ソフィストとソクラテスの違いとは何か?山川偉也『古代ギリシアの思想』【解説】

2021年4月22日

山川偉也の『古代ギリシアの思想』(講談社学術文庫)をようやく読みました。かれこれ10年くらいは積読されていたんじゃないだろうか?

バートランド・ラッセルのThe History of Western Philosophyを再読し哲学熱が再燃した今がチャンスと思い、一気に読み切った。

本格的な内容ながらも軽いタッチのエッセイを織り交ぜたりしてあって、どこか不思議な雰囲気の本です。

もっとも印象的だったのは、ソフィストとソクラテスについて書かれた章。ソクラテスとソフィストの違いを、初めてはっきりと理解できた気がします。

ソフィストの思想的特徴とは何か?

紀元前5世紀、ギリシアはペルシア戦争に打ち勝ち、新時代の到来を迎えました。その中心地として栄えたのがアテネです。

各地から知識人が流入し、アテネは知のセンターに変貌する。そしてその潮流の最先端にいたのがソフィストたちでした。ソフィストは青年を指導し、弁論や学問を教え込みます。

ソフィストの教えのコアにあるもの、それは相対主義的な世界観でした。

人間の社会(ノモスといいます)に絶対的な秩序など存在しない。すべては相対的なものなんだ。その都度、もっともメリットのある体制を作ればそれでいいのだ。

このようにして絶対的な価値を流動化させるのがソフィストの教えであり、その姿勢はプロタゴラスの有名な格言「万物の尺度は人間である」に表れています。

万物の尺度が人間にある…つまりあらゆるものにそれ自体の絶対的あり様などなく、すべては人間の見方によってどうにでも変わるのだ、という意味ですね。

 

ソクラテスとソフィストは何が違う?

一見するとソクラテスもソフィストっぽいですよね。これは当時のギリシア社会でもそう思われていたらしく、ソクラテスはソフィストの一派だと見なされていたといいます。

ではソクラテスはソフィストと何が違うのでしょうか?

結論から言えば、ノモス(人間)の秩序をフュシス(自然)に求めるところが違います。

ソフィストにとって、ノモスとは何でもありの相対的な秩序でしたね。絶対的な規範や普遍的な決まりごとなどなく、すべては人間の利益のために設計される便宜的な秩序でしかない。プロタゴラスはそれを「万物の尺度は人間である」と表現したのでした。

 

ソクラテスはここに切り込みます。ソクラテスにとって、あるべきノモスの秩序とは、人間の小賢しい便宜を超越したフュシスにこそ見出されます。

ノモスをフュシスの秩序に接続し、一人ひとりの人間や社会全体にあるべき秩序を染み渡らせること。これがソクラテスの理想であり、彼が神から授かったと理解した使命でした。

人間の便宜を超越する場所に、普遍的真理の源泉を求める。この態度がポイントです。

 

プラトンとアリストテレスはソクラテスから何を引き継いだのか

ノモスの秩序をフュシスに求める。この姿勢はプラトンとアリストテレスにも引き継がれます。

ソクラテス、プラトン、アリストテレス。この3人はまったく特徴が違いますね。師弟関係で結ばれてはいますが、その思想内容はまったくバラバラなんじゃないかという印象があります。

実際プラトンの思想はピタゴラスやパルメニデスによるところが大きいですし、アリストテレスはプラトンのもっとも強力な批判者です。

 

ではこの3人に共通するものはなにもないのかというと、そうでもないらしい。プラトンもアリストテレスも、ソクラテスからある特異な性質を引き継いでいます。それが目的論的な理想主義にほかなりません。

プラトンは論理を犠牲にしてまでも普遍的な(とプラトンが考える)徳を重視しますし、アリストテレスはやはり政治社会のあるべき秩序をフュシスに求めます。

人間の恣意的な都合を超越した場所に真理を求める。フュシスは盲目のマシーンではなく理想に至る目的論的な構造をもっていると考える。こうした特徴はソフィストには見られないものです。

ソフィストと対照することで初めて、この3人に共通する特性がはっきり浮かび上がってくるといえそうです。

 

ソフィスト論なら『ソフィストとは誰か?』

ソフィストを論じた有名な本としては、納富信留の『ソフィストとは誰か?』(ちくま学芸文庫)があります。

哲学者とソフィストが表裏一体の関係にあることを論じ、従来のソフィスト観の転覆を狙った作品。実は僕はまだ読んだことがないのですが、以前から噂を耳にしており、いつかは読もうと思っています。

柄谷行人の『哲学の起源』も非常に独創的なソフィスト論を打ち出していますね。これも従来の哲学史に挑戦するタイプの作品です。

関連:柄谷行人『哲学の起源』古代ギリシアにおけるアテネvsイオニア【解説】

一方で本書『古代ギリシアの思想』のソフィスト論にわりと近いと思うのが、波多野精一の『時と永遠』に収められている「ソフィストとソクラテス」。

波多野は戦前日本を代表する大哲学者のひとりですが、この論考もわかりやすくまとまっています。

最近読んだところではシュヴェーグラーの『西洋哲学史』(岩波文庫)のソクラテスの項目も、非常に明晰でわかりやすかったです。

関連:哲学史の名著はこれ【入門者~中級者におすすめ8冊】

 

その他に印象的だった箇所

『古代ギリシアの思想』で、他に印象に残ったところをメモしておきます。

・ヘラクレイトスは王族であり、だからこそペルシアのギリシア支配のもとでの生涯は孤独なものとなった。

・イオニア哲学の根幹はヘシオドスの世界観であり、その特徴は生々流転だった

・パルメニデスは存在の哲学でイオニアの生成の思想を葬った

・ソフィストたちはその相対主義のためにギリシアの民衆からも嫌われていた

・プラトンの著作は『パルメニデス』以降の後期作品こそ凄い

哲学の本

Posted by chaco