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小林秀雄を読みたいならまずはこの本【批評から対談まで】

2024年7月13日まとめ記事

小林秀雄といえば、近代以降の日本で最大の批評家。

日本の文芸評論を確立したのはこの人です。そしていまだにその作品が読みつがれています。

以下、小林秀雄に興味があるという人向けに、読みやすい良作を紹介したいと思います。

最初に言っておきたいのですが、初期の有名作はおすすめしません。あまりにも難しいんですよね。個人的には西田幾多郎の哲学書よりも読みにくいと感じるほどです。

だから後期のエッセイを中心に読みましょう。

講演集や対談集も超おすすめ。小林秀雄は公演や対談の名人なのでそこからでも真髄に迫れます。

『考えるヒント』(文春文庫)

まずは『考えるヒント』を読んでいくのがおすすめです。

初期の文芸批評は難しすぎて読めたもんじゃないですが、このシリーズはわりとスラスラ読める文章で書かれているので。内容も含蓄があって、有名な論考も多数収録されています。

第1巻はエッセイ集。

テーマは多岐にわたります。プラトン、井伏鱒二、ヒトラー、平家物語、スランプ、批評、福沢諭吉、ネヴァ河、などなど。

考えることについて小林は次のように言っています。

現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、どうやら、能率的に考える事が、合理的に考える事だと思い違いしているように思われるからだ。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。そんな光景が到る処に見える。物を考えるとは、物を掴んだら離さぬという事だ。(中略)だから、考えれば考えるほどわからなくなるというのも、物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。(小林秀雄『考えるヒント』「良心」)

 

第1巻の次は第3巻を読むことをおすすめします。

第3巻は講演集。ですます調を駆使した独自の文体で書かれています(これに影響を受けた人は数しれず)。これが読みやすく、しかも心地いい。

やはりテーマは多岐にわたります。ゴッホ、ドストエフスキー、歴史、文学、政治、人生観、信仰、などなど。大半が必読級。

 

第2巻は難しいのでとりあえずスルーしてもいいと思います。

荻生徂徠や伊藤仁斎などの儒学思想を扱った論考や、歴史に関するエッセイが多いです。第1巻や第3巻に比べるとやや堅く、テーマもマニアックな感じ。

 

『人間の建設』(新潮文庫)

次は対談本が読みやすくておすすめ。まずはボリュームの少ない『人間の建設』がいいでしょう。

天才数学者の岡潔との対談です。とりとめのない雑談をしているだけなのですが、異様におもしろい。

数学における情緒の必要性、物理学者と数学者の違い、アインシュタイン、ドストエフスキーとトルストイ、批評、素読教育の重要性など、話題はいろいろ。

岡 言葉なんです。思索は言葉なんです。言語中枢なしに思索ということはできないでしょう。
小林 着想というものはやはり言葉ですか。
岡 ええ。方程式が最初に浮かぶことは決してありません。方程式を立てておくと、頭がそのように動いて言葉が出てくるのでは決してありません。ところどころ文字を使うように方程式を使うだけです。
(小林秀雄・岡潔『人間の建設』)

 

『小林秀雄対話集』(講談社文芸文庫)

これは色んな人との対談を集めた本。

対談の相手は以下の通り。

・坂口安吾
・正宗白鳥
・青山二郎
・大岡昇平
・永井龍男
・河上徹太郎
・三島由紀夫
・江藤淳
・中村光夫
・福田恆存
・田中美知太郎

どれも面白いですが、特に印象に残るのは三島由紀夫との対談でしょうか。

小林 つまり、あの人は才能だけだってことを言うだろう。何かほかのものがないっていう、そういう才能ね、そういう才能が、君のように並はずれてあると、ありすぎると何かヘンな力が現れて来るんだよ。魔的なもんかな。きみの才能は非常に過剰でね、一種魔的なものになっているんだよ。ぼくにはそれが魅力だった。あのコンコンとして出てくるイメージの発明さ。他に、君はいらないでしょ、何んにも。
三島 ええ、何んにも。
(『小林秀雄対話集』「美のかたち」)

 

『直感を磨くもの』(新潮文庫)

こちらも対談集。やっぱり読みやすく、おもしろい。

対談の相手は以下の通り。

・三木清
・三好達治
・梅原龍三郎
・五味康祐
・横光利一
・折口信夫
・大岡昇平
・今日出海
・湯川秀樹
・福田恆存
・永井龍男
・河上徹太郎

とくに面白いのは物理学者の湯川秀樹との対話でしょうか。分量も約120ページあって、本書の目玉かも。

湯川 だから、法則ということになれば一種の信仰に近いものになります。法則があるとしても、その法則は有限のものでは実証されない。しかもここに有限のものしか与えられないとすれば、それ以上は法則を信ずるほかないわけです。無限回の出来事があるとしなければ、それは完全な実証にならない。ただ近似的なことしか言えない。(中略)だから科学というものは結局最後には法則に対する信仰ということになるわけですね。(小林秀雄『直感を磨くもの』「人間の進歩について」)

 

『ドストエフスキイの生活』(新潮文庫)

ドストエフスキーが好きな人にはこれもおすすめ。

前半の約250ページはドストエフスキーの伝記、後半の約250ページは作品解釈になっています。

後半で扱われるのは『カラマーゾフの兄弟』と『罪と罰』。

解釈についてはこれが正解だと思わないほうがいいです。本人が認めるように、小林はキリスト教がわからないという弱点をもっていますので。

ドストエフスキーを知る目的で読むのはあまりおすすめしませんが、ドストエフスキーを通じて小林秀雄を理解しようと思えば非常に面白いです。

関連:ドストエフスキー論のおすすめ本はこれ【伝記から解説本まで6冊】

 

以上、小林秀雄のおすすめ本でした。

余力のある人はかの有名な『モオツアルト・無常ということ』(新潮文庫)や『小林秀雄初期文芸論集』(岩波文庫)にも挑戦してみるといいでしょう。

 

なお日本の批評家といえば柄谷行人もおすすめ。

小林よりちょっと後の日本の批評や思想を代表する人物で、小林からも多大な影響を受けています。