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西洋哲学史の名著といえばラッセルのこの本【ノーベル文学賞作品】

2024年7月13日洋書

バートランド・ラッセルはおそらく二十世紀でいちばん頭のいい人間のひとり。世紀を代表する数学者であり哲学者でもあります。

そのラッセルが一般大衆向けに書いた哲学史がこのThe History of Western Philosophy

ラッセルは本書でノーベル文学賞を受賞しています。幾多の若者を哲学の道へといざなってきた、名高い(悪名高いともいう)本ですね。ちなみに弟子のウィトゲンシュタインは、ラッセルがこのような一般向け書籍を書くことを軽蔑していたとのこと。

文章はわかりやく明晰。しかもきれいな英文の代表としてよく参照されるほどの美文です。一昔前の受験英語では、ラッセルの文章がしょっちゅう出題されたそう。

一般向けとはいえ中身は哲学なので難解な個所もあります。しかし英文の読みやすさという面では、本書のようなやや硬めの本のほうが日本人には読みやすいんです。入門書レベルの哲学の知識がある人なら、小説よりもこの本のほうがスラスラ読めると思いますね。

ページ数は本文だけで約840ページ。僕が2009年にアマゾンで買った時には値段が1300円くらいで、コストパフォーマンスも最高でした。残念ながら今だと3000円近くするみたい。それでも内容とページ数を考えれば安いものですが。

ラッセルはいかにもIQが高そうなタイプの学者なんですが、意外と(?)心情の奥深さみたいなものを兼ね備えている点も長所です。感情に関わる物事をも重視しますし、現代の文明からみて未知でしかない領域(宗教など)についても理解や譲歩を示します。このへんはやっぱり哲学者だなという感じ。

ソクラテス以前の哲学者から20世紀初頭のプラグマティズムまで

本書の範囲ですが、ソクラテス以前の哲学者からはじまり、19世紀後半~20世紀初頭のジェイムズ、デューイらアメリカのプラグマティズムまでが扱われています。

まず当時の時代背景や社会状況をざっくり解説し、その次に思想家の生涯を簡単に述べ、主要な思想内容をコンパクトに要約、そして最後にラッセル自身による批判や感想が語られる構成で進んでいきます。

ラッセルがその分析的知性で色々な哲学者を料理していく様を眺めるのがとても楽しい本。

ピタゴラスに着目し、プラトンをピタゴラスの徒だとする洞察が印象的。中世のキリスト教神学を長々と扱っている点は意外。ホッブスらの社会思想も明快に解説されています。ライプニッツの解説がとくにわかりやすい印象。ショーペンハウアーを肯定的に評価するところが興味深い。逆に「わたしはニーチェが嫌いだ」と明言するところも笑えます。

 

ラッセルが中世哲学をここまで長々と扱うのは意外なんですが、正直ここは読み飛ばしてもいい気がしますね。

トマス・アクィナスやドゥンス・スコトゥスあたりならともかく、もっと細々とした思想家や話題までも扱っています。まともに通読しようと思うと途中で挫折すると思う。僕は中世の大半は飛ばして近世哲学に向かいました。

ただし「神の存在論的証明」に関するパートは哲学史上でも重要なことが語られているので、読んでおくことをおすすめします。

神の存在論的証明を扱った個所では、「なぜ存在することが存在しないことよりも良いといえるのか、自分にはわからない」とラッセルは言っています。僕はこの感覚がとてもよくわかります。

 

ちなみにラッセルが西洋哲学史上でもっとも難解な哲学者として挙げるのはヘーゲル(彼は若い頃ヘーゲリアンでしたが、後に言語哲学の方向にシフトしたのです)。ヘーゲルがもっとも難解だと言う人は多いですが、実際ラッセルが難しいと感じるのだから相当なものといえそうです。

「現代の哲学科には数学を解しない輩がいるが、数学的素養のない哲学者なんてありえない」というコメントも印象に残ります。実際、数学が苦手な哲学者はほとんどいない気がしますね。例えばプラトンやデカルトはいまならば数学者だし、フッサールもラッセルも元々は数学科の人間ですからね。

 

本書はハイデガーが登場しないことでも有名ですが、そもそもハイデガーの師で現象学の生みの親であるフッサールも登場しません。またハイデガーと20世紀の哲学を二分するウィトゲンシュタインも出てこない。20世紀以降の哲学を知りたい場合は、他の著作に当たる必要があります

おすすめはA.C.GraylingのThe History of Philosophy。ラッセルを意識してその面白さを引き継ぎつつも、より学問的な正確さにこだわって書かれた哲学史です。これならデリダやレヴィナスといった20世紀の哲学者ものってます。

Anthony KennyのA New History of Western Philosophyも評価が高いですが、海外のレビューを読むとどうも難しいらしい。たぶん一般向けの読み物というより、専門書みたいなノリの本なんでしょうね。

日本語で読める哲学史の本については以下の記事を参考にしてみてください。

関連:哲学史の名著はこれ【入門者~中級者におすすめ8冊】

ということでラッセルの哲学史についてでした。この本は定期的に再読しているので、次に読み返したらまたアップデートします。