ドストエフスキーの小説はどれから読むべきか?【この順番がおすすめ】

2021年5月24日ドストエフスキー

世界文学史上の最高峰ドストエフスキー。僕のいちばんのお気に入り作家でもあります。

ドストエフスキーを読もうとなったときに困るのが、どれから読んだらいいのかということですよね。

数が多いだけでなく、代表作が多いのです。これだけ読んでおけばオーケーとはなりづらい。

入門者はどの順番でドストエフスキーの小説を読んでいけばいいのでしょうか?

僕はドストエフスキー作品をほぼすべて読んだことがあります(全集に収録されている日記や小品は除く)。主要な作品は最低でも2回以上読んでいますね。『カラマーゾフの兄弟』は4回読んでいます。しかも『罪と罰』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』にいたっては英語の勉強もかねて英訳でも読んだほどです。

その経験にもとづき、以下、読むべき順に作品を紹介していきたいと思います。

なお他の作家や思想家がドストエフスキーについて論じた名著については、以下の記事を参考にしてください。

貧しき人々

まずは『貧しき人々』がおすすめ。天才ドストエフスキーのデビュー作です。往復書簡という形式で、主人公の男女ふたりの親交が物語られていく。

短くてキャッチーなところがポイントですね。新潮文庫で253ページです。ドストエフスキー作品にしてはめちゃくちゃ読みやすい。だから最初に読むのに合っているのです。

後期作品に見られる壮絶な宗教的次元はまだ開かれていませんが、ユーモラスな表現、感動的な心情吐露、時たま現れる美しい場面描写など、ドストエフスキーの特性の多くがすでに開花しています。

 

罪と罰

いわゆる5大長編の一つ。ドストエフスキーの長編のなかでは、もっとも読みやすい作品がこれだと思います。一般人気では『カラマーゾフの兄弟』と並ぶ代表作ですね。

物語がキャッチーで、フックも強い。テーマは「再生」です。物語の中盤でソーニャが主人公に読み聞かせる「ラザロの復活」が、この作品の根本テーマを表明しています。

『貧しき人々』で肩慣らしをしたら、いきなりこの『罪と罰』に飛び込むことをおすすめします。

 

カラマーゾフの兄弟

世界文学史上の最高傑作とも言われる『カラマーゾフの兄弟』。この本のせいで近代文学はフィニッシュを迎えてしまったとも言われます。3冊目でこれを読んでいきます。

光文社古典新訳文庫の亀山訳で読むことをおすすめします。巻数は多めですが、そのぶん改行や空白が多くて読みやすく、挫折しにくいのです。

専門家からは批判の多い亀山訳ですが、ふつうに読む程度ならば問題ありません。

Amazonプライムの会員になれば第一巻は無料で読めます(無料体験中に読み切ればOK)。Primeリーディングでダウンロード可能です。

 

実は、ここまででドストエフスキーへの適性はわかります。『罪と罰』や『カラマーゾフ』を読んでも合わないと感じたなら、ここでやめてもいいと思う。

逆にまだまだ興味がつきないという人は、すでに引き返せないところまで来ている可能性が高いです。

 

悪霊

次は『悪霊』へと進みます。思想家など知識人からの評価が高い作品。知識人にドストエフスキーのマイフェイバリットを尋ねると、たいていこれかカラマーゾフのどちらかが返ってくると思います。

テロリストグループを描く話。おそろしく暗いテーマですが、なぜか陰鬱な感じはしない(あくまでもその内容のわりにはですが)

ドストエフスキーの作品って、独特の明るさがあるんですよね。独自のユーモアと、キリストへの信頼がベースにあるからでしょうか。とくに『悪霊』はそれが顕著な気がする。

暗黒の光を放つ傑作です。

 

地下室の手記

東浩紀いわく、実存主義の震源地がこの作品。異常な暗さを誇る問題作です。悪霊とならぶ、深淵のなかの深淵。ヨーロッパの文学者や知識人への影響力では最大の作品かもしれません。

年金をもらい仕事を退職した40代の男が、地下室に引きこもっている。強烈な自意識にさいなまれた彼は、進歩主義がはびこる世の中に対して呪詛を投げつけます。

『悪霊』が巨大な闇だったのに対して、こちらは卑小な闇。しかしそれは、闇の威力が小さいことを意味しません。現代のアンダーグラウンドマンたちの誕生を予言した書です。

光文社古典新訳文庫の荒々しい訳がおすすめ。

 

死の家の記録

これは小説というよりも、ドストエフスキーの体験談に近い。ドストエフスキーは政治犯としてシベリアの監獄に送られたことがあるのですが、本書はその監獄での記録が元になっています。

これが本当にすばらしい作品。孤独、苦役、粗野な監獄住人たち。なぜか癒されます。この本を読むと、ホッとします。学校や職場で地獄のような苦役に耐えている人にはとくにおすすめ。

実はドストエフスキーのインスピレーションの源としても重要な作品です。ドストエフスキー作品に登場する魅力的かつ異常な人間たちの多くは、本書に登場する監獄住人がモデルになっています。

新潮文庫の工藤精一郎の訳文が美しい。

 

白痴

これは恋愛小説といってもいいでしょうか。ドストエフスキーにはめずらしく、恋愛要素に主軸を置いている作品。

これを最高傑作に挙げる人も、たまにいます。たとえば秋山駿は本作を世界文学史上の頂点であると豪語し、加賀乙彦もそれに同意しています。また埴谷雄高は『白痴』でドストエフスキーにハマったそう。

シェイクスピアで例えるなら、本作はオセロでしょうか。『罪と罰』がハムレット、『悪霊』がマクベスですね。カラマーゾフがリア王なのかどうかは…なんともいえません。

 

以上が代表作です

ここまでが代表作です。以上の作品を読んでおけば、ドストエフスキー関連の話についていけないことはなくなるでしょう。

以下はあまり有名じゃない作品になります。

 

白夜

隠れた名作です。恋愛小説に近いけれども、ベタな恋愛が描かれるのではない。そこまで深い関係には至らないけれども、しかしもっと大きな意味をもつ「邂逅」が描かれます。

代表作ではないので後ろに回しましたが、『貧しき人びと』の次、『罪と罰』の前にこれを読んでもいいかも。読みやすさ、分量の少なさ、おもしろさ、初心者に最適な気がしなくもありません。

読むなら光文社古典新訳文庫バージョンがおすすめです。他に収録されている文章も重要なものばかりなので。

 

虐げられた人びと

初期の佳作。ディケンズの『骨董屋』からの影響が色濃い作品です。ドストエフスキーはディケンズから大きな影響を受けた作家ですが、それがここまでストレートに出るのはめずらしいですね。

話の構成も似せていますし、少女ネリーは『骨董屋』のネルがモデルになっています。

この小説、実はかなり面白いですよ。『罪と罰』のスヴィドリガイロフに代表されるような悪魔的人物の雛形もここで登場。後期の大作群を予感させる、ただならぬポテンシャルに満ちた一作です。

 

永遠の夫

ドストエフスキー作品のなかでもっとも知名度のない小説がたぶんこれ。

「永遠の夫」というとなにか大仰ですが、ロシア語のニュアンスとしてはむしろ「万年亭主」みたいな感じらしい。わがままな妻の尻に敷かれる、哀れな夫をテーマにしています。

これ意外と面白いです。読んでいて嫌な感じがする物語ではない(少なくともドストエフスキー好きの感性を持った人であれば)。深層心理の底にまで降りていくような、ドストエフスキー一流の描写も随所に登場します。

 

二重人格

これも知名度が低いですね。主人公のドッペルゲンガーが出現するという、ドストエフスキーにはめずらしくSF的な趣のある作品。

ちなみにナボコフはこの本をナンバーワンに挙げています。ナボコフは逆張りの名人なのであまり発言を真に受けないほうがいいとは思いますが、技巧的に優れた作品であることは確かなのでしょう。

岩波文庫でしか入手できないところが不便。光文社古典新訳文庫から新訳が出てほしいところ。

 

賭博者

ドストエフスキーのギャンブル依存が活かされた作品です。ただ、期待するほどには面白くない。天才ドストエフスキーがギャンブル依存を語ったと聞くといかにもすごいのが出てきそうな気がしますが、実際にはかなり地味な内容です。

ちなみにドストエフスキーがギャンブル依存から脱出した出来事はかなり興味深いです。

どうにもならないところまで追い詰められたドストエフスキーは、藁にもすがる思いで教会に駆け込もうとします。しかしドストエフスキーが駆け込んだそこは、キリスト教の教会ではなく、ユダヤ教のシナゴーグだった。この出来事にただならぬ暗示を読み取ったドストエフスキーは、一瞬で依存症から抜け出したそうです。

 

未成年

ドストエフスキーには5大長編と呼ばれる作品があります。『罪と罰』『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』そしてこの『未成年』です。

5大長編のひとつなのに、あんまり面白くないという謎の存在。そしてドストエフスキー史上もっとも難解な小説でもあります。なにかただならぬ小説技法に挑戦している(そしておそらく失敗している)ということは伝わります。

この本が一番好きというドストエフスキーファンは、おそらくいないでしょう。挫折の危険性がかつてなく高まるので、これは最後に回すべきです。

 

まとめ

以上、ドストエフスキーをどの順番で読めばいいのか解説しました。

基本的にどれも面白いので、最後のほうにリストアップした作品を最初に読むようなことさえしなければ、なんでもいいような気もします。

最低でも『カラマーゾフの兄弟』だけは読んでほしいですね。

一冊しか読みたくないというなら、カラマーゾフをおすすめします。これを読まないままドストエフスキーから離れるのは、あまりにもったいないですから。