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科学史入門にはこれ『人類が知っていることすべての短い歴史』

2023年11月21日

「科学の歴史をざっくり網羅的に理解したい」

このような要求に応えてくれる最良の本が、ビル・ブライソンの『人類が知っていることすべての短い歴史』(新潮文庫)です。

ビル・ブライソンは紀行記で有名なイギリスの売れっ子作家。

まったくサイエンスと関係のない彼が、急に自然科学の歴史を書き始めた。それが本書です。

以前読んだシェイクスピアについての本(『シェイクスピアについて僕らが知りえたすべてのこと』)が面白かったので、評判のいいこっちも読んでみようと決意。

で、実際読んでみたら評判通りのすばらしさだったというわけです。

 

科学史の本って種類が意外と少ないうえに、たいていつまらないんですよね(あのアイザック・アシモフでさえ化学や生物学の歴史を語ると微妙になる)。

しかし本書は読みやすいうえに読み物としての面白さも一級であり、門外漢にとってたいへんありがたい啓蒙書となっています。

タイトルだけ見るとふざけたような内容がイメージされるかと思います。なんか底の浅い知識が冗長に語られるだけなんじゃないの的な。しかし実際に読んでみると内容は非常にしっかりしていて、とりあえずこれだけ読んで理解しておけばオーケーみたいなところもあります。

 

ビル・ブライソン最大の武器はユーモアを炸裂させる文章にあります。それは本書でも健在。

冒頭の数行を読んだだけで、その独特の調子がわかるかと思います。ちょっと引用してみましょう。

ようこそ。そしておめでとう。あなたがここに到達できたことを、うれしく思う。平坦な道のりではなかっただろう。実のところ、どうもそれは、あなたが実感しているより、もう少しばかりたいへんなことだったらしい。

まず第一に、あなたがここにこうしているためには、宙を漂っていた何兆個もの原子が、精緻なやり方で、かつ絶妙の連携ぶりで寄り集まって、あなたという生命を創らなくてはならなかった。それは、過去に一度も試みられたことがなく、今後もこの一度きりしか実現できないほど贅を尽くした特殊なイベントだった。これから(願わくは)数十年のあいだ、この微小な粒子たちは、文句も言わずに何十億、何百億もの熟達した共同作業にいそしんで、あなたを健常に保つとともに、この上なく快適でありながら過小評価されがちな”生存”という状態をたっぷり味わわせてくれることだろう。

なぜ、原子がわざわざそんなことをするのかは、ちょっとした謎だ。

ビル・ブライソンは科学の素人ですから、科学界に対していわばアウトサイダーの立場にいるわけですよね。

本書ではそのアウトサイダーとしての視点が存分に活かされています。

正しい理論をなかなか認められなかった正統派を茶化す。偉大な功績にも関わらず権威に押しつぶされ歴史に埋もれてしまった科学者らに光を当てる。

冥土で喝采している科学者も少なくないと思います。

 

ありとあらゆるジャンルが物語られていきます。たとえば以下のような。

・宇宙物理学
・化学
・地学
・気象学
・海洋学
・生物学
・考古学
・人類学

自然科学といっても色々ありますからね。本書を通読すると、自分がどのジャンルに適性があるかわかると思います。

たとえば僕の場合、地学や物理学についてのパートはワクワクするのですが、生物学や化学になると途端に退屈になり、ほぼ流し読みという有り様でした。やっぱそうなのかという感じ。

個人的にいちばん面白かったのは、隕石が地球に衝突したらどうなるかとか、イエローストーン火山が噴火したらどうなるかとかを嬉々として語っているパートですね。

 

この本、最初から洋書で読もうかとも思いましたが、「自然科学の専門用語が多すぎる」というレビューを見て尻込み。まずは日本語訳から読むことにしたのでした。面白かったので原書も買って読んでいきます。

理数系の名著にこの本も追加しました。