京大四天王の入門書 菅原潤『京都学派』
鎌倉時代の仏教と並び、日本思想史上のピークのひとつをなす、戦前の京都学派。
菅原潤の『京都学派』(講談社現代新書)は、その京都学派の歴史を解説してくれる希少な新書です。
その前史から成立、全盛期、GHQによる公職追放、戦後の再建までが物語られます。
大ボスの西田幾多郎やその片腕の田辺元も解説されますが、本書の主役はむしろ京大四天王のほうですね。
京大四天王とは以下の4人のこと。
・鈴木成高
・高坂正顕(国際政治学者の高坂正堯の父)
・高山岩男
・西谷啓治
この4人の思想や、彼らと西田および田辺との関係が、けっこうくわしく解説されています。
ふたたびアクチュアリティを帯びる京都学派
個人的に高山岩男の『世界史の哲学』に以前から興味をもっていたのですが、やっぱ面白そう。
著者も本書の終盤で述べていますが、現在の世界情勢は京都学派が活躍していたころのそれと類似してきています。世界のブロック化、アジアの台頭…
したがって、高山らの思想がアクチュアリティをもって蘇ってくるところはあるんですね。
実際、本書でも言及のある柄谷行人は、現在の世界情勢をうけて京都学派と部分的に呼応するかのような歴史哲学を打ち出してきています。
また、冷戦直後の1994年にいち早く京都学派的なアプローチ(アジア主義)を打ち出した廣松渉は、さすがの慧眼だったのでしょうね。
ただ京都学派というのは半ばタブー化されているので、なかなか京都学派の継承みたいな議論は出てきませんが。
なぜタブー化されたかというと、戦争に協力的な言動をとったためです。
西田らには近衛文麿や海軍とのつながりがありましたし、戦争のイデオローグとみなされることも多々あります。
実際、京都学派のメンバーには、GHQによって公職追放されたものが何人もいます。
戦後の日本人からしたら、ぜひとも蓋をしておきたい臭いものなわけですね。戦後ドイツにおけるハイデガーと同じです。
ただ1990年以降、海外で西田幾多郎の哲学が評価されはじめ、それに合わせて国内でも再評価の動きが出ている模様。
なぜその時期に西田が注目されはじめたのか?何がきっかけなのか気になるところ。
戦争がなければ、あるいはそれが違った形で展開していれば、日本の哲学はもっとはるかな高みに到達していたかも。そう考えると残念な気持ちにもなりますね。