『自省録』哲人皇帝のストア哲学【書評】

2020年10月24日

プラトンは哲学者が国を統治する哲人王を理想の政治システムとしました。

それに近い唯一の例が、ローマ帝国のマルクス・アウレリウス・アントニヌスです。パクス・ロマーナを代表する五賢帝の一人ですね。

彼はエピクテトスのストア哲学に感化され、自らもストア思想に奉仕しました。

そのマルクス・アウレリウスの著作が『自省録』です。

オーディブルにオーディオブック版もあります

アフォリズム形式で書かれ、体系性はありません。短い断章で彼の思想がつづられていきます。パスカルとかニーチェみたいなスタイル。

マルクス・アウレリウスは内省の人だったらしい。皇帝みたいな仕事はやりたくなかったタイプなんですね。できればインドアで哲学書を読んでいたかったはずです。

嫌な仕事や雑事にくじけそうになる自分をはげますように、本書の文章はつづられています。戦いの遠征先のテントとかで書かれた文章もある模様。

誰かに語りかけるような文体ですが、語りかける相手(そこらじゅうに登場する二人称の「君」)は皇帝自身のことです。

初期仏教を思わせる自律的な倫理思想が彼の持ち味。

以下いくつか引用してみます。

あけがたから自分にこういいきかせておくがいい。うるさがたや、恩知らずや、横柄な奴や、裏切り者や、やきもち屋や人づきの悪い者に私は出くわすことだろう。この連中にこういう欠点があるのは、すべて彼らが善とはなんであり、悪とはなんであるかを知らないところからくるのだ。しかし私は善というものの本性は美しく、悪というものの本性は醜いことを悟り、悪いことをする者も天性私と同胞であること―それはなにも同じ血や種をわけているというわけではなく、叡智と一片の神性を共有しているということを悟ったのだから、彼らのうち誰一人私を損ないうる者はない。

 

肉体に関するすべては流れであり、霊魂に関するすべては夢であり煙である。人生は戦いであり、旅のやどりであり、死後の名声は忘却にすぎない。しからば我々を導きうるものはなんであろうか。一つ、ただ一つ、哲学である。

 

マルクス・アウレリウスは思想自体には新しいものはなく、全面的にエピクテトスに依っています。

エピクテトスは奴隷でした。奴隷の思想を、皇帝が引き継いでいる。この極端な差異を無効化してしまうところに、ストア哲学のパワーを見ることができます。

 

ちなみに岩波文庫版の訳者は神谷美恵子。『生きがいについて』などの名著で知られる精神医学者です。

神谷の『生きがいについて』も歴史に残る名著なので、実存的な思想や倫理学にふれたい人におすすめしておきます。

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Posted by chaco