『神へ帰る』死後の世界を神が解説【書評】
『神へ帰る』を読みました。ニール・ドナルド・ウォルシュの「神との対話」シリーズ最終巻。
アメリカ人のニールが文字通りに、紙面上(本作はパソコンのブラウザ上か?)で神と対話する作品。
最終巻のテーマは「死」です。
僕はこのシリーズを読むのが今作で4冊目。第一巻と第二巻、そして『神との友情』は読んだことがあります。
その4冊のなかでは、これが出色の出来だと思いました。これはたぶん何度も読み返すことになる気がする。
僕は宗教書をけっこう読むんですね。ただし一流とされているものだけですが。
たとえば本書と重なるテーマに触れた作品としては、パラマハンサ・ヨガナンダの『あるヨギの自叙伝』とか、ソギャル・リンポチェの『チベットの生と死の書』とか。
しかし今まで聞いたこともなかったような内容が、本書にはかなり書かれています。この分野にある程度なじんだ人でも、読むとびっくりすると思う。
たとえば「人はたいてい一生のうちに何度か死ぬ」という話。これはたぶん初耳。
燐廻転生するとか臨死体験をして戻ってくる人がいるとかはありふれていますが、ほとんどの人が一生のうちに何度か死ぬというのは初めて聞きました。
本書にはそのような、驚天動地の教えが数多く述べられています。
むろん、オカルト的な好奇心を満足させるのが本旨ではなく、読者の精神性を高めてくれるようなエネルギーも強力に秘めています。
明るい本
この『神へ帰る』ですが、全体的には明るい内容といっていいと思います。
神は死のことを「死はほんとうにエキサイティングでワクワクする事態だよ」みたいに言っていますが、実際そういう気持ちが芽生えてくる人が多いと思う。
ただおそらく例外はあって、「この自分」が消失することに恐怖を感じるタイプの人(西洋人に多い)は、本書を読んでもあまりなぐさめられないかもしれません。
どうしてかというと、死後の自分と今の自分が、今日の自分と昨日の自分のようにつながっているかは疑問だからですね。
むしろ昨日見た夢のなかの自分と、目覚めた今の自分の関係に近いと思われます。
夢のなかの自分はどこへ行ったのか?目覚めた今の自分からしたら、消えてしまったに等しいですよね。
おそらくあの世で目を覚ました本当の自分は、人生を生きているこの今の自分を、まさに夢の中の出来事のように思い出すのでしょう。
その場合、人生を生きている今のこの自分は、やはり夢のように消えてしまうというのが適切かと思います。
また、輪廻が永遠に続くという話も人によって印象が変わりそうですね。輪廻から抜け出して無へ至りたいと感じるひとも、少なくないと思います。
ただしこのような恐怖や不安は、限られた視点から生じる錯覚なのでしょう。リアルなものではないのだと推測できます。
推測したからといって、錯覚が消えるわけではないのですが…
それから『カラマーゾフの兄弟』でイワンが述べるような「個と全体」の問題は、やはりこのシリーズにおいても鳴り響いています。
要するに「夢の中の個に人権はないのか」みたいな話ですね。最終的にハッピーエンドが訪れるにしても、この苦しみや不幸を受け入れたくはないというような。
たとえば清廉潔白な人間がひどい事件に巻き込まれて、非業の死をむかえたとする。全体としてみればその死には意味があり、また本人の魂も死後の世界でそれを理解している。
しかしそれでも、夢の中においてその苦しみは当人にとってリアルだったわけですよね。その苦しみは、チャラにしてしまえるのだろうか?
たぶん死んだら(イワンも含めて)みんな納得するんでしょうけれども、夢のなかにいるあいだは、一部の悟りを開いた人間以外には無理ですね。
対話だからおもしろい
社会学者のマックス・ウェーバーは、預言者を2つのタイプにわけました。ひとつは倫理的預言者、もうひとつが模範的預言者です。
倫理的預言者というのはユダヤ・キリスト教の預言者あるいはイスラム教のマホメットのように、神から言葉を聞いてそれを伝えるタイプです。
一方で模範的預言者は、ブッダのように、悟りを開いて自分の経験を教えるタイプ。
「神との対話」のウォルシュは、もろに前者ですよね。エックハルト・トールみたいに悟りを開いてその体験を語るというのでなく、ごく普通の人が神からの語りかけを伝達しているのですから。
まさに聖書に登場するような預言者のような存在なわけで、東洋人からするとこういうタイプはかなり珍しく思えます。
そして重要なのは、ニールが神との対話をそのまま掲載している点です。読者はニールの一人称の語りではなく、ダイアローグを読むことになるんですね。
これが本書のおもしろさのカギだと思います。
神の言葉が上から降ってくるみたいな形式では書かれていないわけです。むしろしょっちゅう、ニールが神にツッコミを入れる。
それはおかしい、納得できん、もうやってられんみたいに。
これが劇的な効果を生み出し、本シリーズを比類のない存在にしていると思いますね。