中央アジアこそが世界史の中心だった 『世界史序説』【書評】
岡本隆司の『世界史序説』(ちくま新書)を読みました。
アジアを中心に世界史を語り直すという野心作です。歴史が好きな人、とくにシルクロードなどの中央アジアが好きな人は必読レベル。
アジアといっても、われわれ日本人がイメージしがちな東アジアのことではありません。
著者のいうアジアとはむしろ、中国を東端、地中海を西端にするユーラシア世界のことです。そしてその中心にはシルクロードが張り巡らされた中央ユーラシア世界がありました。
中央アジアの草原を支配する遊牧民と、湿潤地帯の農耕民、そして両者を仲介するシルクロードの商人たち。この3つの勢力が交渉し合うことで織りなされたのがユーラシアの歴史であり、またその歴史こそが世界史の中心だった。
本書ではその中央アジア、西アジア、中国の歴史がわかりやすく解説されていきます。
西洋中心史観に染まったわれわれの脳ミソには抜群の刺激であり、終始目からウロコが落ちます。個人的なことを言えば、2019年に読んだ本のトップ10には入ってくるでしょうね…
序章と終章では西洋中心的な世界史、そしてそれをモデルとして構築された日本の歴史学界への批判が書かれており、それもなかなか読み応えがあります。
本書の終盤は西洋史が扱われますが、ここはあまり噛み砕かれておらず難しい。あくまでもおまけといった感じでした。
以下、覚えておきたい箇所をメモしておきます。
・ギリシア・ローマはオリエントの西端。西欧世界ではない。
・4~5世紀の寒冷化が民族大移動を引き起こした。
・ササン朝ペルシアと東ローマ帝国の横綱相撲のスキをついてイスラムはオリエントを支配した。
・東ユーラシアでは西ほど一体的な体制が生まれなかった。その理由の一つとして、体制を支えるイデオロギーとして仏教がイスラム教に劣っていた点が挙げられる。
・11世紀になるとようやく気候が温暖化に転換する。草原が広がり、トルコ系の遊牧民が躍動する。結果、東と西の帝国秩序が崩れ始める。
・11世紀の東アジアでは、この地域にはめずらしいバランスオブパワーの体制ができあがる。
・モンゴル帝国はユーラシアを統一し、ここで世界史は新たなステージに突入する。
・フビライ・ハンは農民ではなく商人と結託した。ここに後のユーラシアの帝国に典型的な統治システムが完成する。
・14世紀の寒冷化によって「14世紀の危機」が引き起こされる。ユーラシアは分解へ。
・明朝とは反モンゴル的なシステムだった。グローバル経済を否定し、内向きに閉じこもる。
・大航海時代になるとシルクロードが衰退し、インド洋が表舞台に出てくる。陸から海へのパワーシフト。そしてアジアから西洋に覇権が徐々に移動していく。
・イギリスに始まる近代西欧とは、政治・経済・軍事・財政などすべてが一体化した一元的構造。その中心には法の支配がある。
・アジアはその歴史ゆえ政治と経済の担い手が異なる。したがって多元的な構造を持ち、法の支配は存在し得なかった。
・西洋以外で中世をもっているのは日本だけ。日本はアジアよりも西洋に似たコースをたどった。これこそが、アジアのなかで日本がいち早く近代化に成功できた要因。