当サイトはアフィリエイト広告を利用しております

【洋書】認知行動療法のバイブル『いやな気分よさようなら』【解説】

2023年11月14日洋書

認知行動療法のバイブルといえばデビッド・バーンズの『いやな気分よさようなら』。またしても再読してしまいました。

初めて読んだときはあの分厚い日本語バージョンでした(たしか2009年)。その後に原書を買い、それから原書で4回か5回は読み直しています。

今回も原書での再読。タイトルはFeeling Goodといいます。半分は英語力キープのため、もう半分はメンタルヘルスのための読書です。

日本語訳はやや堅めの文体ですが、原書はおどろくほどフランクなノリです。読み物として楽しく読める本ですね。

さて、認知行動療法とは何か?次の2点がポイントです。

・うつ病は認知の歪みから発生する
・認知の歪みを正すことで精神的な安定が得られる

感情や精神の問題ではなく、認知の歪みすなわち思考からうつ病が発生すると考える点が特徴です。

したがって認知行動療法によると、認知の歪みを正すことでうつが治ります。

 

単なる思想ではなく、実践で使われ、科学的にその成果が実証されているところがポイント。いまやメンタルケアといえば精神分析ではなく認知行動療法が主流です。

タイトルだけ見るとぬるい本だと錯覚しがちなんですよね。なんか表層的な気分にだけ着目した浅い本なのかな的な。自分はもっと深いレベルを問題にしたいよみたいな。

しかし実際に読んでみるとわかりますが、この本は強烈です。

 

Feeling Good ざっくりと内容紹介

本書の前半はいわば対症療法編であり、認知の歪みを正すためのテクニックが満載です。きわめて実践的な内容。以下のような問題を扱います。

・先延ばし癖を克服する方法
・批判に対して建設的な返答をする方法
・自分の怒りを鎮める方法
・罪悪感をなくす方法

以上からわかるように、うつ病や何らかの精神的な疾患を持っていなくても得るものが多い本です。

 

中盤は自己肯定感の問題に取り組んでいきます。

認知を一時的に改善しても、根っこある自己肯定感がグラついていたら根本的な解決にはならない。そう著者は言います。

前半がいわば対症療法だったのに対して、中盤はもっと根本的な問題にアプローチする感じ。

どうやったら自己肯定感を育てることができるのか?

仕事の成果も、家族の愛情も、名声やお金も、自己肯定感の代わりにはならない。本書ではこのメッセージがなんども繰り返されます。

First, you cannot earn worth through what you do. Achievements can bring you satisfaction but not happiness. Self-worth based on accomplishments is a “pseudo-esteem,” not the genuine thing! My many successful but depressed patients would all agree. Nor can you base a valid sense of self-worth on your looks, talent, fame, or fortune. Marilyn Monroe, Mark Rothko, Freddie Prinz and a multitude of famous suicide victims attest to this grim truth. Nor can love, approval, friendship, or a capacity for close, caring human relationships add one iota to your inherent worth. The great majority of depressed individuals are in fact very much loved, but it doesn’t help one bit because self-love and self-esteem are missing. At the bottom line, only your own sense of self-worth determines how you feel. (David D. Burns, Feeling Good the new mood therapy

社会的成功が自己肯定感を高めてくれるなら、なぜ成功者にうつ病者が多いのか?家族や友人の愛情が自己肯定感を高めてくれるのなら、なぜ精神科に運ばれてくる人々は家族や友人から愛されている人が大半なのか?

自己肯定感を決定するのは自分自身なのだ。これが著者の根本的な主張です。

 

ストア派の哲学をも思わせる領域に近づくシーンすらありますが、実際にそれで成果が出ているのだから説得力はありますよね。

実際ただの思想ではなく、自己肯定感を育てるための実践的なテクニックが次々に解説されていく構成です(リストカウンターを常備して、何かを達成したらどんな些細なことでもカウントしろなど)。

中盤には性格チェックシートみたいなのがついているんですが、これやったほうがいいですよ。

自分がどこに依存しがちなのかわかりますし、それはたいてい自分のセルフイメージとずれるんですよね(「自分は子供っぽい」と思ってたけど、客観的にはむしろ完璧主義に囚われた自律的すぎる大人だった、とか)。大きな発見があります。

 

本書の後半は読まなくていいです。抗うつ剤とかの薬学系の専門的な話なので。

後半を完全に飛ばしてもマスマーケット版で400ページちょいありますから、英語多読の一環としてもおすすめの一冊です。

 

正直、文章はもっと簡単なイメージがありました。しかし読み返してみるとけっこう歯ごたえがあるような気も。

これを初心者向け洋書にカテゴライズしていたのは正しかったのかという疑念が芽生えたり芽生えなかったり。

 

ちなみに日本語版はこちらです。

原書のほうがフランクなノリ、日本語版はちょっと堅めな文章ですね。

原文はちょっとくだけ過ぎなんじゃないかと感じる部分もあるほどなので、トーンを変化させたのはナイスだと思います。

 

続編も原書で読んでみた

ちなみに続編のFeeling Good Handbookも読んだことがあります。

こっちはより具体的な場面に即した記述が多くなっている気がします。

また前作Feeling Goodに比べると、不安障害とコミュニケーションに関する記述が多くなっている印象。

約500ページある本編のうち、不安障害に関する記述が150ページ、コミュニケーションに関する記述が100ページほどあります。

その他は認知行動療法のかんたんな紹介や、行動の先延ばしを治す方法についての記述が大半です。この辺は前作を読んだほうがいいですね。

前作と違うのは本のサイズもそうですね。Feeling Goodは新書サイズで読みやすかったですが、こっちは電話帳サイズなので読んでいると手首が疲れます。

 

『いやな気分よさようなら』のほうが万人向け

Feeling Good Handbookを読んで気になったのが、いわゆる恐怖突入と呼ばれる方法を推奨している点。

恐怖突入とは、なんらかの状況に恐怖を抱える人に対して、その状況に積極的に直面させることで不安や恐怖を取り除くという方法です。

ものすごくスパルタな方法ですよね。しかし不安障害などには確かに大きな効果があり、あの森田療法でもこの方法が推奨されています。

 

しかしこの方法は万能ではないと思うんですよね。

たとえば統合失調症タイプの患者の場合、恐怖突入で大きなストレスがかかったとき、逆に症状が悪化してしまう可能性があるのではないでしょうか?

中井久夫は、森田療法の恐怖突入が統合失調症には逆効果になりうると書いていました。

 

安易にこの本の通りにすることは、かなりリスクが高い気がします。やるにしても、お医者さんと相談しつつ試したほうが絶対にいいです。

この点で、このFeeling Good Handbookは万人向けの本とは言い難いと思います。

やはり人に薦めるのなら前作のFeeling Goodのほうですね。読み物としての完成度もあちらのほうが上ですよ。