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ヘーゲルの精神現象学を読むコツ【神の冒険物語】

2023年11月22日

西洋哲学でもっとも難解な哲学者といえばヘーゲルでしょう。ラッセルやアドルノをはじめとして、数々の天才や秀才たちも口をそろえてそう言っています。

僕も最初に精神現象学を読んだ時は序盤で挫折しました。なにしろ理解できる行がほとんどないというレベルでしたから。しかし地道にちまちまとヘーゲル関連の本を読んでいたら、いつのまにかある程度わかるようになっていました。

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ブロックを一つ一つ積み上げていくというよりは、急にパッとわかるようになるパターンでした。数学の問題集とかでこういうパターンないですかね。ウンウン唸って頑張ってみたもののぜんぜん解けなくて、でも一晩寝て次の日に再チャレンジしてみたら急に答えが見えたみたいな。哲学書の読解でもこの現象は起こります。

精神現象学を読むうえでもっとも重要なのは、「精神」ということばを正しく理解することです。この精神ということばにつられて人間の意識や心をイメージすると、ヘーゲル哲学の全体像が把握できなくなってしまいます。

では精神ということばで何をイメージすればいいのでしょうか?

スピノザの神を、です。ヘーゲルのいう精神とは、スピノザの神を主体化したものだからです。さまざまに展開し、進化を続けるスピノザの神がヘーゲルのいう精神です。城塚登のことばを借りれば「ヘーゲル哲学はスピノザ哲学の時間化」にほかなりません。

ではスピノザの神とはなにか?

それは、宇宙・自然のすべてです。銀河も惑星も植物も動物も人間も人間の思考も、すべてが神のパーツとしてある。あらゆる存在者を己の一部としてもつ実体、それがスピノザの神です。

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ちなみにアインシュタインはこのスピノザの神を信仰していたらしい。

それではスピノザの神の時間化・主体化とはどういうことなのか?スピノザ哲学においては、神はじっとして動きません。そこに展開や運動がないのです。これを動かすとヘーゲルの精神になります。

ヘーゲルの精神は進化を続け、己を展開、外化していきます。自然として、動物として、人間として。ギリシア社会として、ローマ社会として、ヨーロッパ近代社会として。ソクラテスの処刑として、イエスの処刑として、フランス大革命として。精神はこうして少しずつ、自分のことを知っていく。

そして最後に精神は、自由な人間として己を実現します。自由な人間がすべてを知る時、それは神が神自身を知る時なのです。こうして自分自身の正体を完全に自覚した神こそが絶対精神にほかなりません。

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この最後の段階を実現したのがフランス革命だとヘーゲルは考えました。したがってヘーゲルにとってフランス革命以降の歴史に進歩はありません。フランシス・フクヤマはこの事態を「歴史の終わり」と呼びます。

よく『精神現象学』が精神の成長物語だといわれます。しかしここで人間を主人公として設定してしまうと、わけがわからなくなるんですよね。精神現象学とはむしろ神が主人公の冒険物語です。

 

ちなみに『精神現象学』の副読本にはヘーゲル事典がおすすめ。まとまった解説書としては金子武蔵が書いた『ヘーゲルの精神現象学』(ちくま学芸文庫)がわかりやすいです。

関連:ヘーゲルの精神現象学が難しすぎる件【入門におすすめの本はこれ】

ヘーゲルの解説書については上記の記事を参考にしてみてください。

哲学の本

Posted by chaco