『英語を学べばバカになる』英語学習ブームへの批判書
日本における英語学習熱は加熱の一途をたどっていますが、それに冷水を浴びせかけんとする強烈な本がこちら。
薬師院仁志の『英語を学べばバカになる』(光文社新書)です。
タイトルからして強烈ですが、これはたぶん編集者が勝手につけたものでしょうね。
なぜ「英語を学ぶとバカになる」のか、直接的な回答は書かれていません。
むしろ本書のポイントは次の二つにあります。
・グローバル世界をアメリカと同一視することへの批判
・一般人がこぞって英語学習に時間とエネルギーを費やすことへの批判
世界=アメリカという錯覚
著者がいうには、アメリカは世界の一部にすぎません。英語も多様な言語のうちのひとつにすぎない。
世界はアメリカ以外にもたくさんの国があり、英語以外のたくさんの言語が使われている。グローバル化というのなら、そうした多様な文化へと開かれる必要がある。
英語一辺倒の態度というのは、グローバル化しているつもりで、実は英語世界への閉じこもりにすぎない。
と、著者はこのように主張しています。
これはまっとうな指摘だと思う。『翻訳というおしごと』のなかで、翻訳者からも同じような意見が出ていましたよね。
翻訳される情報が英語圏のものばかりになると、日本人の世界観が平坦化するおそれがあると。実際、その傾向は近年すでに表れてきているように思います。
逆に90年代以前ですと知識人の層が厚く、ヨーロッパやソ連由来の価値観で、アメリカのそれが相対化されていたのだと思います。
英語学習は非効率
本書のもうひとつのポイントは、一般層がこぞって英語学習に熱をあげることへの批判です。
実践レベルの英語をマスターするには、とてつもない努力が必要となります。そのコストに見合ったリターンがあるのか?著者はそう問いかけます。
真に必要なのは専門知識の体得なのであり、時間とエネルギーを費やすのならこっちなのではないか。
なんの知識もない人が英語をマスターしたところで、英語で伝えるべきなにごとをももっていない。
それに、小国と異なり巨大な人口とマーケットを擁する日本では、国内だけでほとんどの情報をまかなえる。だから日本語だけで十分。
ごくまれに英語が必要になったときには、英語の専門家にアウトソースすればよい。
このように著者はいいます。これもまっとうな指摘だと思うんですよね。
たしかに今の時代、英語を学ぶことには大きな価値があります。
しかしその価値は絶対的なものではなく、あくまでも相対的に測る必要があるんですね。英語学習にどこまでエネルギーと時間を費やすのか。それを考える必要があります。
英語に気をとられすぎて、専門技能の習得がおろそかになったら、元も子もないですからね。
ただし語学のプロのレベルまでいけば、英語=専門技能になりますが。それは例外的な事象といえます。
他の英語本にはない視点
この『英語を学べばバカになる』を買ったのはもう15年ぐらい前だと思います。
たしか宮崎哲弥が新書紹介本のなかで称賛していて、そこで興味をもって買ったのでした。
なぜか読む気がおきないままずっと積ん読状態でしたが、英語学習本にハマっているいまがチャンスだと思い、ようやく読了。
他の英語本ではなかなか触れられない視点があり、読む価値がありましたね。