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【洋書】ベストセラーから古典まで原書で読んでみた【小説編】

2023年11月19日まとめ記事, 洋書

英語多読のために僕が洋書を読み始めたのは2009年のこと。それ以来のべ300冊近くを読みました。

有名どころをいくつかピックアップし、感想をまとめておきたいと思います。時代は古典から現代までさまざま。ジャンルはフィクションにまとめました。

ノンフィクション系の記事はこちら↓

目次

サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』 おすすめ度85

サリンジャーの代表作です。主人公は17歳の少年ホールデン。彼が学校を退学処分となり、家へ帰るという筋書きです。

ホールデンのパーソナリティがこの作品の肝。彼はいわば、人間社会という劇を演じきれないノリの悪い少年です。彼から見ると劇に没入している人間はすべてペテン師に見えます。そんな主人公ホールデンの一人称の語りが本作の魅力になっています。欺瞞に満ちた劇とそこに没入するペテン師たちを、いちいち告発していくようなノリで話は進んでいきます。

サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』というと、なにかおしゃれで外交的なイメージがありますよね。しかし実際に読んでみると、実態はその逆です。社会に没入できない繊細な主人公が、厚顔無恥な社会を告発していく作風。

文章は読みやすかったです。古典にしてはというだけでなく、現代の作家と比べても読みやすいほうだと思います。メグ・キャボットはサリンジャーから影響を受けてそう。

デイヴィッド・シールズとシェーン・サレルノが書いた伝記『サリンジャー』によると、サリンジャーは兵役の後遺症(PTSD)に苦しめられつつ、10年かけてこの本を書き上げたそうです。

そしてそれを後悔したとのこと。あまりの大ヒットゆえ、世間に確固としたサリンジャー像ができあがってしまい、それに振り回されることになったからです。彼はなによりも孤独を欲したといいます。

 

カズオ・イシグロ『日の名残り』 おすすめ度70

ノーベル文学賞作家カズオ・イシグロの代表作の一つ。

正直70ページぐらいまでは苦行に等しかったですね。

まず文章が話に聞いていたほど読みやすくはなかったです。決してスラスラ読めるような類の本じゃないと思う。しかも話の内容も独特な平坦さがあって、あんまり引き込まれない。

しかし70ページを過ぎたあたりから様子が変わりました。

イシグロの文体にも慣れ、さほどの苦労もなく読めるように。内容的にも話の方向性がわかり、徐々に没入できるようになります。終盤にいけばいくほど面白いです。年を取るほどに味わえる作品だと思う。もっと年を取ってから読み返したらさらに楽しめそうですね。

主人公は英国の大屋敷ダーリントンホールの執事スティーブンス。時代は1956年。

スティーブンスが車(フォード)に乗って旅をします。旅のあいだ、彼は過去に思いを馳せる。その回想を読者はともに追いかけることになります。

スティーブンスの一人称の語りに歪みが発生している点がこの作品のポイントの一つ。スティーブンスのナレーションには無意識の嘘が忍び込んでいるのですね。無意識が語りを歪ませるというのはフロイト的な精神分析では常識ですが(無意識による検閲)、小説にこのメカニズムが応用されるのは珍しいのではないでしょうか?

スティーブンスが思い出すのは第二次世界大戦前のダーリントンホール。確固とした価値観が存在し、スティーブンスは執事としての役割を全うしようとしていました。今はもう過ぎ去ってしまった栄光の世界。この世界にはおそらく、イギリスそのものが重ねられているのでしょうね。

現在のダーリントンホールが、アメリカ人のファラデイに所有されていることがそれを象徴しています。アメリカ車フォードを運転して旅をするスティーブンスという構図も、大戦後のイギリスを戯画化したものといえそうです。

ハイライトは終盤のミス・ケントンの台詞。ローカルな文脈を超越する普遍的な魅力を物語に添えています。

なんだか小難しそうなイメージがあってカズオ・イシグロは敬遠していたのですが、読んでみると普通におもしろかったです。

 

ブラックユーモア炸裂の名作 ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』 おすすめ度95

ティムール・ヴェルメシュのLook Who’s Back。『帰ってきたヒトラー』の英訳バージョンです。原書はドイツ語。

あのヒトラーが2011年のドイツに復活するという筋書きでセンセーションを巻き起こした名作(問題作)です。

ヒトラーが帰ってきたというと深刻な事態が想像されますが、基調としてはこれ以上ないほどにユーモラスな本です。

ヒトラーは大真面目ですが、周りの人間は彼を本当のヒトラーだとは認識していない。しかもヒトラーも周りの人間が自分を偽物だと思っていることに気づかない。お互いの認識は食い違ったまま、どこまでもコメディカルに物語は進行します。こういう構成ってドンキホーテが祖なんですかね?

そしてヒトラーが魅力的な人物として描かれる点がポイントのひとつ。

あの弁論の才能とリーダーシップで、ヒトラーはまたたく間に人気者になっていく。しまいにはYoutuberとして大成功を収めます。

本書はヒトラーを風刺しているようにも読めますが、逆にヒトラーによって現代社会を風刺しているようにも読めてしまいます。

どちらが本音なのか?

どちらもというのが真実でしょうけれども、なにかデンジャラスで恐ろしい本に見えてくることも確かです。

英語は難しいです。以前、日本語訳で読んだことがあるので、もっとスラスラ読めるかと思っていました。物語は主人公ヒトラーの一人称で綴られるのですが、ヒトラーは古めかしい文体でしゃべるんですね。戦前日本の政治的文書に出てくる勇ましい文体みたいなかんじ。これが難解さの理由かと思われます。

あと、内容がかなりハイコンテクストな点も厳しいかも。ドイツの歴史や政治にくわしくないと、チンプンカンプンになる場面が多いです。ナチス幹部の名前や行状がバンバン出てきたり、現代ドイツの政情を皮肉っていたりするので。

 

アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』 おすすめ度90

ミステリの女王アガサ・クリスティの代表作のひとつ。

主人公ポアロが乗り合わせた列車で殺人事件が発生。大雪で進行停止になった列車のなか、ポアロは乗車客のひとりひとりに事情聴取を行い、事件の解明を目指します。

正直オチは予想の範囲内でした。それでも最後のシーンで例の女性が喋り始めるシーンは鳥肌もの。情景が目に浮かぶような描写です。

いちばん好きなシーンは、ポアロとブックと医者の3人が、事件の謎を解くために思索にふけるところ。ポアロが真面目に思索し事件解決の糸口をつかむ一方、ブックと博士はあらぬ方向に考えが脱線し、どうでもいいことを頭のなかでつぶやきはじめてしまい、やがてポアロに声を掛けられて我に返るというユーモラスな場面。かなり笑えます。

 

ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』 おすすめ度85

ダン・ブラウンのベストセラー。かなりくだけた文章で、逆に読みづらい部分があります。

急展開に次ぐ急展開で、そこそこ熱中できました。グノーシス主義などのキリスト教関連の小ネタにも興味をそそられます。ただ、根本のテーマは安易だなと思う。これは自分が日本人だからかも。西洋人であれば、このようなテーマに鋭い批評性を感じるのでしょうか。

個人的には場面が次々に切り替わるのは苦手。近年のベストセラーはこの手法が多用されすぎな印象があります。これを誰が始めて、どのように広まったのか気になるところ。

 

シャロン・クリーチ『めぐりめぐる月』 おすすめ度70

文章は平易で読みやすいですが、話の進み方に癖があり、物語に入り込むのが少し大変だった。

ファンタジックな表紙のわりに内容は現実的。主人公の母親と、主人公の友人の母親の家出が、話の中心になります。

どこか捉えどころのない、ふわふわした文章が最後まで続きます。ラストで感動したというレビューが多いですが、かなり人を選ぶ作品だと思われます。

 

ロイス・ローリー『ザ・ギバー』 おすすめ度70

アメリカの作家ロイス・ローリーのニューベリー賞受賞作。文章は読みやすいです。

内容はSF風味のファンタジー。主人公の暮らすコミュニティは記憶や感情が消去された平和な世界。ギバーという役割を与えられた者だけが、過去の記憶を保持しています。学校の卒業式にて主人公はギバーの後継者に選出され、教育をうけることに。

感情を抜きとられた痛みなきユートピアに対して、「それでは真の幸福とはいえない、自分は苦しみごと自由と感情を引きうける」みたいな主張が主人公側から発せられる展開。この展開は日本のゲームなどでもよくあるパターンで、正直またこれかとも思ってしまいました。

僕はそういう主張にあまり説得力を感じないんですよね。現状を正当化するためのイデオロギー的な匂いすら感じてしまいます。

 

ロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』 おすすめ度70

イギリスを代表する児童文学作家ロアルド・ダールの名作。映画「チャーリーとチョコレート工場」の原作です。文章は読みやすい。

明るくテンションの高い作風ですが、児童文学にしては(というか児童文学ならではの?)残酷なシーンもけっこうある。

ダールを読むのはこれが2作目。マチルダを原書で読んで以来でしたが、マチルダのほうが面白かったです。

それにしてもそんなに甘いものばかり食べて栄養は大丈夫なのかと心配になります。ハリーポッターで、チョコレートやココアを飲食してそのまま歯も磨かずに就寝するシーンが何回かありましたが、あれを読んだ時も心配な気持ちになりましたよ。身体に悪くないのか、虫歯にならないのか、と。イギリスの人はそこら辺ルーズなんでしょうかね。

 

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『ハウルの動く城』 おすすめ度60

イギリスを代表するファンタジー作家ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品。ジブリによって映画化もされたので、この作品の存在を知る人は多いと思います。ただし映画版と原作ではだいぶ内容が異なるらしい。

正直なところ、思ってたほど面白くなかったですね。とにかく話に入り込みにくい。文章自体は難しくないのですが、話の展開が唐突なのか、文章のつなぎかたに癖があるのか、内容を理解するだけでもやたら負荷がかかります。

キャラクターにもいまいち魅力を感じられなかったですね。序盤の主人公ソフィーはよかったけれど。ストーリーの進行も遅く、瑣末なエピソードが緩慢に続く感じ。ダイアナ・ウィン・ジョーンズを読むなら他の作品から入ったほうがいいと思います。

 

ダニエル・スティール『アクシデント』 おすすめ度80

アメリカの女流作家ダニエル・スティールが1994年に発表した作品。

主人公は39歳の女性ペイジ。夫の名はブラッド。二人の間には高校生の娘アリソンと、小学生の息子アンディがいます。

順風満帆に見えたペイジの生活ですが、娘のアリソンが交通事故に巻き込まれてから状況が一変します。アリソンは意識不明の重体。一命はとりとめるものの昏睡状態が続き、いつ意識が回復するかもわからない状態に陥ってしまいます。さらに夫ブラッドの不倫が判明。ブラッドは変わり果てた娘アリソンという現実に向き合えず、心はさらに家庭から遠のく結果に。息子のアンディは二人の不仲を自分のせいだと思いこみ、情緒不安定になっていきます。

ペイジの心の支えになったのは、友人のTrygveでした(ノルウェー系の名前で、どう発音したらいいのかわかりません。トリグヴでしょうか)。Trygveは不幸な結婚生活の果てに妻と離婚しており、息子Bjornは軽度のダウン症を患っています。こうした幾多の苦難を乗り越え、いまでは安定した暮らしを送っているTrygve。彼がペイジにとって人生の師匠のような役割を果たしはじめます。ペイジ一家とTrygve一家は交流を深め、ふたりの関係もより親密になっていきます。

そして物語の終盤、昏睡状態に陥ったままのアリソンはついに…

交通事故をテーマにしていますが、被害者本人ではなく、被害者の家族を描いている点が特徴です。プロット自体は平凡ですが、時おり、人物のせりふや場面の描写にはっとするほど美しいものがあり、それがこの作品を単なる通俗小説とは一線を画すものにしています。

 

ジョン・グリシャム『法律事務所』 おすすめ度80

アメリカの作家ジョン・グリシャムの2作目。法律事務所というそっけない題名ですが、内容はかなりスリリング。文章はやや難しめ。ダン・ブラウンと同じくらいか。

主人公のミッチはハーバード卒の秀才。とある法律事務所に入社するも、そこはマフィアとつながりのあるいわくつきの会社だった。ミッチ家族は車のなかでも家のなかでもあらゆる行動や会話が監視・盗聴され、逃れようのない罠に囚われていく。ある日、以前から同社の犯罪に目を光らせていたFBIがミッチと接触を図る。ミッチは彼らと協力する決意を固め、内部告発の準備を始める。やがてミッチ・会社・FBIは三者三様の動きを見せ始め、最終的には三つ巴の様相を呈し…というあらすじ。

ジョン・グリシャムの本は初めて読みましたが、けっこう面白かったです。シドニー・シェルダンよりずっとおもしろい。シェルダンほど通俗的じゃないのが好印象です。といってもテンプレートな描写や展開はいくつもあり、古典級の風格といったものは感じられないけれども。

 

現代版ロビンソンクルーソー アンディ・ウィアー『火星の人』 おすすめ度60

現代のロビンソンクルーソーとも言われる作品。ただしロビンソンクルーソーとは異なり、主人公が置き去りにされるのは絶海の孤島ではなく火星です。

文章はかなり読みにくいです。くだけた口語体で書かれていて、日本の読者からするとそれが逆に分かりづらいんですよね。それにしても現代アメリカの俗語の汚さは尋常じゃない。また科学や工学の専門用語が多く登場するため、それらの知識をもっていないと読みづらさがさらに増すと思います。

主人公の視点だけでなく、主人公を救出しようとする地球の人々の視点も描かれます。ここもロビンソンクルーソーと違うところ。地球側の視点に切り替わると物語が大きく動き出し、面白くなってきます。しかし主な内容は火星で生き延びようと試行錯誤する主人公の独白。主人公が科学的な知見を動員し工夫をこらす様を見て楽しめるかどうか。ここで評価は変わってきそう。

 

ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』 おすすめ度70

アメリカの作家ダニエル・キイスが1966年に発表したSF作品。

SFといっても宇宙やタイムトラベルがテーマになる作品ではなく、知的障害をもつ主人公チャーリーが知能指数を向上させる手術を受け変身していくという内容。ちなみにアルジャーノンというのは主人公と同じ手術を受けた実験用マウスの名前です。

かつての自分が家の窓から自分を見送る中盤のシーンと、かつての自分を窓の外を眺めるように思いだす終盤のシーンの対比が、本作でもっとも印象に残る。思うにこの作品って人生そのものの戯画なんでしょうね。人間、年を取ればみんな能力は発達し、さらに年を取ればみんな衰えていきますから。

文章は読みやすいです。主人公の手記という形式をとっている点が特徴。手術を受ける前の文章はスペルミスなどもあり支離滅裂なのですが、手術から時間が経つに連れて文章も整っていきます。こういう演出も凝ってます。

 

レイ・ブラッドベリ『華氏451度』 おすすめ度70

名作の誉れ高いレイ・ブラッドベリのSF作品。思っていたよりも小ぶりな作品で、新書サイズのマスマーケット版ながらページ数はわずか180弱。文章もとくに難しくはなく、すらすら読了できました。

SFといっても科学技術がばんばん登場するタイプではなく、ややファンタジーに近いです。舞台となるのは本の所有が禁止された世界。ファイヤーマンたちは消火ではなく本を燃やすことが仕事。主人公はそんなファイヤーマンのひとり。

やがて主人公は自分たちの仕事や世界に疑問を持ち始め…という展開。プロットは単純きわまりないけれども、登場人物やかけ合いがどこか幻想的で、独特な作風が構築されています。ふわふわと夢を見ている感じ。

正直いまいち作品に入り込めないまま終わった感はあります。主人公が身の回りの世界との距離感を感じるシーンはとてもよかった。最後のシーンは「歴史を勉強しよう」という気分にさせられる。

 

ロバート・ハインライン『月は無慈悲な夜の女王』 おすすめ度60

SFの名手ロバート・ハインラインによる古典。いつか読みたいと以前から思っていた作品。図書館にも置いてないし、どうせ買うなら原書でと思って原書を買いました。

しかしそれが間違いの元。文章がめちゃくちゃ難しい。メルヴィルなどのガチガチの古典を例外とすれば、僕が今まで読んだ洋書のなかで最難関だったかも。

悪いことに内容も意外と退屈。思っていたのと違いずいぶん軽いノリの作品で、そこは楽しかったけれども、とにかく読み進めるのが苦痛でした。身近な家族グループが革命を起こすという展開は好き。

自分とロバート・ハインラインの相性が悪い可能性はあります。そういえば昔読んだ『夏への扉』もピンとこなかったですね。

 

SFの父H.G.ウェルズの『透明人間』 おすすめ度70

「SFの父」と称されるイギリスの小説家ウェルズの作品。文章は簡単ではないですが、19世紀末の作品にしては読みやすいと思う。同時代のコナン・ドイル「シャーロック・ホームズ」シリーズと同じくらいか。

内容は意外なほど暗かった。なんとなくコミカルな物語やキャラクターを予想していたのですが、実際には物語は風刺や暗示に富み、キャラクターの性格は病的。とくに主人公の透明人間は、反社会性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害の典型例としても通じるような人物です。

 

中国が舞台のノーベル文学賞受賞作品 パール・バック『大地』 おすすめ度80

パール・バックのピュリツァー賞&ノーベル文学賞受賞作品。文章はそれほど難しくない。思いのほかスラスラと読めました。

パール・バックは中国育ちのアメリカ人で、中国語と英語のバイリンガル。本書の内容も19世紀後半から20世紀前半にかけての中国が舞台。主人公ら登場人物もみな中国人です。

農民たちの貧困がテーマとなっていて、彼らが直面する厳しい現実が描かれます。しかし不思議と暗さはない。ドロドロジメジメした感触よりは、むしろどこか壮大な力を感じます。主人公の視点で物語は終始し、社会や政治のことが直接的に言及されることはありません。

ちなみに『大地』における農民たちの貧困描写は、スタインベックの『怒りの葡萄』に通じるものがあるといわれているようです。

 

スタインベック『怒りの葡萄』 おすすめ度70

アメリカ文学を代表する古典のひとつ。パールバックのThe Good Earthがスタインベックの『怒りの葡萄』に似ているという話を聞いて、以前から興味をもっていました。

スティーブン・キングが『書くことについて』でスタインベックの文章を平易な文体の見本と評していたので、原著で読むことに。正直、思っていたよりも難しかったです。アメリカの農民の口語がばんばん使われるため、逆に読みづらい。

それでもしばらく読み進めるとだいぶ慣れてきます。少なくともメルヴィルの『白鯨』のように難解すぎてどうにも読み進められないということはないです。

内容は貧困な農民たちが仕事を求めて旅をするというもの。大家族の面々が主人公で、大型トラックにのってアメリカの大地を移動していく。読んでいると、映画のような情景が浮かんできます。

パール・バックの『大地』に比べると、貧困というテーマはそれほど前面に出てこない印象。むしろ家族愛や同胞愛がテーマとしてあると思う。家族のメンバーもみんな明るい。序盤は元牧師ケーシーの語りが、終盤はトム離脱による心細さが胸に迫る。ルーシーの悪ガキぶりも印象的。

 

ネルと老人の旅物語 ディケンズ『骨董屋』 おすすめ度70

ディケンズ初期の長編小説。非常に有名な作品で、主人公の少女ネルは当時一大ブームといってもいいような人気を誇ったそうです。

文章はむずかしいです。後期の作品ほど読みにくくはない気もしますが、やはりディケンズの独特の文章。

内容に関しては、ネルとその祖父が貧しい暮らしをしているということしか知らずに読み始めました。実際の中身は、借金取りから逃げだしたネルと老人が各地を放浪する旅物語のようなものになっています。骨董屋というタイトルからこの作風をイメージすることはできなかったですね。

ネルは各地で旅芸人や学校の教師など様々な人たちに出会い放浪を続けます。あたかもネルを主人公とするRPGのような趣すらあり、どこかトールキンの指輪物語を思い出します。この作風を生み出す下地はなんだろうと考えてみると、ディケンズが子どもの頃に読みふけったとされるドンキホーテや千夜一夜物語でしょうか?

おそらくディケンズはファンタジー作品を書いても一流だったと思う。現代にディケンズが生きていたら、そういうタイプの作品も遺したんじゃないでしょうか。

日本ではほとんど無名の作品ですが(そもそもディケンズ自体があまり読まれていない、というかもっといえば英米文学自体があまり読まれてない)、世界では非常に名の知れた小説であり、例えばエドガー・アラン・ポーはディケンズの作品のなかでも本作をお気に入りに挙げています。またドストエフスキーの『虐げられた者たち』は本作へのオマージュ作品として知られます(主役のひとりである少女の名前はネリー)。