『存在と時間』の次に読むべきハイデガーの本【おすすめ7冊】

2021年2月6日ハイデガー

20世紀最大の哲学者といわれるマルティン・ハイデガー。彼の主著といえば『存在と時間』。邦訳が何種類も出ています。

しかしハイデガーという稀代の書き手を『存在と時間』だけで済ませてしまうのはもったいない。彼には面白い作品がほかにもいくつもあるのです。

ハイデガーの作品はほとんどが講義録です。大学で行った講義を収録したものですね。著作(『存在と時間』など)に比べると、とても丁寧でわかりやすい記述になっている点が特徴です。

以下、僕が読んだことのあるもののなかから、特におすすめの作品を紹介します。

なおハイデガーの入門書については以下の記事を参考にしてみてください。

『ヒューマニズムについて』

まずは『ヒューマニズムについて』でウォーミングアップをしましょう。後期ハイデガーの入門に最適の一冊です。

フランスの哲学徒ジャン・ボーフレに宛てた書簡集という形式で、ハイデガーの本にしては異様に読みやすいです。

本文は150ページ足らず。逆に訳注と解説が250ページもあります。訳注と解説もぜひ読んでください。ここだけ抜き出しても良質なハイデガー入門書になります。

ハイデガーは『存在と時間』を書いた後に哲学的スタイルを大きく変えるのですが、この本で得られるのはその転回後の知識です。

なぜフランス人との書簡なのかと思うかもしれませんが、実は第二次大戦後のフランスはハイデガーから多くを学んでいました(なぜ大戦後にフランスの哲学者がハイデガーに傾倒したのかは大きな謎で、興味深いテーマ)。この本はその交流の一環です。

またこの書簡にはサルトル哲学への批判が書かれていて、そこも有名です。

 

『ニーチェ』

世界にはニーチェを論じた書物が星の数ほどありますが、そのなかでもっとも大きな影響を誇るのが、ハイデガーによるこのニーチェ講義です。

ニーチェを西洋形而上学の大成者として見る点が特徴。ふつうにニーチェを読むとそういうイメージは浮かびませんが、ハイデガーが読むとそうなります。これを読んでニーチェの勉強になるかどうかはわかりませんが、ハイデガー哲学の勉強にはもってこい。

ハイデガーの哲学史解釈というのは、どこかフロイトの精神分析を思わせますね。フロイトは患者が語った話を鵜呑みにはせず、むしろそこから背後の無意識を特定する。

同じようにハイデガーは過去の哲学者が残したテクストを鵜呑みにするのではなく、それが内奥に秘めている無意識の構造を再構成するのです。

 

『芸術作品の根源』

こちらも後期ハイデガーを代表する作品のひとつ。ハイデガー哲学のみならず、芸術哲学の全体をも代表する有名な講義録です。

後世に多大な影響を与えた芸術論で、ハイデガーには興味がないけれどこの本だけは読んだことがある人もけっこういますね(とくに芸術畑に)。

分量が少ないため、2冊目か3冊目に読む本として最適。本文はわずか120ページなので、気負わずに読めます。文章も著作に比べるとはるかにわかりやすいですよ。

ありがたいことに、これも平凡社ライブラリーで入手可能。平凡社ライブラリー版にはハイデガーの弟子ハンス・ゲオルグ・ガダマーによる序言も収録されています。

 

『カントと形而上学の問題』

次は『カントと形而上学の問題』。ハイデガーによるカント解釈です。「カント書」の異名で知られる伝説的な作品。

これも多くの哲学者に影響を与えており、ハイデガーの隠れた主著のひとつといってもいいかもしれません。

本書のオリジナリティ、それはカント哲学から想像力の概念をピックアップし、それをハイデガー自身の存在論と接続させる点にあります。

想像力の根源には、時間がある。「想像力と存在」の問題はやがて「存在と時間」の問題へと収斂していくのです。

難点は入手が困難なところですね。これも平凡社ライブラリーに収録されてくれれば最高なのですが。あるいはちくま学芸文庫あたりか。文庫化を強く希望します。

 

『現象学の根本問題』

『存在と時間』が失敗作だったことはご存知ですか?実はあの本は構想の前半だけで頓挫しており、後半は書かれていないのです。

存在について問おう→それにはまず存在を了解している人間という存在者を究明しておこう→次に存在の話に移ろう→実は存在は時間から理解されている

これが『存在と時間』の基本的構想なのですが、実際には人間の話ばかりで存在の話がいっこうに始まらないのですね。そして途中で執筆はストップしてしまいます。

後半はどうなったのか?

その『存在と時間』後半部のやり直しとしてハイデガーが行った講義が、この『現象学の根本問題』です。『存在と時間』の後半部が明らかになるということで、研究者がとくに注目する講義録。非常に重要な作品です。

ちなみに木田元の『ハイデガー「存在と時間」の構築』(岩波現代文庫)という本が、この講義録をもとに『存在と時間』後半部の再構築に努めています。副読書としておすすめ。

 

『形而上学の根本諸概念』

これも強力な講義。地味な立ち位置の作品ですが、普通であれば主著になれるレベルのパワーをもっています。とくに退屈について論じた箇所が有名ですね。

國分功一郎のベストセラー『暇と退屈の倫理学』は、ハイデガーのこの講義を批判的に再構成するものでした。

またノルウェーの哲学者ラース・スヴェンセンも『退屈の小さな哲学』(集英社新書)で本書を取り上げています。スヴェンセンはハイデガーのこの講義を「哲学の最高傑作のひとつ」とまで言い切っています。

この講義は動物について論じた箇所も有名。ジャック・デリダや東浩紀の著作を通して、間接的に触れたことのある人は少なくないと思います。

 

『シェリング講義』

ドイツ観念論を代表する哲学者シェリングについての講義です。

シェリングの『人間的自由の本質』という超難解な作品を取り上げ、事細かに解説していく。それも序文だけに集中します。約370ページのうち、序論だけで240ページ弱を費やしています。

カントとドイツ観念論の関係を、思想の内的発展から説明している箇所が印象的。カントとドイツ観念論の関係について、これほどわかりやすい説明は読んだことがないですね。

またヘーゲルを下げシェリングを持ち上げるというところに、ハイデガーの野心が見え隠れします。スピノザへの言及がある点も珍しく、印象に残る。

カント、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルに関心のある人は必読といえるでしょう。もちろんハイデガー自身の思想を知るためにも役立ちます。

 

カタログとして『ハイデガー読本』がおすすめ

ハイデガーの作品のうち、『存在と時間』以外の良書をいくつか紹介しました。他にもすごい作品はあります。

ハイデガーの作品一覧を見たいときにおすすめなのが『ハイデガー読本』。巻末にハイデガー全集の一覧を載せており、内容の要約まで書いてある。カタログのようにして楽しめます。

本文のクオリティも高く、副読書としてもおすすめです。ハイデガー研究の最前線を知ることができますよ。ただしレベルが高いため入門書としては使えませんね。