海外文学ならこれを読んでおけ【おすすめ名作13冊】
海外の小説はどれを読んだらいいのでしょうか?
僕は日本文学よりも世界文学のほうが肌に合うらしく、読んだ冊数も海外作品のほうがずっと多いと思います。たぶん500冊ぐらいは読んでるんじゃないかと。
英語の勉強もかねて洋書で読んだ小説もけっこうあります。
以下そのなかから古典から現代作品まで、とくにおすすめの小説を紹介していきたいと思います。
最近はnoteに書評とか書いてます↓
ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』
19世紀イギリスの小説家ディケンズの自伝的作品。
ディケンズは英国を代表する小説家で、日本でいうと夏目漱石みたいなポジションです(大衆小説寄りで、そのためコアな純文学層から軽んじられていたところも似てる)。
個人的にはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』と並び、この『デイヴィッド・コパフィールド』が世界文学でもっとも面白い本だと思います。
モームが『世界の十大小説』で言うように、ディケンズの長所はユーモアと人物造形にあります。これが本当に強力無比。
なかでも本作に登場するミコーバー氏は魅力的にすぎる。モームいわくこのキャラクターはシェイクスピアのフォールスタフと並ぶ喜劇的人物とのこと。
ちなみに吐き気を催すような邪悪ユライア・ヒープも本作の登場人物です。
『デイヴィッド・コパフィールド』のユーモアはディケンズ作品のなかでもとくに強烈で、声を出して笑ってしまうシーンがしょっちゅう出てきますね。もちろん涙を誘うシーンも、絵画的な美しさをたたえたシーンも数多く出てきます。
読むならユーモアの訳出が見事な岩波文庫バージョンがおすすめ。
関連:世界文学最高傑作のひとつ『デイヴィッド・コパフィールド』
ジェイン・オースティン『高慢と偏見』
女流作家の頂点に君臨するジェイン・オースティンの代表作。
オースティンは18世紀前半のイギリスの人ですが、本作は現代にいたってもなお大衆的な人気を誇り、映画化もしょっちゅうされています。
この小説は本当に面白いですよ。僕は最初に新潮文庫で読み、想像していた以上に面白かったので、続いて原書も買って読んだほどです(英文は非常にむずかしい)。
恋愛小説なのだけど、恋愛小説に興味のない人間が読んでも楽しめるところがすごいです。
各登場人物の造形が上手すぎる。とくにエリザベスのキャラクターは奇跡的であり、強さと爽やかさを兼ね備える稀有な女性主人公として輝きを放ちます。
ちなみにモームはオースティン作品のなかで『説き伏せられて』と本書が双璧をなすという評価を与えています。逆に『エマ』に対しては辛辣で、笑ってしまいます。これは僕も完全に同意見。
関連:ジェイン・オースティンの6大小説を読んでみた【最高傑作はこれ】
デフォー『ロビンソン・クルーソー』
無人島に取り残されたロビンソン・クルーソーがサバイバル生活する話。
だれもが知っている作品。でも実際に読んだことのある人は少ないと思います。
実はこれが本当に面白い。内容的に面白いだけでなく、文章が最高で、英国的なユーモアが炸裂して笑えます。1719年当時すでにこのようなユーモアがあったのかと驚き(ひょっとすると本書が源流?)。
下巻はやや退屈なので無理して読む必要はありませんが、上巻だけでも読んでみるもことをおすすめします。
ちなみに同じくらい有名なスウィフトの『ガリバー旅行記』は、意外と難解で読みにくく陰鬱で、物語としての面白みも薄いのでおすすめしにくいです。
バルザック『ゴリオ爺さん』
19世紀フランスの文豪バルザックの代表作です。
モームはバルザックを最大の天才と言い切っています。最大の長所は作品の多さとのこと。上の下から上の中ぐらいの作品を連発できるタイプです。
またバルザックがロマン主義者であったことを指摘しているのも興味深し。ロマン主義とは超簡単にいえば現実嫌いのことで、現実を超えるなにか大きなものに惹かれる傾向のことをいいます。僕がイメージしていたバルザックと違う感じ。
バルザックは人間喜劇というシリーズを思いつき、そこですべての作品がシリーズの一部を成し登場人物などが共通するという構成を発明しました。現代のエンタメ作品ではわりとよくある手法ですが、この手法を発明したのがバルザックです。
僕が唯一読んだことのあるバルザック作品がこれ。けっこう読みやすかったですね。パリという都を舞台に、俗人たちの欲望がうずまきます。
ホーソーン『緋文字』
アメリカ文学を代表する作品のひとつ。出版は1850年。
アメリカ文学というジャンルでわれわれが想像しがちなカラッとした殺風景な作風とは違い、むしろ形而上的なテーマ(罪と許し)にかかわる深遠な内容です。ちょっとドストエフスキーっぽいところも。
主人公ヘスター・プリンは姦通の罪で社会から追放された女性。ヘスターの娘がパール。パールの父親が牧師ディムスデール。そしてヘスターの夫であり復讐の鬼と化した医師チリングワース。
この4人が物語を動かしていきます。妖精のようなパールの放つ魅力は異常。
ゴシックロマンのジャンルにくくられることもありますが、そこに閉じ込めるにはあまりに宗教的すぎる。しかしキリスト教小説と見なすにはあまりにもロマン派に近い。キリスト教とロマン派が融合した異様な迫力のある小説です。
ハーマン・メルヴィル『白鯨』
19世紀アメリカの小説家メルヴィルの代表作。アメリカ文学最大の古典とも言われます。
メルヴィルは相当に破天荒な性格だったらしく、若い頃には家出をして船に乗って世界中を旅したそうです。『白鯨』に登場するような生活を実際にメルヴィルがしてたんですね。
ホーソーンと親しくなる機会もあったそう。メルヴィルはホーソーンに熱烈なリスペクトを表し、『白鯨』をホーソーンにささげています(ホーソーンは白鯨を気に入らなかった模様)。
『白鯨』は普通の小説じゃないです。博物学やらなんやらの記述まで盛り込まれた謎の書物。僕は原書も読んだことがありますが、おそろしく難しくて読めたもんじゃないですね。
メルヴィルは17世紀の作家をモデルにしていたらしく、文章にはミルトンの影響も見られるとモームは指摘しています。
ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
19世紀ロシアの小説家ドストエフスキーの最後の作品です。世界文学史上の最高傑作ともいわれる有名な小説。
すべての近代小説を過去にしたと言われるドストエフスキーですが、勢いあまってすべての哲学をも過去にしてしまいかねない威力をもっています。
面白いとか面白くないとかそういう次元じゃない(面白いですが)。小説家というものがここまでの化け物たりえるのかと人びとを震撼させてきた名著です。
関連:ドストエフスキーの小説はどれから読むべきか?【この順番がおすすめ】
チェーホフ『退屈な話』
こちらもロシア文学の巨匠から。チェーホフといえば後期の戯曲が有名ですが、小説も書いてます。とくにおすすめなのは『退屈な話』。
チェーホフは根源的な退屈をテーマにものを書きますが、若い日のこの作品にすでにその真価が発揮されていて驚かされます。
主人公は老境の解剖学教授。絶対的な地位と名声を手にした彼ですが、その心中はわびしいものでした。なにか決定的に重要なものを欠いた人生が、どん詰りに達しようとしている。
それは彼の周りにいる家族や友人たちも同じでした。苦しみに意味を見出すこともできず、低俗な時間だけがただ過ぎていく。「こんな生き方は続けられない、どうすればいいのか」。自分に助けを求める養女カーチャの問いかけに、老教授は答えるすべを持ちません。
ミハイール・フョードロヴィチが毒舌を振るい、カーチャは耳を傾けているが、二人とも自分たちのこういう、身近な人びとをこきおろすという一見無邪気な気晴らしが、どれほどの深みへ自分たちを少しずつ引きずり込むかということには気がつかない。(チェーホフ『退屈な話』松下裕訳)
関連:戯曲のおすすめ本はこれ【喜劇から悲劇まで古今東西の名著8冊】
ブッツァーティ『タタール人の砂漠』
20世紀の幻想文学を代表するイタリアの作品。個人的には20世紀世界文学の最高傑作のひとつなんじゃないかと思ってます。
退屈をテーマにしている点でチェーホフに通じるものがあります。しかしチェーホフが終わってしまった人生を描くのに対して、本作はいつになっても始まらない人生を描きます。
砦に配属された主人公ドローゴ。地平線の彼方から現れる敵を、英雄的な戦闘を待ち焦がれる砦の兵士たち。しかしいつになってもその時は訪れず、人生は始まらないまま、それでも時間は無情に過ぎ去っていきます。
年老いていく身体。疎遠になってしまった故郷の家族、友人たち。そして近づいてくる終わりの時。ドローゴはたったひとりで、他のだれにも代わってはもらえない最後の戦いに臨みます。
「ジョヴァンニ・ドローゴよ、気をつけろよ」と彼に言う者は誰もいなかった。青春はもうしぼみかけているのに、彼には人生は長々と続く、尽きせぬ幻影のように見えた。ドローゴは時というものを知らなかった。この先き、神々とおなじように、何百年と青春が続こうが、それさえも大したことではないだろう。ところが、彼にはただの、人並みな人生しか、両手の指で数えられるほどの、ごく短い青春しか、そんなみすぼらしい贈り物しか、与えられていないのだったし、そんなものは気づくよりも前に消え失せてしまうだろう。
まだまだ先は長い、と彼は考えた。でも、ある年齢になると(おかしなことに)死を待ち始める人間もいるとのことだ。しかし、そんな、よく耳にする、馬鹿げた話は彼には関係なかった。ドローゴはそう思って微笑むと、寒さにせきたてられて、歩き出した。
(ブッツァーティ『タタール人の砂漠』脇功訳)
マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』
20世紀でもっとも有名な小説のひとつ。映画版のほうが有名かも。
アメリカ南北戦争を舞台にした歴史小説です。
しかも敗者の南部側の視点で描きます。歴史の表舞台からは隠されがちな南部の社会や文化が見えてきて、興味深いことこのうえなし。
また本作は悪名高き主人公スカーレット・オハラを中心とした恋愛小説でもあります。
ストーリーは波乱万丈でフックが強く、読者をぐいぐい引っ張っていきます。キャラ立ちも一流。おかげでキャッチーな作品に仕上がっています。
スカーレットの脳筋ぶりにイライラする人は少なくないと思いますが、作品の面白さはその程度では消えません。
関連:【洋書】スカーレット・オハラとは何者か『風と共に去りぬ』【書評】
シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』
シャーロット・ブロンテは英国を代表する女性作家のひとり。ちなみに妹は『嵐が丘』の作者エミリー・ブロンテです。
シャーロットの代表作が『ジェイン・エア』。ガーディアン紙が選ぶ「史上最高の小説ベスト100」で18位にランクイン。
主人公のジェインが過去を振り返り、子供時代からの人生を自叙伝のように語っていく本。イメージに反して波乱万丈な内容で、読んでいて飽きない。
ディケンズとオースティンを足した感じ。ただしディケンズ的なユーモアはありません。代わりに厳かなトーンがあり、独特の詩情を作品にもたらしています。名作と言われているのも納得。
主人公のジェインは独立心のある女性で、当時の文化に相当大きなインパクトを与えたそうです。
独立心があるといっても『風と共に去りぬ』のスカーレットのような野蛮さや毒はなく、かといって『高慢と偏見』のエリザベスのような爽やかな華があるわけでもなく、地味ながらも人の信頼を集める独特のキャラクター。
フィリパ・ピアス『トムは真夜中の庭で』
児童文学の最高傑作はなんでしょうか?
いろいろ候補はあるとおもいますが、個人的にはフィリパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』を挙げたいと思います。
療養先の邸宅、少年トムは真夜中の庭園でタイムトラベルを経験します。過去の庭園で少女ハティと出会い、ふたりは友達に。しかしお互いの世界は時の流れにズレがあり、トムが別世界を訪れるたびに、ハティは何年も歳を取っています。そして…
大人が読んでこその感動的作品。
なお児童文学のジャンルではフランシス・ホジソン・バーネットの『小公女』と『秘密の花園』も超名作なので、ついでにおすすめしておきます。
ジョナサン・ストラウド『バーティミアス物語』
ハリーポッターが世に現れ空前絶後のヒットを記録して以来、「第2のハリーポッター」と呼ばれるファンタジー作品がたけのこのように現れました。
そのなかでもっとも強力な作品がバーティミアスシリーズだと思います。外伝まで含めて全4巻。
バーティミアスとは主人公の少年ナサニエルが召喚した中級魔物の名前。
本シリーズ最大の特徴は、この魔物が一人称の語り手になることです。人間よりも強大な知能をもったこの魔物がウィットなナレーションで物語を語っていく構成。これがほんと面白い。
ストーリーやキャラクターも秀逸です。
ハリポタは後半に進むにつれてテンションが落ちていきますが、バーティミアスは逆に尻上がりに調子を上げていき、最終的にはとんでもない面白さと感動を与えてくれます。
逆にいうと第1巻はけっこう退屈。ここで「騙された」と思わないようにしてもらいたいんですよね。最後まで読んでほしいです。
もちろんハリーポッターも面白いので(映画版は原作のダイジェスト映像にすぎない)、読んだことのない人にはおすすめしておきます。
JPホーガン『星を継ぐもの』
SFの有名作品はだいたい読んだと思いますが、いちばん面白かったのはこれ。
月面で見つかった人間の死体。調査の結果、それは5万年前の死体であることが判明します。地球人なのか?それとも人間とそっくりな姿かたちをした異星人?
侃々諤々の議論が続くなか、今度は木星の衛星で2500万年前の巨大な宇宙船が発掘されます。宇宙船の正体は?そして月面で見つかった死体との関連性は?
ミステリのような感覚で話が進んでいく作品。数学者ハントと生物学者ダンチェッカーの奇妙なコンビによる推理がカタルシスをもたらしてくれます。
続編の2冊も面白いので、本書にハマったらそっちも読むべき。
他にSFから挙げるならアーサー・クラーク『幼年期の終わり』、ウェルズ『タイムマシン』、マイケル・クライトン『ジュラシックパーク』『ロストワールド』あたりも面白いです。
以上、海外文学のおすすめ作品でした。新しい良書と出会うたびに随時アプデしていこうと思います。
なお日本文学のおすすめ本はこちら↓
わたくし最近はnoteに書評など書いてますのでよろしければ↓