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ホーキング博士って何が凄いの?【おすすめ入門書も紹介】

2025年12月28日

スティーヴン・ホーキングは、相対性理論と量子力学という二つの巨大理論が衝突する場所に立ち、宇宙の始まりと終わりを同時に問い続けた科学者でした。

科学や数学はある角度から宇宙を映し出すための道具にすぎないというプラグマティックな見方と、この世界の存在そのものの根拠を問う哲学的な姿勢。このふたつを合わせもつ不思議な思索者でもあります。

この記事では、ホーキングの代表的業績から、その科学観・哲学的含意までを整理し、最後におすすめの入門書を紹介したいと思います。

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スティーブン・ホーキングって何がすごいの?

スティーヴン・ホーキングが「何をした物理学者なのか分かりにくい」と感じる人は多いはず。

それは自然なことです。

彼の業績は、アインシュタインの相対性理論のように一つの名前で象徴できる単純明快な理論ではなく、複数の最先端分野を結びつけ、宇宙観そのものを更新した点に本質があるからです。

ホーキングの凄さは、次の三点に集約できます。

第一に、ブラックホールは「完全な闇」ではないことを理論的に示したことです。

従来、ブラックホールは一度入ったら何も出てこない存在だと考えられていました。しかしホーキングは、量子力学を用いて、ブラックホールがごく微弱ながら「熱放射」を行うことを示しました。これがいわゆるホーキング放射です。

これは単なる細部の修正ではなく、「ブラックホールは最終的に蒸発して消える」という、宇宙像を根底から変える主張でした。

相対性理論と量子力学という、本来相容れない二つの理論が、ブラックホールという極限状態で交差することを明確に示した点で、これは20世紀後半物理学の最重要成果の一つです。

 

第二に、宇宙の起源を数学的に厳密に扱える対象にしたことです。

ホーキングはペンローズとともに、一般相対性理論の枠内で「特異点定理」を証明しました。これは、一定の条件が満たされれば、宇宙は必然的にビッグバンという特異点を持つ、ということを示したものです。

つまり、宇宙の始まりは単なる神話的仮説ではなく、理論物理学の必然的帰結として導かれる、という見通しを与えました。宇宙論を「哲学的推測」から「厳密科学」へと押し上げた功績です。

 

第三に、「究極理論とは何か」という問いを、物理学の中心課題として提示し続けたことです。

ホーキング自身は、量子重力の完成という最終目標を成し遂げたわけではありません。しかし、ブラックホール情報問題に代表されるように、「情報は失われるのか」「時間や因果律はどこまで有効なのか」といった根源的問題を、誰も避けて通れない形で突きつけました。

彼は一つの完成された体系を残したというより、後続世代が取り組まざるを得ない巨大な問題群を定式化した人物なのです。

 

ホーキングの凄さは「ホーキング理論」という分かりやすい看板があることではありません。

相対性理論・量子力学・宇宙論を接続し、宇宙を考えるための地平線そのものを押し広げたことにあります。

彼はアインシュタインのような創始者ではなく、アインシュタイン以後の物理学が直面する「矛盾と限界」を、最も鋭く可視化した思想的リーダーだったといえます。

 

ホーキングの科学観と哲学的問い

宇宙の絵ホーキングのプラグマティックな科学観と、存在論的な問いへの関心をあわせもつ科学者でした。

一見すると不思議な組み合わせですが、この2点は矛盾していません。むしろ、この二つの緊張関係そのものが、彼の思想の核心だと考えられます。

まず、ホーキングのプラグマティックな科学観について。

彼はしばしば「理論とは現実そのものではなく、観測結果をうまく説明・予測できる数理モデルにすぎない」と述べています。これは、世界が「本当はどうなっているか」を直接把握できるという素朴実在論を退ける立場です。

彼の言う「モデル依存実在論」は、理論の真理性を形而上学的に問うのではなく、「どのモデルが最も広い範囲の現象を、最も簡潔に説明できるか」を基準にする態度です。

この点でホーキングは、非常に道具主義的・実務的な科学者でした。

理論とは要するに宇宙全体あるいはその限定された一部についてのモデルであり、モデルの中の量をわれわれの行う観察に関係づける一組の規則である

(『ホーキング、宇宙を語る』林一訳 以下同書より引用)

どんな物理理論も、仮説にすぎないという意味では、つねに暫定的なものである。理論を証明することはできない。ある理論が、実験結果とこれまでいかに多く合致してきたとしても、このつぎに実権をしたときには、結果が理論と矛盾しないという保証はない。

 

しかし重要なのは、彼がそこで思考を止めていないことです。

ホーキングは「数式は道具にすぎない」と言いながらも、ブラックホールや宇宙の始まりといった、人間の存在理解に直接かかわる問題に執拗に取り組みました。

時間はどこから始まったのか、因果律はどこまで有効なのか、宇宙はなぜ「理解可能な形」をしているのか――これらは、単なる計算上の問題ではなく、明らかに哲学的問いです。

 

この二点は、次のように整理できると思います。

ホーキングは、「存在そのものについて語るとき、人間は数理モデルを通じてしか語れない」という前提を、極端な形で引き受けた人物でした。

つまり、形而上学的な存在論を、科学の外部に切り捨てるのではなく、科学の内部に封じ込めたのです。

世界の「本質」を語るために、数式以外の言語を信用しなかった。しかし同時に、その数式が指し示す先にある存在論的含意を、決して軽視しなかった。

この点でホーキングは、哲学を否定する科学者というより、哲学を「科学の極限状態」に追い込んだ人物だと言えます。

彼にとって哲学は、独立した学問領域として世界を語るものではなく、科学理論が限界に達したときに、否応なく立ち現れる問いでした。

だから彼は「哲学は死んだ」と言いながらも、実際には誰よりも哲学的な問題を扱っていた。

個人的には、ここにホーキングの誠実さを見るべきだと思います。
世界の究極的構造を語りたいという欲望を捨てず、しかしその語り方については、徹底的に禁欲的であろうとした。その結果が、道具主義と存在論的関心の併存だったのでしょう。

ホーキングは、形而上学を夢見ながら、それを数式の檻の中に閉じ込めた科学者だった――この逆説こそが、彼の思想の魅力であり、評価されるべき点だと思います。

たとえ、存在可能な統一理論が一つだけあるとしても、それはまだ一組の規則と方程式にすぎない。この方程式に生命を吹き込み、この方程式で記述される宇宙をつくるのは何だろうか? 科学が数学的モデルの構築に用いる普通のやり方では、そのモデルで記述しようとする宇宙がいったいなぜ存在しているのかという疑問には答えようがない。宇宙はなぜ、存在するという面倒なことをするのか? 統一理論には自分自身の存在をもたらすほど大きな強制力があるのか? それとも創造主が必要なのか? もしそうだとすれば、創造主は宇宙に何か他の影響も与えるのではなかろうか? そして、創造主を創造したのはだれなのか?

 

『ホーキング宇宙を語る』は難しいので無理して読まなくていい

この車椅子の天才が一般読者に向けて書き下ろした伝説的な啓蒙書がこの『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』(ハヤカワ文庫)です。

はっきり言って内容はむずかしいです。

本書は1,000万部以上も売れているそうですが、内容の大部分を理解している人はおそらく1%もいないでしょう。

とりあえず最初に読む宇宙物理学の本じゃないことは確か(最初に読むべき本については後述)。

とはいえ文章はユーモラスで面白く、ときに哲学的な味わいも感じさせる奥深さがあります。

僕はたしか高校1年生のときに初めてこの本を読んだのでした。その時は「こんなに難解な書物がこの世に存在するのか」と思いました。いま読むとけっこう理解できて感動。

一応、本書の大まかな構成を示しておきます。

・第1章「私たちの宇宙像」…アリストテレスやプトレマイオスの話で導入。またホーキングの科学観も語られます。彼は科学理論についてかなりプラグマティックに考えている模様(後述)。

・第2章「空間と時間」…ニュートンからアインシュタインまで。ニュートンの絶対時間と絶対空間が否定され、相対性理論の時空間が登場。

・第3章「膨張する宇宙」…ハッブルの発見について。アインシュタインの考えと異なり、実は宇宙は膨張していた。これは宇宙の始まりへと思索をいざない、その出発点において相対性理論が機能しえないという気づきにつながります。

・第4章「不確定性原理」…生まれたばかりの超極小の宇宙では、アインシュタインの理論が機能しない。したがってそれに変わる超微小世界向けの理論を探求する必要が出てきます。こうして話は量子力学へとつながります。

・第5章「素粒子と自然界の力」…量子力学が扱う超微小な粒子についての解説。

・第6章「ブラックホール」…ブラックホールの性質について。ペンローズと共同で研究したブラックホール内部の特異点のことなど。

・第7章「ブラックホールはそれほど黒くない」…ブラックホールは粒子を放出している。なぜこのような現象が起こるのか?粒子・反粒子のペアが鍵(ちなみにロヴェッリいわくホーキング最大の研究成果はブラックホールの蒸発を予測したこと)。

・第8章「宇宙の起源と運命」…インフレーション理論と量子重力論について。たんなる計算上の手続きとしての虚時間の導入。

・第9章「時間の矢」…時間とは何か?熱力学的な時間、心理学的な時間、宇宙論的な時間の3つにわけて探求。

・第10章「物理学の統合」…一般相対性理論と不確定性原理を融合させるためにはどうすればいいのか?弦理論(ひも理論)について。

・終章「人間の理性の勝利」…現代科学は哲学的な問いを忘れてしまった。一方で哲学者は科学理論の最前線を理解できない。しかし究極的な統一理論が完成すればこれが変わる。ふたたび存在の問い(なぜ宇宙は、われわれは、存在するのか?)が問われ、みながそれに参加できるようになる。この問いに答えることができたとき、人間理性は神の心を知り、最終的な勝利を得る。

 

おすすめの本を紹介

カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』

ループ理論で知られる素粒子物理学者による世界的ベストセラー。物理学史の全体を語り、感動的なほどわかりやすいです。

終盤にはホーキングやブラックホール理論への言及があります。

レオナルド・サスキンド『ブラックホール戦争』

これは基本的に物語として読める科学書で、ホーキングの議論の核心である「情報の保存問題(情報パラドックス)」を、論争と説明を通じて学べます。

ホーキングの本に比べればかなり読みやすいです。

ホーキング&ペンローズ『時空の本質(The Nature of Space and Time)』

これは少し上級者向けですが、一般相対性理論と量子理論が交差する深い問題を、物理学者同士の対話形式で提示したものです。

ホーキングの核心的な物理観を理解するうえで刺激的な一冊。

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Posted by chaco