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【洋書】『サピエンス全史』を英語で読んでみた【書評】

2023年11月14日洋書

アマゾンでポチったSapiens A Brief History of Humankindが届きました。

日本でもベストセラーになった『サピエンス全史』の原書です。

日本版だと上下巻で3,000円以上するうえに、中古も値下がりしていない。図書館では予約が入りっぱなし。ということで1500円で買える原書を読むことにしたのでした。

著者のユヴァル・ノア・ハラリはイスラエルの歴史学者。

調べてみたところ、イスラエルはヘブライ語が公用語のようです。ただ、英語も普通に使われている模様。ということはこの英語バージョンがおそらく原書なんでしょう。

→Amazonのオーディブルにオーディオブック版もあります

巷で話題になっているベストセラーってたいてい言われているほどたいしたことないんですが、本書は例外でした。そうとう面白い。

どんな内容なのか?

一言でいうと、人類7万年の歴史を振り返る本です。

しかも歴史に対していろいろな視点から重層的に迫っていくのが特徴。人類学、考古学、生物学、文学などの最新知見を総動員し、グローバルな歴史像を構成します。

著者いわく、とくに重要なのは哲学の視点を組み込んでいる点。価値の問題に踏み込み、人間の幸福について真正面から論じます。

ハラリは池上彰との対談で次のように言っています。

この本におけるもっとも重要な問いかけのひとつは、幸福をめぐる哲学的な問いです。こう私は問いました、歴史がすすむにつれて人間はより幸福になったのか?私たちは二万年前よりも幸福なのか、?と。

(『「サピエンス全史」をどう読むか』)

この手の壮大な本って浅いものになりがちですが、本書がその落ちし穴から逃れられている理由のひとつに、この哲学的視点の組み込みがあるように思います。

 

ホモサピエンス全史を区画する3つの革命とは?

『サピエンス全史』の原書ですが、文章は非常に読みやすいです。

しかもかなり個性的なノリがあります。風刺を効かせまくるタイプ。

とくに冒頭のページはすごく気の利いた構成になっていて、本書の内容をざっくりと要約してくれてもいますから、何回も読んでみることをおすすめします。

僕は続きを読み始める前にこの冒頭のページを数回音読することを習慣にしていました。本書を読み終わるころには、余裕で暗唱できるとこまでいきます。

最初のページをちょっと引用してみましょう。

About 13.5 billion years ago, matter, energy, time and space came into being in what is known as the Big Bang. The story of these fundamental features of our universe is called physics.

About 300,000 years after their appearance, matter and energy started to coalesce into complex structures, called atoms, which then combined into molecules. The story of atoms, molecules and their interaction is called chemistry.

about 3.8 billion years ago, on a planet called Earth, certain molecules combined to form particularly large and intricate structures called organisms. The story of organisms is called biology.

About 70,000 years ago, organisms belonging to the species Homo sapiens started to form even more elaborate structures called cultures. The subsequent development of these human cultures is called history.

(Yuval Noah Harari Sapiens A Brief History of Humankindより引用

こうして7万年前にホモサピエンスの文化的歴史が始まったわけですが、その歴史は3つの革命によって分けられるとハラリは主張します。

第一は7万年前の認知革命。第二は1万2千年前の農業革命。そして最後に500年前に始まり現在も進行する科学革命です。

この3つの革命的事象がホモサピエンスの歴史に対して与えたインパクトを物語るのが、『サピエンス全史』の内容です。

 

認知革命の章では、人が言語によるシンボル操作を獲得したことで、他の人類種(人類はホモサピエンス以外にも存在しました)や動物たちから抜きん出たプロセスが説明されます。

とくに重要なのは、ホモサピエンスが「無」の概念に目覚めたことです。

無というのは「そこにない」ということ。これがフィクションの語りを可能にします。

最大のフィクションが神話であり、それが巨大な社会共同体の構築と維持を実現させます。これが他の動物に対するホモサピエンス最大の強みとなりました。

前述の『「サピエンス全史」をどう読むか』では、この認知革命のパートがもっとも重要だと述べている学者が多かったです。

 

農業革命の章では、農業が史上最大の詐欺であったことが説明されます。

農業革命の結果、人類は全体としては豊かになりましたが、一人ひとりの生活は辛く厳しいものになりました。ここを読むと、農業に対するイメージが一変します。

個人的にはここが一番おもしろかったですね。

 

科学革命の章では、科学がいかに発展してきたか、そして最新テクノロジーが僕たちをどこへ連れて行くのかが語られます。科学・国家・資本主義の結びつきに多くのページが割かれます。

著者は「科学技術と文明の進歩は人類の幸福を増大させたのだろうか?」という視点をもちこみ、それに対して「NO」と判断します。

このペシミスティックな論調が、本書の特徴および魅力のひとつになっていると思われます。

 

個人的にいちばん面白かったのは次の農業革命のパート。

ハラリいわく、農業は史上最大の詐欺です。人間を豊かで幸福にすると思われたそのプロジェクトは、予期せぬ結果を招き寄せ、ホモサピエンスを不幸な動物へと変貌させます。

人間って狩猟採集生活に合わせて設計されてるんですよね。体も心も。農業と定住生活は人間にとってきわめて不自然な生活なのです。農業=人間の自然みたいなイメージがありますが、それは間違いです。

むしろ狩猟採集生活こそが人間の自然であり、逆に農業は近代以降の産業社会の母体といってもいいでしょう。

農業革命以降のホモサピエンスは、身体的にも精神的にもきしんでいきます。

 

科学革命については、ハラリは悲観的な見通しです。

様々なテクノロジーを使いこなせるようになったホモサピエンスですが、はたしてその幸福度は少しでも上昇したのかと問うんですね。

力を何に使うのか?

資本主義に組み込まれた近代科学は、その目的設定ができないままただひたすら突き進みます。それは環境も人間自身もボロボロに破壊しているだけで、幸福度の上昇にはつながっていないのではないかとハラリは言います。

 

本書は全体としてペシミスティックな論調が強めで、資本やテクノロジーが描くバラ色の未来的なものに冷や水を浴びせかけるような面があります。

おそらくそれがウケたんでしょうね。大阪万博のころならいざしらず、現代では未来の社会やテクノロジーに幸福を託すような気分はほとんど存在しないと思います。少なくとも先進諸国では。それがハラリの本がヒットする土壌になったのではないでしょうか。

ただ悲観的な世界観が行きすぎているきらいはあるので、過度の影響を受けないように注意したほうがいいかとは思います。

たとえばハラリは無神論者なんですが、日本人の大半のようなゆるいノリではなくて、無神論という宗教の信奉者なんですよね。

ユダヤ教社会のなかでマイノリティを貫こうとすれば(ハラリはイスラエルのユダヤ人)、日本人のようなゆるいノリでは生きられず、確固とした強い信念で自分を支える必要があるのでしょう。

「聖書に書かれていることはすべてウソ!宗教はすべて人間が作り出したおとぎ話!宇宙には意味なんてない!」…みたいなドグマを信仰しているタイプです。

たしかにそれが真実である可能性はあります。が、真実でない可能性も当然ある。

どうせ無根拠な信仰をもつのであれば、もっと健康的な可能性に開かれていたほうがいいんじゃないかなと個人的には思います。

 

歴史を学ぶ意味とは何か?

本書の著者ハラリは、歴史について独特の見方をもっています。彼によると、歴史を学ぶ意義とは、歴史の偶然性を知ることにあるというのです。

どういうことでしょうか?

一神教(キリスト教やイスラム教)が世界中に広まり、西洋人が制度を作り、資本主義と民主主義がベースになっている。

僕たちの生きる世界はだいたいこんな感じですよね。そして現在だけを見ていると、それがあたかも当然であるかのように感じます。

他の可能性があったとは感じられないし、未来が他のルートに逸れていくこともイメージできない。

しかし歴史を学ぶことでこれが変わります。

一神教が広がったことも、西洋が覇権を握ったことも、資本主義や民主主義が誕生したことも、決して当たり前ではなかったとわかるのです。

現在の世界は必然的なものではなく、偶然の産物であること。そして将来は不確かな偶然性に支配されていること。歴史を学ぶことでそれに気づける。

これがハラリの主張です。ヘーゲルとはまったく逆の歴史観になっています。

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