学芸文庫版なら二冊が同時に読めます。

 

清水真木『ニーチェ入門』

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最高のニーチェ入門書。もともとは講談社選書メチエで発売されたものですが、後にちくま学芸文庫に移植されました。

ニーチェ本人の指示にしたがって「健康と病気」の観点からその思想を整理。矛盾に満ちたカオスとしか思えなかったニーチェの哲学が、システマティックな相貌のもとに立ち現れてきます。

「こんなにわかりやすくていいの?」って感じ。伝記的な記載も多めで、面白い小ネタ(ニーチェは数学が苦手だったなど)が随所に登場します。

 

金子武蔵『ヘーゲルの精神現象学』

伝説的なヘーゲル研究者の金子武蔵が、一般向けに書いた『精神現象学』の解説書です。

ヘーゲルは西洋哲学史上もっとも難解な哲学者といわれていて、入門書もこれといったものがありません。そんななか、おそらくもっとも優れた解説書がこれ。

ヘーゲル思想は後続の哲学や社会科学に絶大な影響を与えているため、ヘーゲルの著作に関心がない場合でも、本書から得られるものは大きいはず。

ちなみにヘーゲルの『精神現象学』もちくま学芸文庫で読めます。この古典は長年文庫化されなかったのですが、2018年に熊野純彦訳でついに出ました。

ヘーゲルの入門書や解説書については以下の記事も参考にしてください。

 

木村敏『分裂病と他者』

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精神医学者、木村敏の著作。木村は精神医学に現象学を組み合わせた第一人者の一人として、世界的な権威をもちました。

ハイデガーや西田幾多郎の哲学を総動員し、分裂病(統合失調症)の世界を内側から描き出す手腕は圧巻です。

「自分のことが語られている」と感じる人も多いはず。

精神医学に関心のある人はもちろん、哲学的な関心から読んでも得るものは大きいでしょう。

 

中井久夫『世に棲む患者』

こちらも伝説的な精神医学者による著作。

木村敏が哲学的なスタイルだったのに対して、中井久夫は文学的なスタイルが特徴。独特の文体で綴られる彼の文章は、上質のエッセイとしても楽しめます。

内容はとても実践的で、精神医学に関心のある人のみならず、患者自身に訴えかける力をもちます。

ちくま学芸文庫の中井久夫コレクションは質が高いので、本巻で興味をもったらほかの巻も読んでみてください。

 

柄谷行人『思想的地震』

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文芸批評家にして戦後日本を代表する思想家、柄谷行人の講演集です。小林秀雄以来、文芸批評家が国の中心的思想家を兼ねるという伝統が日本にはあります(今だと東浩紀がそれに当たるかも)。

柄谷の著作は平易な美文できわめて抽象的な内容を語る点に特徴があるのですが、講演となるとその強みがさらに発揮されます。すごくわかりやすい。

講演は1995年から2015年にかけてのものです。近代文学の終焉、デモ、幸徳秋水、世界システム、哲学の起源、柳田國男など、内容は多岐にわたります。

『言葉と悲劇』もおすすめ。こちらも講演集で、おもに80年代の柄谷の仕事とリンクする内容になっています。元々は講談社学術文庫から出ていましたが、今では新装版がちくま学芸文庫から出ています。

 

山之内靖『総力戦体制』

社会科学者の山之内靖による名著。第二次大戦時につくられた総力戦体制が戦後社会をも規定しているのだ、という内容。野口悠紀雄の1940年体制論とも重なる議論です。

著者は社会学者で、軸となるのはパーソンズの議論ですが、そこにさらにヘーゲルら哲学者の議論までが参照され、知的興奮を与えてくれます。巻末のインタビューも読み応えあり。コジェーヴやハイデガーまで登場してびっくりしますよ。

ちなみに山之内靖はマックス・ウェーバー研究でも有名ですね。岩波新書の『マックス・ウェーバー入門』はウェーバーとニーチェの類縁性を指摘した良書です。

 

川北稔『世界システム論講義』

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ウォーラーステインの世界システム理論をわかりやすく解説した本。抽象的になりすぎることなく、実際の歴史に即して解説がなされます。

グローバルな近代世界システムはどのように形成されたのか。なぜそれを成し遂げたのは当時の文明の中心地中国ではなく、辺境のヨーロッパだったのか。

目から鱗の連続で、世界史を見る目が変わります。社会科学が好きな人だけでなく、歴史が好きな人にもぜひ読んでもらいたい名著です。

 

ミハイル・バフチン『ドストエフスキーの詩学』

ドストエフスキー研究書の王様ともいえる有名な作品。

ドストエフスキー作品にポリフォニー(多声音楽)的な特徴を見いだし、従来の文学や哲学と対比させます。

著者のミハイル・バフチンはロシアの文芸批評家。彼の仕事はドストエフスキー研究の枠を越え、哲学や言語学、心理学にまで及びます。本書の影響力もまたドストエフスキー研究の界隈をはるかに越えるものでした。

ドストエフスキー好きの人はもちろん、文芸批評や哲学に関心のある人も必読。

ちくま学芸文庫には森有正の『ドストエーフスキー覚書』も入っていて、これも名著です。

 

キルケゴール『死に至る病』

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実存主義のボス、キルケゴールの代表作です。

ハイデガーやサルトルなど、後の思想家に甚大な影響を与えた思想が展開されています。「これキルケゴールが元ネタだったのかよ」という発見がたくさんあると思います。また木田元が指摘したように、ドストエフスキー作品の注解書として読むことも可能。

このバージョンは豊富な注解がポイントです。本文を読みながら参照することで、内容の理解を助けてくれます。だからちくま学芸文庫版がおすすめ。

この本は最初のページの異常な難解さでも有名ですね。しかしそこを過ぎるとだいぶ読みやすくなるので、拘泥することなく読み飛ばしてください。哲学書を読むには、わからない箇所をスルーできる技術がきわめて重要です。