リアリズムの古典 モーゲンソー『国際政治 権力と平和』【書評】

政治

国際政治学にはユートピアニズム(理想主義)とリアリズム(現実主義)の二つの潮流があります。

そのうちリアリズムを代表する古典的作品がモーゲンソーの『国際政治 権力と平和』(岩波文庫)。出版は1948年。

1920~1930年代前半のユートピアニズムの時代が終わり、1930年代後半以降はリアリズムの時代でした。本書はその流れを受け継いだ集大成的な作品です。

ちなみにモーゲンソーはドイツ人ですが、後年には国務省顧問や国防省顧問としてアメリカの対外政策にも影響を与えたそう。

『国際政治』は岩波文庫版で上中下の3巻構成。それぞれの大まかな内容は次のとおりです。

・第1巻…政治的リアリズム6つの原理。国際政治とは権力闘争である。権力闘争の3パターン(現状維持政策、帝国主義政策、威信政策)について。権力闘争はイデオロギーによって正当化され隠蔽される。国力の諸要素(地理、資源、工業力、軍備、人口、国民性、士気、外交の質、政府の質)とその評価について。

・第2巻…バランス・オブ・パワー(勢力均衡)が国際社会に安定をもたらすこと。バランス・オブ・パワーの要素、構造、評価。国際道義と世界世論(17~18世紀は貴族の国際社会が道義と安定をもたらしていだが、19世紀以降は分立する国民国家とナショナリズムの高まりが国際道義の消失と国際的不安定をもたらした)。国際法と主権(国際法が機能するための基盤は利害の一致とバランス・オブ・パワーによる情勢安定)。ナショナリズムについて。現代の戦争(総力戦)について。

・第3巻…軍縮について。安全保障について。国際統治(神聖同盟、国際連盟、国際連合)について。国連は現代の神聖同盟。国連は大国間の一致を前提としているため、大国同士の争いは解決できない。国連のビジョンはアメリカ・ソ連・中国の三国による世界統治だった。世界国家と世界共同体について(後述)。外交について。

近現代西洋の国際政治の例がバンバン参照される構成。世界史好きの人が読んでも楽しめると思います。

 

世界国家の作り方 社会は国家よりも大きい

個人的にモーゲンソーの『国際政治』でいちばん面白かったのは、終盤の世界国家に関する話。

ホッブズの哲学を応用し、国際平和を打ち立てるための世界国家の可能性について検討していくパートです。

ホッブズいわく、国内の平和は国家権力が万人の万人に対する戦いを封じることで成立したのでした。各人が主権を国家へと明け渡し、国家が暴力を独占するという筋書き。

しかし国際社会においては国家のようなメタ的な存在がおらず、万人の万人に対する戦いが現実となっています。

では各国家が主権を明け渡し、世界の平和を保証するようなメタ国家は樹立できないものか?…というふうに話が展開。

 

面白いのは、モーゲンソーが社会を国家よりも重視しているところ。安定した国家が成立するためには、その前にまず安定した社会が成立していなくてはならないと(これはホッブズへの批判にもなっている)。

国家は憲法上の規定の人工的創造物ではない。つまり国家は、統治の幾つかの抽象的原理のイメージのなかで観念されるものではないし、たとえどんな社会が存在しようと、その社会の上に添えられるような代物でもない。そうでなくして、国家は母体である社会の一部であり、社会の盛衰に従って国家も盛衰するのである。国家は社会とかけ離れたものであるどころか社会によって創造されるものなのである。(モーゲンソー『国際政治』原彬久訳)

ということは、世界国家を樹立するためには、まず安定した世界社会が成立していなくてはならないことになります。

混乱した国際社会にメタ国家を被せても、「内戦」や「内乱」が続くだけのこと。

では安定した世界社会はどうやったら作れるのでしょうか?

モーゲンソーはこれに対して、伝統的な外交の復活が必要だと説きます。説得、交渉、圧力からなる伝統的な外交は第一次世界大戦を最後に衰退したのですが、これを復活させなければならないと。

アメリカのウッドロウ・ウィルソン的な理念主導の国際政治をモーゲンソーは嫌っているわけですね。そんなのはむしろ危なっかしくてしょうがないと。

各国がバランス・オブ・パワーのリアリズムのうえで行動し、外交官がたくみに利害を調整することで、国際社会の安定は実現すると彼は考えているようです。

そしてこの安定が世界的なメタ国家という理想の基礎になるというのがモーゲンソーの主張です。

現代日本に暮らしていると知らないうちにユートピアニズム的なバイアスが強くなりがちなので、モーゲンソーのような考え方を学んでバランスを取るのはいいことだと思いますね。

今回数年ぶりにざっと再読してみましたが、思ってたより難しくない感じ。ウェーバーとかシュミットの古典に比べれば10倍読みやすいです。カーの『危機の二十年』やキッシンジャーの『外交』のような読み物としての面白さがないのは玉に瑕ですが。

ついでに言っておくと、日本の政治学界でリアリズムを代表するのは高坂正堯です。中公新書の『国際政治』はロングセラー。

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