カント対ヘーゲル 岩崎武雄『カントからヘーゲルへ』
カント研究界を代表する碩学・岩崎武雄。
その岩崎が一般読者むけにドイツ観念論を解説した本がこの『カントからヘーゲルへ』です。
取り上げられるのはカント、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルの4名。ドイツ観念論にカントを含めるかどうかは意見のわかれるところですが、岩崎はカントも入れています。
岩崎らしく、異常なほど明晰なロジックでバッサバッサとドイツ観念論を料理していく。ドイツ観念論の解説書は希少なので、本書の存在はとてもありがたいですね。
とくにフィヒテとシェリングになされた日本語の解説(しかも高水準)というのは相当レア。
ただしカントに関する部分は伝説の名著『カント』からの抜粋です。カントに関心のある人は『カント』も読みましょう。
カント対ヘーゲル
『カントからヘーゲルへ』、いちばん面白いのはヘーゲルの章です。とてもオリジナリティに富んだヘーゲル論になっていて、ちょっと笑える。
ページ数も100ページを超え、もっとも力の入ったパートであることがうかがえます。
意外なことに、岩崎は卒業論文でヘーゲルを取り上げたそうです。それ以来ずっとヘーゲルから示唆を受けてきたとも。でもいまだにヘーゲルが理解できたとは思えない。だから私は私が正しいと思った解釈を述べていく。そう言って岩崎のヘーゲル論がはじまります。
岩崎はここで何をしているのか?一言で言えば、カントの枠組みにヘーゲルを閉じ込めようとしています。
カントとヘーゲルではまったく世界観が異なりますよね。それを強引にカントの枠組みで解釈し、枠組みから外れる部分は容赦なく切り捨てる。
ヘーゲル論としては異端ですが、非常におもしろく、その大胆さに時として笑いを禁じ得ないほどです。
弁証法を認識の弁証法と存在の弁証法に分け、ヘーゲルは概念と存在を混同しているとして、存在論としての弁証法を切り捨て認識論としての弁証法だけを取り出すところなどは、まさにカント学者の面目躍如という感じ。
意外な角度から光が当てられることで、ヘーゲルへの理解も深まるんですよね。だから解説書として見ても案外有益だと思う。
カント解説書の最高峰
上でも少し触れましたが、岩崎には『カント』という伝説的名著があります。
カントの三批判書を明晰すぎるほど明晰に解説した研究書。カントの思想を的確に要約するだけでなく、独自の観点からカントを批判するところが肝。
『カントからヘーゲルへ』のヘーゲル論でもそうですが、岩崎の批判的パースペクティブのおかげで読者の理解は多角的に深まっていく。
そこらへんの新書よりもはるかにわかりやすく、価値があります。カントに取り組みたい人はぜったいに読むべきですよ。