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講談社学術文庫ならこれを読んでおけ【おすすめの名著11冊】

2023年12月1日まとめ記事, 文庫おすすめ

講談社学術文庫といえば岩波文庫、ちくま学芸文庫と並ぶ3大学術系文庫のひとつ(僕が勝手にそう呼んでいるだけですが)。良書がわんさかあります。

どれを読むべきか?

以下、僕が読んだことのある良書のなかから、特におすすめの11冊を紹介します。

なおその他の出版社のおすすめ文庫については以下の記事を参考にしてみてください。

岩波文庫ならこれを読んでおけ【おすすめの名作11冊】
ちくま学芸文庫ならこれを読んでおけ【おすすめ名作12冊】
新潮文庫ならこれを読んでおけ【おすすめ名作11冊】

木田元『反哲学史』

ハイデガー研究者の木田元が書いた哲学の通史です。

タイトルが「反哲学」になっているのは、西洋哲学を相対化せんがため。ニーチェやハイデガーの見方に従って、「西洋哲学って人間にとって不自然で不健康なものなんじゃないの」という視点を根底に置いています。

とはいえ各哲学者に対してなされる解説はまっとうかつ非常にわかりやすく、しかもコンパクトにまとめてあるので初心者にもおすすめできます。

木田は一般向けの本をたくさん出していますが、内容はどれも似通ってます。どれか一冊だけ読めば十分ともいえますし、どれも面白いから微妙な差異を楽しみつつ全部読むのもありです。一番読みやすくてしかも網羅的なのはやっぱり『反哲学史』じゃないかなと思います。

関連:プラトンは何故イデア論を自己批判したのか『反哲学史』【書評】

 

高田珠樹『ハイデガー 存在の歴史』

講談社はかつて「人類の知的遺産」というシリーズを出版していました。名だたる学者たちが、重要な思想家を一般向けに解説する評伝シリーズです。非常に打率が高く、どれを読んでもほぼハズレ無しというイメージでした。

今ではその多くが、講談社学術文庫に移植されています。カントとか龍樹とか色々おすすめの巻はありますが、ここでは僕の好みで高田珠樹の『ハイデガー』を挙げておきます。

前期のハイデガーを詳しく追いかける構成で、後期の思想がいかに早くから胚胎していたのかも明らかになります。

また『存在と時間』の解説パートはそこだけ切り取ってもクオリティが高く、わかりやすいです。

このシリーズは他にもアリストテレス、アウグスティヌス、トマス・アクィナス、カント、ヘーゲルあたりは鉄板の名著だと思います。

関連:ハイデガーに入門するのは意外と難しくない【おすすめ入門書7選とおまけ】

 

野家啓一『パラダイムとは何か クーンの科学史革命』

こちらは科学哲学者のトマス・クーンを解説した良書。

クーンといえば「パラダイム」という概念を導入したことで有名です(今や日常用語と化している)。

それまでの科学史は連続性が特徴でした。一つ一つブロックを積み上げて、観察で検証して、大きな理論を完成させるみたいな。

しかしクーンが科学史の検討から導き出した答えはそれと逆なんですね。通常科学はたしかにブロックを一つずつ積み上げていくけれども、巨大な変化をもたらす科学理論はむしろ、以前の科学とは異質な領域に革命的なジャンプをするものだと。

この飛躍をクーンはパラダイムシフトと呼びます。

アインシュタインの相対性理論なんかがわかりやすくて、ニュートンの世界観のなかであれが誕生するかというと無理ですよね。時間とか空間とかの基礎的な概念の意味合いを変更して、まったく別の世界観が導入されているからです。

クーンの解説書としてのみならず、科学哲学の入門にも本書は使えます。

関連:文系でも読んでおきたい理数系の名著はこれ【おすすめ9冊】

 

立川武蔵『空の思想史 原始仏教から日本近代へ』

仏教のコアをなす思想といえば空の思想です。現象の根底に確かな「実体」が存在すると考えるヒンドゥー教や西洋哲学とは異なり、仏教は実体の存在そのものを否定します。

これは「無」を実体化して考えがちな中国や日本の伝統的思想とも実はぜんぜん違います。西洋哲学でもない、無の哲学でもない、この仏教の空の思想はいかなる変遷をたどってきたのか?

本書はインド、中国、チベット、日本における空の思想の流れを概観した良書。仏教の専門書にありがちな異様な難しさがなく(簡単ではないですが)、わりかし読みやすいのもポイント高し。

日本人が仏教をイメージするとすぐにインドを思い浮かべますが、中国哲学がいかに仏教を変質させたか(そしてそれが日本に輸入された)という点が明らかになるのも面白いです。

似たようなテーマでは森三樹三郎の『老荘と仏教』も良書です。

関連:インド仏教と中国・日本仏教は何が違う?『空の思想史』【書評】

 

小西甚一『日本文学史』

小西甚一といえば受験生用の参考書『古文の読解』(ちくま学芸文庫)が有名。伝説的なテキストとして後に文庫化され、いまだに多くの読者がいるほどです。

しかし彼の本領は、実は日本の文学史にあります。もっとも読みやすいのがこの『日本文学史』。ドナルド・キーンをして「本居宣長を読んだとき以来の興奮だった」と言わしめた、幻の名著です。

古代から近代にいたる文芸の歴史を、ざっくりと外観できます。完成を目指す「雅」と、カオスな無限を目指す「俗」。このふたつのベクトルの相克の歴史として文学史を捉え、どちらの要素が色濃いかによって各時代を区切るのが本書の特徴です。

日本文学史といえば加藤周一の『日本文学史序説』が鉄板ですが、あれが文庫で上下あわせて1,000ページぐらいあるのに対して、こちらは文庫で200ページぐらい。異様なほどコンパクトにまとまっていて、読みやすさではこちらが上です。

 

『建礼門院右京大夫集』

講談社学術文庫には日本の古典的文学作品も多く入っています。現代語訳にくわえて注釈まで挿入してくれるタイプなので(しかも本文は端折らずフル収録)、古典を読みたいとなったらまず講談社学術文庫バージョンを探すのがおすすめ。

ここではあまり有名でないところから『建礼門院右京大夫集』を紹介しておきます。

作者は高倉天皇の中宮たる建礼門院に仕えた女性。実名は伝わっていないためこの名前で呼ばれます。

星空の詩人とも呼ばれる天才的な歌人です。自らも属する平家の滅亡を目の当たりにし、母にも、恋人の平資盛にも先立たれてしまった。この世に取り残された作者は、悲嘆の心情を歌にしていきます。

今や夢 昔や夢と まよわれて いかに思えど うつつとぞなき

(『建礼門院右京大夫集』)

 

富永健一『日本の近代化と社会変動』

富永健一といえば一時期の日本の社会学を代表した人物で、パーソンズの社会システム理論を駆使したことで知られます。しかも単に理論的、思弁的な仕事にふけるタイプではなく、実証的な研究とシステム理論を組み合わせるところが特徴。

本書はその富永が日本の近代化過程を分析したもの。まず近代化の前提となる徳川時代の社会構造を分析するところから入ります。こういう視点で近代以前の日本史が語られることはあまりないので、この時点でもう面白い。

そしてパーソンズの図式に習い、経済・政治・社会・文化それぞれのサブシステムごとの近代化を検討。明治以降の日本社会がどのような構造変動を経験したのかが研究されていきます。

現在の社会科学からすると古くなってしまった部分もなきにしもあらずですが、非常に独創的な本なので、歴史や社会に関心のある人には一読をおすすめします。

なお富永健一は『近代化の理論』という本も講談社学術文庫から出ています。より一般的に「近代化」という現象のコアを抽出しようとした名著。これが原理編で、『日本の近代化と社会変動』はそれを日本に応用したものといえます。

関連:社会学のおすすめ本はコレ【古今東西の名著10冊】

 

中島義道『哲学の教科書』

哲学者にしてカント研究者にしてエッセイイストでもある著者の哲学入門書。

といっても哲学者の思想や哲学史を概説するタイプの本ではなく、「哲学すること」そのものがどういう営みなのかを一般向けに語った名著です。

前半では哲学が思想、科学、芸術、宗教といかに違うのかを力説し、後半では代表的な哲学的問題を実際に思索してみせます。哲学書が異常に難しい文章になる理由なども書かれていて、普通に読み物としておもしろい。個人的エピソードも多め。著者の文学的センスも終始炸裂します。

宜保愛子さんという人がいます。エジプトの砂道をじっと見つめてそこに古代エジプトの王者の行列を「思い出したり」、壮大な宮殿の内部を細部にわたって「記憶に基づいて」描いてみせたり、私もテレビで見て面白いものだなあと思いましたが、哲学的にはとりたてて不思議なことではない。彼女の想起は「自分が現に体験したもののみ想起できる」というわれわれの想起原則に反しているだけであり、すなわち彼女は自分が現に体験しないことをも「想起」する能力があるというだけです。ただ、彼女の能力が統計的にきわめて少ないから注目を集めるのであり、考えてみれば「現在――大脳を含めて――もはやどこにもない過去にわれわれはいかにして達することができるのか」という大きな疑問の中の小さなヴァリエーションにすぎません。(中島義道『哲学の教科書』)

 

柄谷行人『探求』

講談社学術文庫の長所のひとつとして、柄谷行人の著作を多数収録している点が挙げられます。

柄谷は現代日本を代表する文芸批評家にして思想家。エッセイのような平易な文体で極度に独特の哲学的思索を展開し、後続の思想家や批評家に甚大な影響を与えています。東浩紀を世に送り出したことでも有名。

彼の代表作のひとつが『探求』です。後期ウィトゲンシュタインを思索の導きの糸にして、スピノザ、キルケゴール、マルクス、フロイト、ソシュールなどにも依拠しつつ、独自の哲学的エッセイを書き連ねていきます。

80年代に書かれた哲学的な著作なのですが、これを柄谷行人のピークに挙げる人は少なくないと思う。90年代以降は社会運動に関わる著作を多く書くようになりましたが、本書は純粋に理論的な作品です。

他の代表作は他でも文庫化されてたりしますが(講談社文芸文庫や岩波現代文庫など)、本書は講談社学術文庫でしか読めません。『探求』は1巻と2巻が出ていて、どちらも名著なので両方読むことをおすすめします。ちなみに探求の3巻目に手を加えて出版されたのが後の『トランスクリティーク』です。

関連:柄谷行人に入門するならこれ【前期~後期のおすすめ本】

 

西田幾多郎『善の研究』

日本で最大の哲学者といえば西田幾多郎。戦前の京都大学で活躍し、京都学派と呼ばれる天才集団の大ボスとして君臨しました。

その西田のデビュー作が『善の研究』です。座禅体験と西洋哲学を組み合わせることで、独自の思索を展開した世界的な有名作。

西田の文章はその異様な難しさで悪評が高いですが、デビュー作の本書はそこまで読みにくいものではありません。彼の文章は後期に向かえば向かうほど難解になっていきます(小林秀雄とは逆)。

この本を読むなら講談社学術文庫バージョンが圧倒的におすすめ。各パラグラフごとの注釈が充実していて、道を見失う危険性がだいぶ下がるからです。

ちなみに講談社学術文庫からは、本書の注釈を手掛けた小坂国継による『西田幾多郎の思想』も出ています。西田の解説書ならこれがいちばんわかりやすいと思う。セットで読むのがおすすめです。

関連:東洋哲学の独学におすすめの本7選【入門者向け】

 

アドラー&ドーレン『本を読む本』

読書の技術について指南してくれる名著です。

初級読書、点検読書、分析読書、シントピカル読書。4つのレベルに読書をわけ、それぞれを体得していく構成になっています。

点検読書がいわゆる速読、分析読書が熟読です。シントピカル読書というのは一つのテーマについて複数の本を並行して読む技術のこと。このへんになると学者のレベルですが、われわれ一般人が読んでも得るところの多い本です。

ただし読書初心者が読むとこりゃついていけんとなって心が折れると思う。ある程度本を読むことに慣れた中級者におすすめしたい名著です。

関連:『本を読む本』学者レベルの読書術を身につける方法【書評】

 

以上、講談社学術文庫のおすすめ本を紹介しました。また名著を見つけたら随時アップデートしていこうと思います。

なお講談社現代新書のおすすめ本はこちら。