エゴ=思考=時間 エックハルト・トール『ニューアース』
エックハルト・トールのA New Earthを読了。読むのはこれで4回目か5回目ぐらいだと思います。
これがすさまじい名著。簡単にいえば瞑想の本です。とはいっても瞑想の技術を紹介する本ではなく、読むこと自体が瞑想になる本です。
トールは次のようにいっています。
This book’s main purpose is not to add new information or beliefs to your mind or to try to convince you of anything, but to bring about a shift in consciousness, that is to say, to awaken.
情報を与えるための本ではなく、読者を変えるための本ということですね。実際その効果は強烈です。
序盤の数ページは退屈な響きがあるかも。悪い意味でスピリチュアル的というか、ぬるい教説がだらだら続くみたいな。しかしすぐに本領が発揮されるので、序盤で切らないようにしてください。
本書の構成ですが、基本的にはEgo(エゴ、自我、小自我)の働きがこれでもかと綴られていきます。
このエゴから脱却するのがトールの教えの核心なのですが、本書ではそのエゴにスポットライトを当て、その機能を克明に記述するんですね。エゴはこんなふうにして人を縛りつけるとか。エゴはあんなふうにして精神的地獄を実現させるとか。
なぜそのような構成なのか?目覚めていない部分を認識することが目覚めの要件だからと、トールはいいます。
An essential part of the awakening is the recognition of the unawakened you, the ego as it thinks, speaks, and acts, as well as the recognition of the collectively conditioned mental processes that perpetuate the unawakened state.
また、エゴと戦い勝利を収めることはできないとも説きます。それはもう一つのエゴにしかならない、と。
必要なのは認識の光を当てることだけ。
You can not fight against the ego and win, just as you cannot fight against darkness. The light of consciousness is all that is necessary. You are the light.
このへん仏教のヴィパッサナー瞑想っぽいですよね。
本書では言葉の綾でエゴが実体化されがちなので、このアドバイスを肝に銘じておくことが大切だと思います。
エゴをすばずばと指摘されるわけですが、不思議と説教臭さはありません。むしろ爽快感があります。クリシュナムルティの本なんかだと、なんか説教されてるみたいで嫌になったりするんですけどね。
エゴとは思考であり時間である
もう少しくわしく本書の内容をマッピングしておきます。
まずエゴにはTime(過去と未来)とThought(思考)が対応します。
一方で覚醒した意識にはNow(時間を超越した「今」)と Awareness(思考ではなくそれが起こりそれを見つめる「場」)が対応します。
前者から後者へと移行し、世界にConsciousnessを導き入れるのが人間の役目だとトールは説きます。そしてその役目を果たす人間がおおぜいいる世界がA New Earthというわけです。
それは新たなユートピア思想なのか?トールは否定します。
ユートピアは目標を時間軸上の彼方すなわち未来に定めますよね。しかし時間とはエゴの側面なのでした。ということは、その限りでユートピアはエゴに絡め取られざるをえません。
一方でA New Earthが実現するのは時間を超越した「今」においてでした。したがってそれはユートピア思想が陥るエゴの罠に絡め取られる心配がないというわけです。
もっとも、こういう理屈はわりとどうでもいいんですけどね。重要なのはトールが教えをその身で実現していること、そしてその技を獲得するための道を示してくれていることです。
上記のような理論を組み立てるだけなら他の人にもできるわけです。哲学者とか宗教学者とか。でもトールみたいな人はそれを体現しているから次元が違うんですね。
いわば英語の学習法を説くだけでなく自らが英語をペラペラと使いこなしまくっているような。あるいはホームランの打ち方を分析するだけでなく自らがホームランを連発しているようなものです。
とにかくレベルの高い本で、ラマナ・マハルシとかクリシュナムルティとかと同様のエネルギーを感じます。
本書はたしか2015年ぐらいの時点でアメリカだけで600万部を売っていたと思いますが、どちらかというと、こんなレベルの高い本を600万冊も購入してしまうアメリカ社会のほうに驚きましたよ僕は。
日本語バージョンも出ています。本書の英語はあんまり読みやすくない気がするので、どちらかというと日本語がおすすめ。僕はもう何度も読んでるのでスラスラいけますが、初めて読んだとき、この人の英文なんだか奇妙な文体だなと感じたことを覚えています。
ただ日本語版を読んだことがないので、訳文のクオリティがどんなものかは保証できませんが。
でもこの手の本って訳者にめぐまれる傾向にはありますね。ヨガナンダとかラーマクリシュナの日本語訳すごいですから。
トールの著作ではThe Power of Nowもおすすめ。こっちがデビュー作なのですが、構成がとっつきにくいため(質問者との対話篇になってる)、一冊目はニューアースのほうがいいです。
関連:【洋書】エックハルト・トール The Power of Now【書評】
もっとトールの教えにふれたいという人は、本書の次にThe Power of Nowに進むのがいいでしょう。