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時間と空間の物理学史 ブライアン・グリーン『宇宙を織りなすもの』

2023年11月22日

ブライアン・グリーンの『宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体』を読んでみました。

サブタイトルにもあるように、テーマは時間と空間

時間と空間は物理的な実体なのか?それとも人間が勝手に使っている概念にすぎないのか?

この問いを軸にしつつ近代以降の科学史を解説していく本。ニュートンとライプニッツの差異にはじまり、マッハとアインシュタインを経て、まだ真実が明らかになっていない超弦理論の最前線にまで読者を連れていきます。

グリーンの本は『エレガントな宇宙』が評判のわりにわかりにくくて、あまりピンとこなかったんですよね。それからずっと敬遠していたんですが、本書を読んでみたらわかりやすくて驚きました。

まあ最後の方はやはりついていきがたくなる話が展開されたりもするんですが、全体として非常にわかりやすくてしかも面白いです。説明の才能ありすぎ。

僕が他人におすすめするとしたら『エレガントな宇宙』よりもこっちですね。ページ数は2倍くらいありますが、それはむしろ解説が丁寧であることの証拠。現代アメリカにありがちな、無駄に具体例をつめこんでページ数をかさ増しする本とは一線を画します。

ちなみに文庫化もされています。

本書の全体の構成は次のとおり。

・第1部「空間とは何か」…ニュートンの絶対時間・絶対空間。ライプニッツの関係説(時間と空間は実体ではない)。マッハの関係説(これがアインシュタインに影響を与える)。特殊相対性理論の時空。一般相対性理論の時空。量子力学で観察された宇宙の非局所性について(遠く離れた物質が瞬時に相互作用する謎)。

・第2部「時間とは何か」…物理学の方程式に過去と未来を区別する指標が存在しない謎。なぜ現実には過去と未来が生じてくるのか。熱力学第二法則エントロピーについて。宇宙の初期状態が時間の向きを決めた。量子力学の時間論(過去が書き換えられるという性質)。測定問題について。

・第3部「時空と宇宙論」…対称性はどこを見て取っても一様という意味。対称性から宇宙の形状を推定できる。ビッグバン直後、宇宙が冷えてヒッグス場ができた。ヒッグス場と物体の質量の関係について。電磁力と弱い核力の分離。インフレーション理論の威力。

・第4部「統一とひも理論」…ひも理論による相対性理論と量子力学の統合について。あらゆる粒子はひもの振動パターンによって生じる現象。ひも理論の革命からM理論の登場へ(空間は10個の次元がある)。ブレーンワールド宇宙論の可能性(この宇宙は複数あるブレーン=膜のなかの一つかもしれない)。重力だけは他のブレーンに干渉できる。

・第5部「空間と時間への新たな挑戦」…テレポーテーションとタイムマシンの可能性。時空よりもさらに基礎的な構造がある可能性。エントロピーの最大値は空間の体積ではなく表面積に比例する(宇宙がホログラムである可能性あり)。ひも理論は素粒子物理学から発展し、ループ量子重力理論は相対性理論から発展した(前者は小から大へ、後者は大から小へと進む)。

 

終盤はまだ定説になっていない物理学の最先端の話なので、ついていくのがなかなかに難しいかも。おいおい本当かよって感じ。

ブレーンワールド宇宙論とかの話を聞いてると、いわゆる「あの世」や「幽霊」に関する領域にまで物理学が迫りつつあるんじゃないかと予感しなくもない(たぶん密かにそう思ってる物理学者もいると思う)。

 

なぜ宇宙は光よりも速いスピードで膨張できるのか

現代物理学が明らかにした宇宙構造のひとつに、宇宙の膨張があります。

遠くの銀河を観察すると、われわれからものすごいスピードで遠ざかっていることがわかるんですね(遠ざかる銀河から来る光がドップラー効果を起こして波長が長くなっている)。

しかも遠くの銀河ほど速いスピードで遠ざかっていることが明らかになっています(本書はここの説明もていねいでわかりやすい)。どれほどの速度かというと、光速よりも速いスピードで遠ざかっているというんですね。

「でも特殊相対性理論によると光の速度よりも上って存在しないんじゃないの?」

…こう疑問をもってたのは僕だけじゃないはず。いっつも違和感あったんですよねこの話。

 

でも本書はここもわかりやすく解説してくれています。

特殊相対性理論がいっているのは、空間のなかを光よりも速く移動できる物体は存在しないということでした。

しかし、宇宙の膨張は空間のなかの運動ではありません。空間そのものが変化しているのであって、空間のなかで宇宙が猛スピードで走っているわけではないんです。

だから宇宙の膨張スピードが光速を上回っても、特殊相対性理論とは矛盾しないとグリーンは言います。

アインシュタインが明らかにしたのは、空間のなかを光よりも速く進むことのできる物体は存在しないということだった。銀河の場合、平均してみれば、空間のなかではほぼ静止している。銀河の運動はほとんどすべて、空間そのものが膨張するせいで生じているのである。そしてアインシュタインの理論は、二つの地点(二つの銀河)が、空間が膨張しているために、光速よりも大きな速度で遠ざかることは禁止していない。(ブライアン・グリーン『宇宙を織りなすもの』青木薫訳)

長年の謎が解けました。この話だけでも、本書の明晰さは伝わるかと。

『エレガントな宇宙』を読んだときは「わかりにくい…なんでこれが高評価なんだろう」と思いましたが、本書はほんとにわかりやすいです。こっちを先に読んだほうがいいかと思います。

僕はそのうち『隠れていた宇宙』と『時間の終わりまで』も読んで見る予定。

なお自然科学系のおすすめ本については以下の記事も参考にしてみてください。