左派と右派の由来はフランス革命『右翼と左翼』【解説】
政治のジャンルでよく耳にする「右翼」とか「左翼」とかの言葉。
簡単にいえば社会の改良や進歩を目指すのが左翼、それに待ったをかけるのが右翼ということになります。
でもなんで左とか右とかのイメージしづらい言葉で表現されるのでしょうか?進歩や改良の度合いで区別するのなら、まだ「左右」より「前後」のほうがわかりやすいのでは?
これらの疑問にわかりやすく答えてくれる良書が浅羽通明『右翼と左翼』(幻冬舎新書)です。
本書のおおまかな内容は以下のとおり。
・第1章…まず右翼と左翼の辞書的な定義をはっきりさせる
・第2章…右翼・左翼の言葉の由来となったフランス革命史のおさらい
・第3章…自由と平等の相克
・第4章…ナショナル(国家主義)とインターナショナル(国際主義)の相克
・第5章…戦前日本の右と左
・第6章…戦後日本の右と左
・第7章…今の日本において右と左は何を意味するか
左翼は知性と革新、右翼は感情と保守
まず左翼とは何でしょうか?
人間は自由で平等な存在のはずだ。これを妨げる障害は理性の力で排除しなければならん。この進歩的な理性の光を世界に広めていくんだ。
こう考えるのが左派の特徴です。
個々の人間の自由・平等のために、結果的に旧来のしきたりをどんどん壊していきますから、左派は改革や革命と結びつきます。
また理性の光は全人類共通とされますから、国際派に寄っていきます。
そしてこうした改革は虐げられた人々の味方になるものですから、左派は下層階級と結びつきます。
このように左翼には、社会システムを人間の知性で思うがままに作り変えていこうとする思想がコアにあります。
もう一方の右翼とはなんでしょうか?
右翼は左翼の反対です。左翼に対して「ちょっと待て」とブレーキをかける人たち。
左翼は理性を重視しましたが、右翼は感情や伝統を重視します。
人間の頭がこねくり出した考えごときで社会を思うがままに改良できるものだろうか?伝統には安易にいじってはいけないなんらかの知恵や機能がそなわっているんじゃないか?
こうして右派は反革命の勢力となり、伝統を保守しようとします。
そして保守すべき伝統は国や民族ごとにそれぞれ違いますから、右派は自然と国家主義や民族主義の方向に向かいがちになります。
ではなぜこれらの立場を右とか左とかの言葉で表現するのでしょうか?
これを理解するにはフランス革命史をおさらいする必要があります。
フランス革命と右翼・左翼の誕生
イギリスとの世界覇権争いで赤字を垂れ流しまくったフランス。こりゃまずいと税を徴収しようとした国王。
この動きに貴族や平民(のなかの金持ち)が反発することでフランス革命は始まります。
そして1789年、国民議会において次の2点が争点になりました。
・国王に拒否権を与えるか?
・議会は一院制と二院制のどちらにするか?
「国王に拒否権なんて与えないし、議会は一院制でいい」と考える人たちは、国民議会の扇形の席のうち、議長からみて左側のほうに座ります。
逆に「いや待て、さすがに国王には拒否権を残すべきだし、議会も二院制にすべきだろう」と考える人たちは、議長から見て右側の席に座ります。
前者が急進派です。国王から拒否権(議会の決定を覆す力)を奪い、議会を一院制(貴族と庶民の違いなんて無視)にするのは、フランスの旧体制とかけ離れた大胆な案ですから。それに反対する後者が保守派。
翼のように広がった扇形の議席。議長から見て左側の翼には急進派が、右側の翼には保守派が陣取っている。
これが左翼、右翼という言葉の始まりです。
フランス革命はさらにどんどん急進化していきます。
左側の席に座っていた人たちが天下を取ると、今度はもっと急進的な勢力が現れて、その者たちがまた左側の席に座る。
かつて左翼席に座っていた急進派は、今では行き過ぎた革命にストップをかけたい保守派と化し、右翼席に陣取ります。
絶対王政の廃止→王政そのものの廃止→経済的自由の実現→経済的平等の実現へ…というふうに革命はエスカレート。
経済的自由では不十分だとした正義の人ロベスピエールらは、貧民のために経済的平等を追い求め、ついに恐怖政治を出現させます(ギロチンによる処刑が日常茶飯事に)。
さすがにこれが反動を引き起こし、ロベスピエールらは失脚。
革命は経済的自由の実現のところまで揺り戻され、ナポレオンが登場し、フランス革命はこの段階で終結します。
注目すべきことは、この歴史の進展具合が全世界史のモデルと見なされたこと。
フランスという地方でこういう事態が進展したというだけじゃ終わらなかったんですね。世界のどこの国であっても、歴史はフランス革命のようなコースをたどって、自由と平等の実現に向けて進歩していくんだ、という風潮ができあがった。
だからこそフランス革命由来の左翼とか右翼とかの概念も普遍化したわけです。
こうして日本を始めとした他の国でも、左翼とか右翼とかの政治用語が一般的に使われるようになったのでした。
ちなみにフランス革命の解説書でいちばんわかりやすいのは、遅塚忠躬の『フランス革命 歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書)です。
ということで浅羽通明『右翼と左翼』の紹介でした。本書を読むと政治の基本概念がすっきりと理解できます。
他の政治系おすすめ本については以下の記事も参照のこと。