『英和翻訳表現辞典』翻訳脳を鍛えてくれる本
2018年に最所フミの『日英語表現辞典』(ちくま学芸文庫)がブームになりました。
ツイッター上で話題になったことがきっかけで、ちくまが再版を決行、書店に平積みされ飛ぶように売れたのです。
その最所フミの名著に勝るとも劣らない辞典があるのをご存知でしょうか。中村保男の『英和翻訳表現辞典』(研究社)です。
膨大な英単語を収録する、「読む」辞典。翻訳に関わる人であれば必読の本でしょう。翻訳者でなくとも、英語が好きなら読むべき名著。
ページ数は820ページです。
僕は1日あたり2~4ページぐらいのペースでちびちび読み進め、1年ぐらいかけて読み通しました。たしか2013年頃だったと思います。いま出ているやつの一つ前のバージョンですね。
こういう本は一気に読もうとすると挫折するので、スキマ時間を活用して、毎日少しずつ読み進めるのがベストです。
翻訳脳が鍛えられる本
『英和翻訳表現辞典』の内容ですが、熟練の著者ならではの、読者を唸らせる訳語が次々に連発されます。
たとえばAbondonmentを「投げやりな」と訳したり、less and lessを「~ではなくなる一方だ」と訳したり。
あるいはno complaintsは「文句なし」ではなく「まあまあの線を行っている」が正しいニュアンスであると指摘したり。
こういうテンションが820ページまでずっと持続します。
また英単語の訳だけではなく、かならず例文を引っ張ってくるところもポイント。例文もまるごと翻訳されます。したがって該当する単語のみならず、文章全体の精読のしかたや、訳し方も学べる構成になっています。
訳文のクオリティも高いです。翻訳は外国語力よりも日本語力が重要だと言われますが、本書の訳文を熟読すると、日本語のボキャブラリーや表現力も成長していきます。
色々な小ネタが随所に炸裂するので、エッセイとして読むこともできますね。
唯一の「正しい」訳語が載っている、わけではありません。そうではなく、翻訳のための「考えるヒント」を無数に提供してくれる辞典です。いわば、翻訳脳が鍛えられる本です。
続編よりも本書の周回を
『英和翻訳表現辞典』には続編があります。青いカバーの『英和翻訳表現辞典 基本表現・文法編』(研究社)です。
ページ数はだいぶ控えめで、273ページ。中学生が習うような基本語彙をいかに訳すか。そこに焦点を当てています。
僕はこっちも購入して半分くらい読んだのですが、残念ながら前著ほどのキレは見られない印象ですね。中村保男が編集者の位置にとどまっているからでしょうか?
こっちは読んでいてそこまで楽しくなかった印象があります。いま読めば、また違った感想になるかもしれませんが。
本書も勉強にはなりますが、慌ててこっちにまで手をのばすよりも、『英和翻訳表現辞典』を周回したほうが力がつくんじゃないかと思っています。
その他のおすすめ翻訳本についてはこの記事にまとめています。参考にしてみてください。