【洋書】スカーレット・オハラとは何者か『風と共に去りぬ』【書評】

2021年3月18日

アメリカ文学を代表するベストセラー『風と共に去りぬ』。

南北戦争時代の南部アメリカを舞台にした歴史小説です。南部アメリカ、そして歴史小説というところがポイント。

映画バージョンの影響なのか、本書に関してはよく「恋愛小説」と呼ばれますよね。しかし、そのような狭いカテゴリに収まるような作品じゃないことはたしかです。

原作をちゃんと読んだことのある人なら、「恋愛小説」でくくられることに違和感を覚えるはずです。ましてや「スカーレットとレット・バトラーの恋愛を描いた作品」などと総括されては、違和感どころの騒ぎではない。

今回、原書でこの名作を読み返してみて、その思いを新たにしました。

 

マーガレット・ミッチェルの文章は読みやすい

僕が読んだのはWarner Booksという会社から出ているマスマーケット版。真っ赤な表紙のデザインです。正直ちょっとダサいのですが、中古本屋で見かけて、即座に購入しました。

2年前に岩波文庫の日本語バージョンを読んだことがあるので、『風と共に去りぬ』を読むのは今回で2回目。

先に日本語訳で読んだ影響もあるかもしれませんが、文章がめちゃくちゃ読みやすくてびっくりします。1939年に出た本なのですが、今読んでもこんなに読みやすいのかと。

僕が読んだバージョンは1,024ページもあるのですが、スラスラいけます。英語多読の中級者なら、なんの問題もなく読めると思います。

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アメリカ南北戦争を描いた歴史小説

なんども言いますが、これは恋愛小説ではありません。主人公スカーレットの恋愛をその要素のひとつとして持つ、豊穣な歴史小説と捉えたほうが的確です。

序盤はたしかに、ジェイン・オースティンの恋愛小説のような趣でスタートします。

しかし中盤に入ると様子が一変、北部アメリカが攻めてきて、南部は火の海につつまれる。業火から脱出するスカーレットら一行の道のりは、あたかも冒険小説のような様相です。

終盤にはあたかも平家物語を思わせる物悲しさがあります。南部社会の偉大さが、すべて過去のものになっていく。そうしてすべてを失ったスカーレットが発する台詞があの「明日は明日の風が吹く」というものなのです。

1,000ページ以上の大作ですが、まったく飽きない。怖ろしい名作ですね。

なんか20世紀の文学じゃないみたい。19世紀の、たとえばディケンズとかドストエフスキーとかの大作に通じるような風格すら感じます。

 

スカーレット・オハラとは何者か?

この『風と共に去りぬ』という作品でいちばん有名なのは、主人公のスカーレットです。これが強烈なキャラクター。一言でいえば、めちゃくちゃ性格が悪い。

以下、スカーレットの性格の特徴を列挙してみましょう。

・わがまま
・傲慢
・目立ちたがり
・男好き
・女嫌い
・無知
・公共的な領域への無関心

 

よくこの人が主人公で人気が出たなという感じですが、実際スカーレットは文学史を代表する嫌われ者のひとりといってもいいように思います。

それでも作品そのものが嫌われないのは、スカーレットが相応の報いを受け続けるからですね。いつもコテンパンにやられている。

スカーレットのことを「強く美しい女性」とか呼ぶキャッチコピーもありますが、原作をちゃんと読んだ人からすると、違和感全開だと思います。むしろ「どれだけ醜くてもへこたれない女性」と言ったほうが的確でしょう。

 

またスカーレットを「悪女」と呼ぶのもちょっと違和感がある。

スカーレットの特徴のひとつに、「頭の悪さ」があると思うんですね。周りの状況を把握できず、いつも運命や人びとからコテンパンにやられている。

悪というものが成立するには知が不可欠ですから、こういうキャラクターを悪と呼ぶのはちょっと違うと思う。物事を理解し、その上で悪事を行うのでなければ、悪人とはいいづらいのです。

これでもし頭がよければ、いかにもレット・バトラーの女版みたいな感じになって悪女たりえるのですが。しかしそれだと作品の人気はでなかったでしょう。

レット・バトラーの女版みたいな悪女キャラならそう珍しくないですよね。スカーレットが唯一無二なのは、頭が悪いからだと思われます。

 

スカーレット=現代アメリカ人?

スカーレットを見て思うのは、現代アメリカの女性ぽいなということ。

ミッチェルは現代(といっても1939年ですが)のアメリカに典型的な女性を、南北戦争直前の南部アメリカに置いたのではいかという気がしなくもない。

スカーレットは未来のアメリカを表し、メラニーやアシュレーらは南北戦争に敗れ崩れ去っていく貴族的な南部アメリカを表すわけですね。

現代アメリカの女性が南北戦争前の南部アメリカにトリップして、運命に翻弄されながらも成長し、やがて南部アメリカの偉大さを知るみたいな、そういう現代っぽいファンタジーとしても読める気がします。

この場合スカーレットは南部社会のたんなる異分子ではなく、南部の栄光と未来のアメリカを橋渡しするための調停者のような役割を負わされている可能性があります。

そう考えると、メラニーやアシュレーがスカーレットに対してとる肯定的な態度も意味深なものに思えてきます。

 

明日は明日の風が吹く

作品の終盤ですべてを失ったスカーレット。彼女が最後につぶやく言葉があの「明日は明日の風が吹く」という有名な台詞です。

原書では最後の台詞は次のようになっています。

After all, tomorrow is another day.

 

直訳すれば「だって明日はまた新しい一日なんだから」みたいな感じですね。

これを「明日は明日の風が吹く」と訳したのはすごいですよね。おそらく「風と共に去りぬ」というタイトルから風の比喩を思いつき、最後の台詞とリンクさせたのだと思います。