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ヘーゲルの精神現象学が難しすぎる件【入門におすすめの本はこれ】

2024年12月4日まとめ記事

西洋哲学の最難関といわれる哲学者が、19世紀ドイツのヘーゲルです。

実際彼のテクストは常軌を逸しており、その難解さはたとえばハイデガーなどとは比べ物になりません。

僕はヘーゲルの『精神現象学』をまともに通読できるようになるまでにおよそ3年かかりました(全編がはっきりと理解できているわけではない)。

もっとも、3年といっても別にずっとヘーゲルを読んでいたわけではなく、心が折れた状態で離れている期間のほうが長かったのですが。

その悪戦苦闘のなかで出会った良書をここでは紹介します。この方法ならたぶん半年ぐらいでヘーゲルの言いたいことがわかってくると思います。

まずは『ヘーゲル事典』を用意する

『ヘーゲル事典』、これがいちばん大事です。弘文堂が出している本で、もともとはもっと大型の高価な事典だったのですが、2014年に縮刷版が発売されました。

値段が大幅に下がり、税抜きで3,500円。圧倒的なコストパフォーマンスを誇ります。

加藤尚武を筆頭に何人ものヘーゲル研究者が集結し、ヘーゲル哲学のキーワードを解説していく本。ページ数は約600ページ。「愛」からはじまり「我々にとって」で幕を閉じます。

ヘーゲルの場合は、要約的な入門書を読むよりも、この事典を使って色んな方向からゲリラ的に攻めるのが効果的だと僕は思っています。

最初から読んでもいいし、気になったキーワードだけ拾い読みしてもいい。ヘーゲルのテクストを読む際にはつねに傍らに置いて、キーワードを調べるようにするのがおすすめ。

ちびちび読み進めれば、半年~1年で相当理解が進みます。僕の経験談ですが、少しずつではなく、ある日突然ヘーゲルがわかるようになります。

 

入門書には金子武蔵『ヘーゲルの精神現象学』

入門書を通読するならこれがおすすめ。金子武蔵の『ヘーゲルの精神現象学』です。

金子武蔵は伝説のヘーゲル研究者。第二次世界大戦前に『精神現象学』の完訳を日本ではじめて成し遂げ、日本のへーゲル研究を超進化させました。しかもこの訳は長年にわたり業界のスタンダードとなるほど質の高いものだったといいます。

金子武蔵、ちくま学芸文庫、そしてタイトルは「ヘーゲルの精神現象学」。これだけ聞くといかにも厳しくとっつきにくいイメージですが、内容はきわめてわかりやすいです。

哲学会で行った講演をベースにしているため、文章もやさしい。そこらへんにある新書の入門書よりも、こちらのほうがずっとクリアで理解が容易です。

たとえば講談社現代新書から出ている竹田青嗣らの『超解読!はじめてのヘーゲル「精神現象学」』のような本。ああいう本はパッと見ではわかりやすそうですが、実際に読んでみるとヘーゲルに対する理解は意外と深まりません。第一印象にだまされないようにしてください。

 

イポリット『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』

海外のヘーゲル解説書ではこれが鉄板です。著者のイポリットは20世紀フランスの哲学者。

タイトルだけ見るといかにも難解そうな研究書に思えますが、実はその異様なわかりやすさと明晰さで有名な本。

コジェーヴの『ヘーゲル読解入門』のほうが有名だとは思いますが、あちらはコジェーヴ自身の思想を語る本という趣が強いです。

精神現象学の解説書や注解書を求めている人は、まずイポリットを頼ったほうがよいでしょう。

 

哲学史から攻めるならレーヴィットの『ヘーゲルからニーチェへ』

ヘーゲル哲学の背景をなす哲学史を知っておくことも有益です。

おすすめはレーヴィットの『ヘーゲルからニーチェへ』という本。文字通りヘーゲルからニーチェにいたるまでのドイツ哲学史を解説した名著で、本書から影響を受けた人はかなり多いとされます。

ヘーゲルを乗り越えようとする数々の思想家を追うことで、ヘーゲルの輪郭が浮き彫りにされていきます。

他にもカントの視点からヘーゲルを批判的に眺める岩崎武雄の『カントからヘーゲルへ』、フランス革命という文脈にドイツ観念論を位置づけて解説する村岡晋一の『ドイツ観念論』もおすすめです。

関連:フィヒテとシェリングをわかりやすく解説『カントからヘーゲルへ』【書評】

 

歴史哲学講義で肩慣らし

ここからヘーゲル本人の著作を読んでいきます。

まずウォーミングアップとして岩波文庫から出ている長谷川宏訳の『歴史哲学講義』。これの上巻、それも序文を読みます。ここにヘーゲル思想のエッセンスが詰まっていて、とても勉強になります。

本文は読まなくてもいいです。西洋中心史観の権化がヘーゲルですからね。これ以上ないほどに偏った世界史が叙述されていきます。よっぽど西洋だけが好きという人でなければ、読んでもイライラするだけでしょう。しかも誤った知識が身についてしまう危険性がありますので。

 

万全を期すには『哲学史講義』

次にいきなり『精神現象学』に進んでもいいのですが、もう少し肩慣らしをしておきたいという人のために、『哲学史講義』をオススメしておきます。

ヘーゲルによる哲学史の講義を収録したもの。2017年に待望の文庫化がなされました。ぜんぶで4巻あります。ここでも長谷川宏の訳文がとても心地いい。精神現象学や大論理学といった難解な著作がウソのように、講義のヘーゲルはわかりやすく、おもしろいです。

哲学史を勉強するために本書を読むのはあまりオススメしません。やはり偏りがひどいですから。しかしヘーゲルへの理解を深めるためには絶好のアイテムです。

関連:哲学史の名著はこれ【入門者~中級者におすすめ8冊】

 

なお2023年には『宗教哲学講義』も文庫化されました。ヘーゲルの宗教論に興味のある人は読んでみてもよいでしょう。

『歴史哲学講義』や『哲学史講義』に比べると難しいですが、ヘーゲル哲学のコアが展開されます。

関連:ヘーゲルの宗教哲学をざっくり解説『宗教哲学講義』

 

精神現象学はちくま学芸文庫バージョンがおすすめ

いよいよ『精神現象学』を読んでいきます。

どのバージョンで読むべきか?今ならちくま学芸文庫バージョンをオススメします。

『精神現象学』は西洋哲学を代表する古典の一つであるにもかかわらず、なぜか手ごろな文庫バージョンがなかったんですよね。これは本当に謎です。マルクス主義の影響でしょうか?戦後日本はマルクス主義が学会を支配していましたから、その影響でヘーゲルが軽んじられていたのかもしれません。

しかし2018年になって待望の文庫化がなされました。このバージョン最大の長所は見出しをふんだんに使っていること。本文を小分けして、内容を要約する見出しで区切っているのです。とても読みやすい。

長らく定番だった長谷川宏訳も読みやすいです。ただ大型の本は読んでいて疲れますし(手首が痛くなる)、一般向けになされた訳のためアカデミックな用途には向かないという弱点があります。文庫バージョンが存在する今、無理して入手する必要は薄くなったかなと思います。

 

以上、ヘーゲル『精神現象学』の入門に使える良書の紹介でした。

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