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キリスト教とユダヤ教はどう違う? 山我哲雄『キリスト教入門』

2024年7月11日

山我哲雄『キリスト教入門』(岩波ジュニア新書)を読みました。

岩波現代文庫から出ている『聖書時代史 旧約篇』がとてつもなく面白かったので、同じ著者のこっちにも手を伸ばしてみた次第。

本書は岩波ジュニア新書の本ですが、内容は高度で、キリスト教についての知識を求めるすべての人におすすめできる良書になっていると思います。

岩田靖夫『ヨーロッパ思想入門』や遅塚忠躬『フランス革命』とならび、岩波ジュニア新書が誇る名著の一冊になりそうな予感。

本書の大まかな構成は以下のとおり。

・第1章…ユダヤ教とキリスト教の対比で導入。両者の共通点が4つ、異なる点が2つ挙げられます(後述)

・第2章…イエス・キリストについて。その生涯と行動、さらに背景となるイスラエル史にも言及があります。イエスは洗礼者ヨハネの弟子だった、という指摘が何気に鮮烈。あのイエスにグル(導師)がいたというのはなんだか不思議ですね。

・第3章…キリスト教の成立について。ユダヤ教の一派にすぎなかった彼らが、いかに世界宗教へと変貌を遂げたのか?鍵になるのはイエスの復活と、外地生まれのユダヤ人(ヘレニスタイ)でした(後述)。

・第4章…キリスト教の発展について。ローマ帝国における国教化、ニカイア公会議、カルケドン公会議、エジプト発の修道院制、東西教会の大分裂などが解説されます。

・第5章…ローマカトリック教会について。組織構造からサクラメント(秘跡)、独自思想まで解説されます。20世紀後半の第二バチカン公会議で、カトリックは現代的かつ開けた組織へと変貌を遂げます。

・第6章…東方正教会について。キリスト教の入門書で東方正教まで扱ってくれるのはかなり貴重な気がする。

・第7章…宗教改革とプロテスタント。ルター以降の宗教改革について。英国や日本のプロテスタントについての解説も。

・終章…現代のキリスト教について。アメリカのファンダメンタリズム(原理主義)から日本の新宗教まで。

 

序論でユダヤ教とキリスト教の比較をおこない、それからキリスト教の成立史と各宗派の特徴紹介に入っていくながれ。説明が非常にわかりやすく、西洋史とキリスト教の成立史が脳内でドッキングします。

後半は細かい記述が多いので、辞書のようなかたちで参照すればよいかと。

ユダヤ教とキリスト教

キリスト教はユダヤ教を母体としています。イエス本人を含め、最初期のメンバーは自分たちのことを「キリスト教徒」とは思っていませんでした。

ではユダヤ教とのちのキリスト教はどこがどう同じで、どこがどう異なるのでしょうか?

両者に共通するポイントとして、著者は次の4点を挙げています。

・唯一神信仰
・契約思想(神と人が契約関係にある)
・メシア(救済者)思想
・終末論

キリスト教徒からすれば、イエスの出現はエレミヤの予言の成就でした。このようにメシア思想をダイレクトに引き継いでいます。

またユダヤ教徒とキリスト教徒は「時間的二世界論」を採用している点が独特です。

普通はこの世界とは別の場所に天国があると考えますよね。これは「空間的二世界論」と呼ばれます。

しかしユダヤ・キリスト教徒は、この世界がいったん終末を迎え、その後で神の国が現出すると考えているのです。これが終末論の極意。

 

では逆にユダヤ教とキリスト教の違いはどこにあるのでしょうか?著者は次の2点を強調しています。

・選民思想(キリスト教ではユダヤ人以外も救われる)
・律法至上主義(律法より信仰が大切)

キリスト教が世界宗教へと発展していけたのは、この2要素を切り捨て、ローカルな性格を削ぎ落としていったためだと考えられています。

 

ちなみに哲学者ヘーゲルはユダヤ教とキリスト教の違いを「断絶と融和」のイメージで理解しています。

ユダヤ教は神と人が断絶しているんですね。ものすごく厳格な世界観。律法の遵守も絶対です。

逆にキリスト教は神と人の融和として理解されます。なぜ融和したかというと、イエス・キリストが仲介者になったからです。神でもあり人でもあるイエスが、神と人の世界を橋渡ししてくれているわけですね。

日本人からすると、キリスト教にも「神と人との絶対的な断絶」みたいなイメージあると思うんですよね。実際そういう面を強調する西洋人は少なくないですし。

でも考えてみると、たしかにヘーゲルの言っていることがいちばん理にかなっている気がします。

断絶を強調するひとは根底においてユダヤ教的だと見なせるかと思います。

 

イエスの復活から世界宗教へ

ユダヤ教の一派でしかなかったキリスト教。なぜ彼らが独自の宗教へと昇華され、しかも世界的な威力を発揮するようになったのか?

著者はその出発点をイエスの復活に見ています。

イエスは処刑の3日後に復活し、人々のあいだに姿を現したとされます。信徒だけでなく、パウロのような迫害者にも姿を現したらしい。

これが絶大なインパクトをもたらし、パウロのような重大人物を改宗させるとともに、信徒たちに超人的なモチベーションを与えたとされます。

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「復活」といいますが、これは普通に考えればイエスの幽霊が現れたのだと思われます。まあ近代の常識からすれば幽霊も普通じゃないですが。

さらに興味深いのは、キリスト教を世界に広めたのが、当時の異端派であったヘレニスタイたちだったという点。ヘレニスタイは外地生まれのユダヤ人で、急進的な思想をもっていました。

12使徒に代表されるエルサレム初代教会は、まだまだユダヤ教の枠内にいたんですね。彼らは自分たちのことを「キリスト教徒」だとは考えていなかったとされます。

しかし外地生まれのユダヤ人たち(ヘレニスタイ)はギリシア世界の文化に慣れ親しんだ進歩派&急進派であり、彼らは古いユダヤ教のしきたりを踏み越えようとしていました。

やがて、このヘレニスタイたちに迫害が及びます。しかし迫害によって散り散りになったヘレニスタイたちの布教によって、キリスト教は地中海世界に広まっていきます。

つまり広く普及したのは急進派で異端寄りのキリスト教信仰だったわけですね。

本書を読み終えてから気づいたんですが、僕が昔から気になっていた『一神教の起源』(筑摩選書)もこの人の著作なんですね。

あの本もすごく評判がよくて、いつかは読もうと思ってました。この著者の作品に外れなしみたいになってきたので、やはり『一神教の誕生』もそのうち読もうと思います。

宗教の本

Posted by chaco