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純文学嫌いが選ぶ日本文学おすすめ12冊【古典から現代まで】

2023年11月22日まとめ記事

日本は小説の地位が高く、読書=小説を読むことと見なされる風潮すらあるほどです。

しかし読書家がかならず小説好きかというとそうとも限らないんですよね。

実際、僕はかなり読書するほうだと思いますが小説は苦手です。とくに日本の小説、なかでも純文学にカテゴライズされる作品は苦手です。

とはいえお気に入りの日本人作家を見つけたいという気持ちはあって、今まで色々と読んではきました。

以下、そのなかからおすすめの名作を紹介したいと思います。純文学系に苦手意識のある人でも読みやすいものが揃っていると思います。

夏目漱石『坊っちゃん』

夏目漱石は後期の『こころ』などシリアスでいかにも純文学然とした作品が有名で、そのせいで漱石自体にそのようなイメージをもってる人が多いと思います。

しかし漱石は実はきわめて多彩な作家であり、時期によって作風が違います。

おすすめしたいのは初期の作品。とくに『坊っちゃん』はユーモラスな面の強い傑作です。

主人公は青年教師。真っ直ぐすぎる性格の彼は、赴任先の愛媛の学校で周りの人びとと折り合いをつけられず、あれやこれやのトラブルを巻き起こしていきます。

初期といえば『吾輩は猫である』が有名ですが、あれは見た目に反して難しいのであんまりおすすめしません。通読は根気がいります。

『坊っちゃん』以外の作品なら『坑夫』もおすすめ。これは暗いといえば暗いんですが、嫌な感じはしないです。世を捨てた若者が坑夫たちの地下世界に入門するお話。ドストエフスキーの『死の家の記録』に通じるものもあります。

 

谷崎潤一郎『細雪』

日本文学は短編が得意(というか長編の構築が苦手)とよくいわれます。しかし例外的な傑作はあって、そのなかでもとくに評価が高いのが谷崎潤一郎の『細雪』です。

谷崎は日本文学史を代表する天才のひとり。和辻哲郎が友人谷崎の才能を目の当たりにして小説家になる夢を捨てた(そして哲学者になった)というのはけっこう有名な話。

谷崎といえば純文学のボスといったイメージもありますが、本書『細雪』は代表作なのに異色作という点がポイント。朝ドラみたいな爽やかな作風なのです。

舞台は戦前の大阪。主人公は旧家の四姉妹。三女の雪子のお見合いエピソードを中心に、四姉妹の日常が物語られていきます。大阪弁が駆使されるところも本書の個性(そのせいでよけい朝ドラぽいのかも)。

谷崎はエッセイも面白いです。彼には実はユーモアがあって、それが発揮されるのがエッセイ。文庫の『陰翳礼讃』に収録されたエッセイから入ってみるのがよいでしょう。

 

梶井基次郎『檸檬』

名前だけはやたら有名な作品。実際に読んだことのある人はあまり多くないと思います。

実は哲学的な小説です。ドロドロした情緒的なトーンが薄く、理知的な雰囲気を漂わせている系。日常の小物が象徴性を帯び思想的なシンボルとして機能します。あんまり日本っぽくない作風なんですよね。

日本文学が苦手という人ほど梶井基次郎と相性が合う可能性は高いと思います。檸檬は超短編ですぐに読み終わるので、試しに一読してみることをおすすめします。

 

壺井栄『二十四の瞳』

舞台は瀬戸内海の小学校。主人公は新任の女性教師、大石先生。大石先生と12人の小学生たちのふれあいを描いた名作です(過去11回、映像化もされています)。

反戦文学の代表作みたいな取り上げられかたをされることも多いのですが、そういう堅苦しいテーマ性を抜きにしてもたいへん味わい深く、感動的な小説。

読んでて懐かしさも覚えます。小学生時代にタイムスリップしたかのような感覚。子どもが好きな人は必読かと思います。

 

内田百閒『百鬼園随筆』

内田百閒は夏目漱石の門下生のひとり。おすすめしたいのは小説ではなく彼のエッセイです。

ユーモアがあって笑えます。日本の作家ってユーモアの達人は多くないのですが、内田百閒は強力な例外のひとりです。とくに「居睡」と「フロックコート」はものすごい。

内田は借金地獄に悩まされたことでも有名。その借金だらけの生活の苦労もユーモラスなタッチで描かれます。なぜか読者を慰めるような効果があります。

ラストの「梟林記」は短編小説。ミステリアスで異様な読後感を残す幻想小説で、これもおすすめできます。

 

土屋賢二『ツチヤの軽はずみ』

土屋賢二はおそらく日本史上最強のユーモアエッセイの書き手。内田百閒も笑えましたがこの人はそのさらに上をいきます。

本職は哲学者で、ユーモアエッセイの連載を始めたころはお茶の水女子大の教授でした。読者層は幅広く、作家や哲学者にも土屋賢二から影響を受けている人がいます。でも他の人が真似ると本人のような切れ味が出ないんですよね…

とくに初期の方の作品がおすすめ。

試験監督というものは簡単そうに見えるが、だれにでもできるというものではない。とくに生後3ヵ月まではまず無理だ。監督者はマニュアルに書いてある通りのことを読み上げることができなくてはならない。しかもふりがなはふっていない。大学教師には難しすぎると判断したのか、事前に説明会で入念な説明を受ける。本当ならリハーサルを五回はやってくれないと不安なところだ。
試験室は緊張がみなぎり、受験生の熱気がひしひしと伝わってくる。とても麻雀をする気にはならない。試験が始まると、問題に取り組む受験生の真剣さでさらに空気は張りつめる。聞こえるのは、さらさらと鉛筆で誤った答えを書きこむ音ばかりだ。針が落ちても聞こえるというが、一メートルくらいの巨大な針が落ちたら聞こえただろう。

(土屋賢二「涙の試験監督」)

関連:ユーモアのある作家といえば誰?

 

恩田陸『月の裏側』

恩田陸は独自の世界観をもった作家で、なにを書いてもミステリアスで幻想的な雰囲気が立ちこめてくるところがあります。

特におすすめしたいのが『月の裏側』。この作家の魅力的なところがはっきりと現れている作品だと思います。『光の帝国』とどちらを挙げるか迷いましたが、個人的な好みでこっちにしました。

ミステリアスを通り越して若干ホラーな展開、世界観を見せる作品になっています。ちょっとSF寄りといってもいいかも。異様な読後感を残す、隠れた名作です。

 

小野不由美『十二国記』

ファンタジーならこれが最強。1992年に刊行開始され、いまだにシリーズが続く超人気作です。

現実世界と別の異世界が存在し、そこには十二の国があります。各国にはひとりの王、そして王を補佐する「麒麟」があてがわれ、それぞれの流儀で民を統治しています。

第1巻の主人公は十二国へと連れ去られた女子高生。シリーズ全体に言えることですが、世界観を地味に掘り下げる本格ファンタジーではなく、キャラに焦点を当て、マンガ的ノリで猛スピードの展開を見せるキャッチーな物語です。どれを読んでも面白い。

ちなみに本格寄りのファンタジーでは上橋菜穂子の「守り人シリーズ」が読みやすく、海外でも高く評価されています。

関連:十二国記で打線組んでみた【どれが一番面白いのか】

 

宮部みゆき『ブレイブストーリー』

これもファンタジー系。宮部みゆきはゲーム好きで知られますが、ついに自らRPG風の物語を書いてしまったという作品がこれ。

現実世界と異世界が交差するタイプの世界観で、その点では十二国記やハリーポッターに近いタイプのファンタジーです。やはり全盛期の宮部というのか、こういうのを書かせても異様に面白いです。英訳されて海外で賞もとったらしい。ちなみにPSPでゲーム化もされています。

宮部みゆきなら『蒲生邸事件』や『龍は眠る』など80~90年代の作品も面白いと思います。『理由』とか『模倣犯』あたりになると重くなってきます。

 

佐藤優『獄中記』

日記も文学に含まれます。とくに日本では古くは紀貫之の『土佐日記』、戦前なら永井荷風の『断腸亭日乗』、戦後は武田百合子『富士日記』といった作品が、古典的な地位を確立しています。

僕が一推ししたいのは佐藤優の『獄中記』です。

佐藤は元外交官。2002年に逮捕され、512日間の勾留生活を送ることになります。拘置所内で哲学書や神学書、語学書などを読みまくり、政治や社会についての思索を深め、読書ノートに彼はそれをつづっていきます。その成果が本書。

これがなぜか異様に面白い。佐藤の著作はどれもそうですが、読者を奮い立たせるような謎のエネルギーに満ちているんですよね。堅い話ばかりではなく、拘置所のルーティーン(食事や運動)や学生時代の思い出についてのエピソードがいいアクセントになっています。

佐藤はのちに自伝的な要素の強い小説をいくつも書いて賞も受賞していますが、いちばん面白いのは『獄中記』だと思います。

関連:佐藤優『獄中記』なぜかやる気が湧いてくる本

 

『ポケット詩集』

詩集ならここから入るのがおすすめ。戦前、戦後の日本の詩人の作品から代表的な作品を集めたアンソロジーです。シリーズになっていて全3巻。

第1巻の収録作家は以下の通り。

・宮沢賢治
・茨木のり子
・まどみちお
・辻征夫
・大岡信
・吉野弘
・三木卓
・草野心平
・阪田寛夫
・工藤直子
・石垣りん
・長田弘
・岸田衿子
・濱口國雄
・山之口貘
・井上ひさし
・高橋睦郎
・会田綱雄
・新川和江
・河井酔茗
・真壁仁
・栗原貞子
・与謝野晶子
・谷川俊太郎
・川崎洋
・高村光太郎
・金子光晴

まずこのシリーズから入門し、相性の良さそうな詩人を見つけたら次はその人の詩集を読んでみる、という順序で進むのがいいと思います。

 

小川未明『童話集 赤いろうそくと人魚』

日本の児童文学といえば宮沢賢治が有名ですが、彼と双璧をなす、あるいはそれ以上の評価を与えられている作家が小川未明です。本書は彼の代表作を集めた短編集。

ロマンチックで幻想的な世界観が特徴。ヒューマニズム精神に満ちた感動的な短編がある一方で、ミステリアスで妙にホラーな奥行きを示す怪作がちらほら登場します。とくに「大きなカニ」の怖さは異常。

宮沢賢治だとか、あるいは全盛期のドラえもんなんかでもそうですが、一流の児童作品って謎の怖さ、不気味さを漂わせていることが多いですよね。本書にもそれが見られます。

 

以上、日本文学のおすすめ本でした。新しい良書を見つけたらアプデしていきます。

なお海外文学のおすすめはこっち↓