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宗教学のおすすめ本はこれ【入門書から古典的名著まで11冊】

2024年8月24日まとめ記事

宗教学という学問があります。

宗教そのものとは違い、宗教の内部にとどまる神学とも違う。あくまでも近代の科学的アプローチで宗教を研究するいとなみが宗教学です。

宗教そのものの代わりにはなりませんが、宗教への理解を深めるには宗教学の知見は大いに役立ちます。

以下、宗教学のおすすめ入門書と古典を紹介したいと思います。

脇本平也『宗教学入門』

入門書にはこれがおすすめ。講談社学術文庫から出ており、高い評価を受けています。

宗教の構成要素を教義、儀礼、教団、体験の4つにわけ、それぞれを深堀りしていきます。宗教と呪術(および科学)の違いなども語られていて興味深い。宗教学といいう学問の歴史についてもざっと解説されています。

また宗教と宗教学の違いについて、序言で次のように明言されているのが好印象。

「宗教学入門」に対して、もし信仰の導きとか人生の指針とかいうものを直接お求めになるならば、きっと大きな期待はずれになるだろうと思います。宗教学という学問は、信仰を深めたり基礎づけたり、あるいは人格を宗教的に鍛えたりすることを、直接の目的とするものではないからです。

(脇本平也『宗教学入門』)

たしかに宗教と宗教学ってちょうど音楽と音楽評論ぐらい違いますからね。これが最初に明言されていることで、著者への信頼が高まります。

また本書では宗教学の基本書として次の4つが挙げられています。

・マックス・ミュラー『宗教学概論』
・タイラー『原始文化』
・ロバートソン・スミス『セム族の宗教』
・スターバック『宗教心理学』

せっかくなので以下それぞれ軽く紹介しておきます。

マックス・ミュラー『宗教学概論』

マックス・ミュラーは古代インド宗教の専門家。古代インドの言語はもちろんのこと、世界中の古代言語に通じていた天才です。この人が宗教学の大ボスです。

宗教学はそのルーツからして比較宗教学でした。色々な宗教を比較して、似ている部分と違っている部分を特定し、それぞれに共通する宗教的コアをあぶり出す、というふうに。これはミュラーの手法そのものです。

あのエリアーデ(『世界宗教史』などで有名)もこの系譜に属する宗教学者です。

タイラー『原始文化』

次はタイラーの『原始文化』。この人の特徴は人類学的なアプローチにあります。

世界中に今なお残っている未開民族の文化を調査し、彼らの生活を観察することで、宗教の本質に迫ろうとする行き方です。

フレイザーの『金枝篇』もこれと同様のジャンルに属します。

ロバートソン・スミス『セム族の宗教』

ロバートソン・スミスの研究は、宗教社会学のルーツです。

宗教の社会性に着目し、宗教の儀礼や儀式が集団の存続のためにいかなる機能を果たしているのかを研究します。

デュルケムの『宗教生活の原初形態』もこのジャンル。この後もウェーバーやルックマンを始めとして、社会学は重要な宗教研究を積み重ねていくことになります。

関連:社会学のおすすめ本はコレ【古今東西の名著10冊】

スターバック『宗教心理学』

上述の研究が社会とか民族とかのマクロな視点から宗教にアプローチしていたのに対して、スターバックの研究は個人の心理に着目します。

宗教者はどのような意識を持っているのか。回心を体験した人びとはどのような意識の変容に見舞われたのか。インタビューやアンケートを通じて、これを明らかにしようと試みます。

ウィリアム・ジェイムズの『宗教的経験の諸相』もこのジャンルに属す有名な研究です。ウィトゲンシュタインの愛読書でもあった本。個人的にもジェイムズのこの本は一押し。

 

山我哲雄『聖書時代史 旧約編』

旧約聖書に書かれているユダヤ民族の歴史は、多分にフィクションが織り込まれていることで知られます。

実際の歴史はそれとどう乖離しているのでしょうか?古代イスラエル人はどのような経緯でパレスチナに定着し、強国の猛攻にさらされ続け、そしてローマ帝国の攻撃のもとに滅びていったのか?

この実際の歴史を、考古学などの研究成果を盛り込みつつ再現せんとした本が『聖書時代史』。これが読み物としても異様に面白い。

同著者には『一神教の起源』という本もありますが、『聖書時代史』のほうが読みやすく面白いです。ただし情報は『一神教の起源』のほうがアップデートされているので、宗教学研究の最新情報を知りたい人はそっちをチェックしたほうがいいかも。

本書と似たアプローチの本では、ちくま学芸文庫に加藤隆『旧約聖書の誕生』という良書もあります。しかしあれはかなり読みづらいので、先に山我を読んだほうがいいと思います。

 

佐藤研『聖書時代史 新約編』

岩波現代文庫の聖書時代史、旧約編があるのだから当然新約編もあります。著者は異なりますがこっちも面白い。

ユダヤ教イエス派はいかにして「キリスト教」へと変化していったのか?実際のローマ帝国史のなかにその変遷が位置づけられていきます。

終盤にはグノーシス派についての記述もあります。

 

山我哲雄『キリスト教入門』

宗教学からキリスト教に迫るならこれが一押し。

岩波ジュニア新書なので文章もわかりやすいです(かといってレベルが低いということもまったくない)。

おおまかな内容は次のような感じ。

・ユダヤ教とキリスト教の違い
・イエスについて
・キリスト教の成立と発展史
・ローマカトリック教会について
・東方正教会について
・宗教改革とプロテスタント
・現代のキリスト教(日本のキリスト教や新興宗教を含む)

ご覧のようにかなり包括的な内容になっています。

カトリックや東方正教についてここまで踏み込んで解説する本はなかなか珍しいんじゃないですかね。

関連:キリスト教とユダヤ教はどう違う? 山我哲雄『キリスト教入門』【要約】

なおキリスト教神学の分野ではアリスター・マクグラスの『神学のよろこび』が入門書として鉄板です(僕は序盤で積みましたが)。

 

井筒俊彦『イスラーム文化』

東洋哲学界を代表する天才のひとり井筒俊彦。彼が一般人向けにイスラムを解説してくれた名著がこれです。

ちなみに岩波文庫から出ているコーラン日本語訳の訳者も井筒です。

第一部は信仰、第二部は法と倫理、第三部は神秘主義の構成。文章はですます調で講演をそのまま収録したかのようなわかりやすさを誇ります。しかも引用されるコーランを含め文章がきれい。

その後、モーセがユダヤ教として、次にイエスがキリスト教として同じ「永遠の宗教」を二つの違った歴史的形態で実現したのですが、イスラームに言わせれば、残念なことにこれら二つの宗教は、もはや、かの「永遠の宗教」をもとの純正な形では保存できなかった。それをいまムハンマドが現れてまたもとの本源的な姿に戻そうというのであります。それがムハンマドの構想したイスラームのあり方です。だから、この意味ではイスラームという宗教は決して新しい宗教ではありませんでした。新興宗教ではなくて、むしろ古い宗教、永遠に古い宗教です。ユダヤ教とキリスト教による歪みを全部もとに戻して、「アブラハムの宗教」を根源的、形而上的理念に近い最も純正な形で、つまり真にアブラハム的な姿で、建て直そうとするもので、それはあったのです。

(井筒俊彦『イスラーム文化 その根底にあるもの』)

同じく井筒俊彦による『イスラーム思想史』(中公文庫)も良書です。あちらは入門書というよりイスラム哲学史の解説書といった感じ。

 

ジョン・ヒック『宗教の哲学』

これは宗教学というより哲学よりの本。宗教哲学の全体をざっと概観する教科書的な入門書として世界的に定評があります。

著者のジョン・ヒックは宗教多元主義の提唱者としても有名。世界には唯一の超越者が存在しており、それぞれの宗教はその唯一の実在をそれぞれの仕方で表現するバリエーションなのだ、とする考え方がそれ。ちなみにこの考えは遠藤周作にも影響を与えています。

本書の内容からいくつかピックアップすると次のような感じ。

・神の存在に同意する論証について
・神の存在に反対する論証について
・悪の問題について
・啓示と信仰
・不死とよみがえりについて
・業と生まれ変わりについて

学問的な本にはめずらしく、超心理学的なエリアにちゃんと言及している点も好印象です。

ともあれ、われわれは、しばしの間、知識の不在を不在の知識と混同しないように注意しなければならない。

(ジョン・ヒック『宗教の哲学』間瀬啓允・稲垣久和訳)

 

フロイト『モーセと一神教』

精神分析のボス、フロイトによる面白い本。

一神教としてのユダヤ教の起源を探る論考なのですが、フロイトはそれをエジプトに求めます。実際、モーセという名前はエジプト語なんですよね。

フロイトは想像力を爆発させ、モーセはアメンホテプ4世の一神教改革を断行したメンバーの一員だったのではと考えます。そしてモーセはエジプトを脱出し、ユダヤ人たちに一神教的宗教を授けた、と。

なお現在の実証研究では本書の仮説は否定されている模様。しかしフロイトの著作のなかでもっとも面白いのはこれだと僕は思ってます。

関連:フロイト『モーセと一神教』ユダヤ教の起源はエジプトか

 

仏教や儒教など東洋思想に関わってくるものについては以下の記事に書いてあります。

また学問的視点というよりは体験重視のスピリチュアル寄りの本については以下の記事を参考にしてみてください。