社会学の流れをつかむにはコレ 大澤真幸『社会学史』【書評】

2021年2月3日

大澤真幸が社会学の通史を書きました。新書にもかかわらずページ数は約630ページ。常軌を逸した分量です。

社会学に興味のある人が、最初に読む本としておすすめです。

どの分野でもそうですが、まずは全体を把握することが重要なんですよね。全体の流れをつかんでおくと、個々の議論に入りやすくなるからです。

本書については内容の偏りも指摘されますが、最初に全体像をつかむためのアイテムとして見れば、とくに問題はないかと思います。


この本は狭義の社会学だけでなく、社会学の前史まで扱っています。

特に重要なのは古代ギリシアのアリストテレス、近世ヨーロッパのグロティウス、そして社会契約説で知られるホッブス、ロック、ルソーです。

 

また「社会に関する思考ではあるが社会学でないもの」を知ることで、社会学の特徴を理解できます。

本書を読むと、以下のような問いに答えられるようになります。

・なぜアリストテレスの社会哲学は社会学ではないのか?
・なぜロックとルソーの社会思想は社会学ではないのか?
・なぜホッブスの社会思想が社会学前史においてもっとも社会学に近いのか?

 

個々の社会学者の学説もわかりやすいですね。文体はですます調。講義を受けているような感じです。

ところどころで著者による批判や小ネタが入り、それが読者の理解を助けます。論点を多角的な視点で捉えることができるようになるからです。こういう批判や雑談を交えたスタイルというのは、実は単なる要約よりもわかりやすいのです。

 

本書を読めば、以下のような問いに答えられるようになります。

・なぜデュルケムにおいて社会と宗教は等しいのか?
・なぜウェーバーは宗教を合理的なものと考えたのか?
・なぜパーソンズは功利主義を批判したのか?
・なぜルーマンはハーバーマスとの論争について「なにも得るものがなかった」と言ったのか?

 

ニクラス・ルーマンがアリストテレスを知識社会学で料理

個人的に、ニクラス・ルーマンによるアリストテレス解釈に触れている個所がとくに面白かったですね。ルーマンによる知識社会学の実践といった感じ。

アリストテレスの学問はすべて目的論的構造をもっています。

もっとも望ましい状態がピラミッドのいちばん上に来て、その他の状態はピラミッドの下部に位置づけられる。頂点以外の状態はゴールとしてピラミッドのいちばん上を志向するというわけです。

これは彼の社会思想についても当てはまります。都市国家(ポリス)がピラミッドのいちばん上に来て、それ以外のさまざまな社会体制はピラミッドの下部に置かれます。

さまざまなタイプを細かく分類し、それをピラミッド状に配置する。あらゆる要素はピラミッドの頂点をゴ-ルとして目指す。これがアリストテレス哲学の特徴です。

 

20世紀ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンによると、これはアリストテレスが暮らしていた都市国家の社会構造が、彼の理論に反映された結果にほかなりません。

アリストテレスは古代ギリシアの都市国家に暮らしていました。ではその都市国家はどういう社会体制を敷いていたのでしょうか?

実は当時のギリシアは、身分の序列がある成層社会だったのです。ピラミッド型の社会システムですね。

そしてピラミッド型の目的論的哲学は、このような社会と相性が抜群です。この古代ギリシアの社会構造がアリストテレスに影響を与え、その思想を形作ったとルーマンは指摘しているわけです。

 

知識社会学とは、学問や理論がどのような社会構造を背景にして誕生したのかを解き明かす社会学ジャンルです。あらゆる知識を、それが生産された社会構造に還元して考えるわけですね。

ルーマンは知識社会学者ではなく社会システム理論を扱う理論社会学者ですが、彼のアリストテレス解釈は知識社会学の実践現場といえる気がする。

 

ちなみに知識社会学の創始者はカール・マンハイムといわれています。マンハイムの代表作は『イデオロギーとユートピア』(中公クラシックス)です。

もっとさかのぼれば、カール・マルクスの『ドイツ・イデオロギー』に知識社会学の端緒を見ることも可能かもしれません。そうだとすると、戦前日本の哲学者、戸坂潤が書いた名著『日本イデオロギー論』も知識社会学の仕事だといえるかも。

 

マックス・ウェーバーのうつ病エピソードの箇所も面白かったですね。ウェーバーは病気によってむしろ覚醒した感があります。

 

ルソー問題について扱ったパートも面白いです。一般意志とは何なのか?かなりわかりやすい。

 

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社会学史の本は少ない

理論社会学を勉強するには、まず社会学史の全体を把握しておくのが近道になります。

ところが哲学史などと違い、手に取りやすい社会学史の本はあまり存在しませんよね。

一応新書の形態では、『社会学のあゆみ』という知る人ぞ知る本が出てはいます。

しかしこれは中級者向けの内容で、読みやすくありません。しかも書店にはまず売ってない。

大澤真幸が新書という手に取りやすい形態で社会学史の本を出したことには、学習者にとって大きな意味があると思います。