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柄谷行人に入門するならこれ【前期~後期のおすすめ本】

2023年11月19日まとめ記事

日本を代表する批評家(哲学者みたいなもの)、柄谷行人のおすすめ本を紹介します。

日本を代表するというよりも、突然変異的な個体と見なしたほうが適切かも。良い意味で日本から浮いた天才です。ちなみに東浩紀の師匠的存在でもあります。

柄谷の本は日本のみならずアメリカや台湾、韓国といった海外諸国でも読まれているのが特徴です。せっかくこのような大物が同時代にいるのだから、読まなきゃ損。

 

柄谷の仕事は大きく前期、中期、後期に分けることができます。

前期はデビューから70年代の終わりごろまで。文学の批評が中心です。

中期はおもに80年代で、哲学的な、高度に理論的な著作が増えていきます。

そして後期は91年のソ連崩壊から現在に至るまでの期間。政治的な関心が強くなり、歴史系に通じる作品が増えていきます。

柄谷に入門するときは、この前期、中期、後期という期間を意識しておくとよいです。

そしてそれぞれの期間においてもっとも読みやすい本(講演録がおすすめ)から入り、次に代表作へと進むのがベストです。

前期の入門には『畏怖する人間』

初期柄谷の入門におすすめなのは『畏怖する人間』(講談社文芸文庫)です。

若き柄谷の文芸批評の仕事が収められている本。

取り扱われるのは夏目漱石、小林秀雄、吉本隆明、埴谷雄高、芥川龍之介、大江健三郎、安部公房、古井由吉などなど(柄谷はマルクスと並んで漱石がバックボーン)。

ご覧の通り完全に文学寄りです。しかしそこは流石に柄谷の著作で、純文学にほとんど興味がない人間(僕のような)でも楽しく読める内容。論理を追っていくだけでおもしろいです。

姉妹編の『意味という病』(講談社文芸文庫)も良書。あちらではシェイクスピアや森鴎外といった文学者が取り上げられています。

 

前期の代表作は『日本近代文学の起源』

次に前期の代表作を読んでいきます。

前期の代表作は『日本近代文学の起源』。これも講談社文芸文庫バージョンが有名ですが、最近では岩波現代文庫からも出ています。

このへんになると西洋の哲学者からの引用も徐々に増えてきます。題材はおもに文学なのですが、やっていることの中身はきわめて理論的。

ニーチェやミシェル・フーコーなどに通じるような系譜学が試みられています。「風景」「病」「児童」といった当たり前のものを見る眼差しがいかに歴史的に構成されていったのかが語られます。

森鴎外と坪内逍遥の「没理想論争」をあつかった「構成力について」も有名。個人的にはこれがいちばんおもしろいと思います。

 

中期の入門には『言葉と悲劇』

中期の入門には『言葉と悲劇』を使います。できれば講談社学術文庫バージョンで。ちくま学芸文庫からも出ていますが、こっちは分量が少ないから。入手しづらいようならちくま版でもいいです。

これはいわゆる講演録で、ですます調のわかりやすい文体で理論的な仕事が解説されます。自分の著作をわかりやすく説明している感じ。

内容は多岐にわたります。

・バフチンとウィトゲンシュタイン
・漱石の『こころ』について
・ドストエフスキーについて
・江戸の注釈学
・世界宗教について
・スピノザの「無限」
・ファシズム(ポール・ド・マン、ハイデガー、西田幾多郎)

…などなど。コアにあるのは哲学的な関心です。この時期の柄谷は後期ウィトゲンシュタインからの示唆を受けていて、自身の前期思想を転回させていく局面にあたります。

なにげに超おすすめ本。あまり深入りせずに済ませたいという人は、代表作よりも、この種の講演録を読んでおくのがいいと思います。

 

中期の代表作は『探求』

次に中期の代表作を読んでいきます。

中期の代表作は『探求』(講談社学術文庫)。第1巻と第2巻がありますが、両方読みます。

ちなみに第3巻が変形したものが後の『トランスクリティーク』という本です(これは別に読まなくてもいい)。

柄谷の本といえばコレという人が多い有名な著作。僕も『探求』がいちばん好きです。

後期ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論の独自の解釈を導きの糸にして、「他者」の問題が追求されていく。

マルクス、フロイト、デカルト、スピノザ、ニーチェ、キルケゴールなど様々な哲学者が料理されていきます。ちなみにヘーゲルとハイデガーとユングは切られ役です(僕はこの3人が好きですが)。

ウィトゲンシュタインが『哲学探究』で初期の自分自身を批判したように、本書は柄谷の自己超克でもあります。柄谷の転回前の考えが知りたいという人は、『隠喩としての建築』を読んでみることをおすすめします(『内省と遡行』は難しいのでおすすめしない)。

 

なお80年代といえばポストモダン思想が日本を席巻した時期で、柄谷はその親玉であるかのように一部では錯覚されていますが、柄谷が日本のポストモダニズムに対してどのような立場を取っていたかは、『差異としての場所』に収録された「批評とポストモダン」がわかりやすいです。

日本のポストモダン思想に対する批判としても決定的な文章がこれです。

関連:日本ではポストモダン思想が機能しない 柄谷行人『差異としての場所』

 

後期の入門には『思想的地震』

後期の入門には『思想的地震』(ちくま学芸文庫)を使います。

これも講演録で、90年代以降の柄谷行人がどのような意図のもとで動いているのかわかります。

・地震とカント
・近代文学は終わった
・デモについて
・幸徳秋水
・帝国の周辺と亜周辺
・哲学の起源
・柳田國男と山人
・批評における移動の重要性

…などなど。『言葉と悲劇』同様に、自身の著作をわかりやすく補完ないし解説するような内容になっています。

ちなみに90年代以降の柄谷は、従来のマルクスに加えて、カントの哲学が重要なインスピレーション源となっていきます。言いかえればカントとマルクスの両面からヘーゲルを批判し乗り越える試みが、この時期以降の仕事のコアにあります。

 

後期の代表作は『世界史の構造』

90年代以降、政治的関心を加速させた柄谷ですが、2001年を過ぎるとさらにスタイルが変化します。

それまでは他の哲学者や文学者が書いた作品を批評しながら、他者の文章に依拠しつつ自分の主張を打ち出していました。しかし21世紀の柄谷は批評的なスタイルを徐々に封印しはじめ、自分自身の理論体系をじかに語るようになります。

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これ以降、日本での存在感が低下していく代わりに海外での影響力が上昇。とくにアジアの指導者に大きな影響を与えている点が注目に値します。これが2022年のバーグルエン賞の受賞にもつながります。

その柄谷の理論体系をもっとも本格的に打ち出している著作が『世界史の構造』。マルクスのヘーゲル批判をやりなおす本です。

現代世界はヘーゲル的なシステム(資本主義・国家・ネーションの三位一体構造)に閉じ込められ停滞しています。

どうやったらこれを抜け出せるのか?

かつてマルクスはヘーゲルを唯物論的にアレンジし、生産様式(経済)の構造変化から世界史を捉えました。しかし現実はマルクスの期待を裏切り、(マルクスにとっては)たんなる派生物でしかないはずの国家や民族や宗教といった次元が強大な力を発揮。マルクスの社会変革の夢は挫折します。

柄谷はこれを踏まえ、生産様式のかわりに4つの交換様式(A,B,C,D)の観点から世界史を捉えます。Aはネーション、Bは国家、Cは経済、Dは宗教。これらの複合体として歴史上の社会システムが捉えられ、また未来の社会が想定されていきます。

 

以降の柄谷はさまざまな観点から『世界史の構造』の体系を補強していきます。とくに交換様式Dの次元が検討されます。

そのなかでも面白さという点で個人的にベストだと思うのは『哲学の起源』。古代ギリシアのイオニアに交換様式Dのヒントが探られます。ソクラテスはアテネによって抑圧されたイオニア的原理の回帰と見なされます。

関連:柄谷行人『哲学の起源』古代ギリシアにおけるアテネvsイオニア【解説】

また『帝国の構造』もその次くらいに面白く、『世界史の構造』よりもこっちのほうがとっつきやすいと思います。ここでは帝国に交換様式Dのヒントが見出されます。

関連:マルクスのヘーゲル批判をやり直す 柄谷行人『帝国の構造』【解説】

 

おまけ 対談集もおすすめ

あまり知られていないマニアックなアイテムとして、『ダイアローグ』(第三文明社)があります。

いわゆる対談集。すごくわかりやすい。そして対談の相手がやたらと豪華です(廣松渉や吉本隆明など)。

柄谷の考えをさらに深く知りたい人はこちらも参考にしてみるのもよいでしょう。