新書でカントを理解したいならこれ『カント入門』【書評】

2021年1月27日カント

石川文康『カント入門』(ちくま新書)を再読しました。

貴重な新書形態でのカント入門書です。

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内容はかなり難しい。これを一冊目に読むのは厳しいんじゃないかと思う。

以前も言ったように黒崎政男の『カント「純粋理性批判」入門』(講談社選書メチエ)のほうが一冊目の本として優れています。

本書は2冊目に読むのがベストじゃないですかね(それでも難しいと思う)

黒崎のは『純粋理性批判』に焦点を絞っていますが、こっちは3批判書のすべてを扱っています。『純粋理性批判』と『実践理性批判』と『判断力批判』ですね。

『判断力批判』の解説までしてくれる本はなかなかないので、すごく助かる。

さらに最終章では晩年の宗教論まで取り上げ、これを「第4批判書」として読み解きます(おそらくこの章がいちばん難しい)

新書にしてはかなり長い射程をもった本ですね。

 

知性重視のカント論

本書の特徴として、かなり知性に寄った構成になっている点が挙げられるかと思います。

カントの哲学といえば感性と知性と想像力の三元論体制。しかし著者は知性を最重要視しているように見えます(むしろこれが普通で、ハイデガーとかに親しんでる僕のカント像が変なふうに偏ってる可能性もありますが)

たとえば『純粋理性批判』には第一版と第二版があり、第一版では想像力に大きな役割が与えられているのに対して、第二版では想像力が背後に引くかわりに知性の役割が大きくなるのは有名な話ですが、石川は第一版をほとんど存在しないかのように解説しているんですね。

また『純粋理性批判』の解説をアンチノミーから始めるのも特徴的。

カントの『純粋理性批判』は空間と時間が感性の形式であるという話からスタートするのですが、実は思考の順序としてはこれはむしろ後半に登場する結論なんですよね。

『純粋理性批判』の最後に収められているアンチノミー論が思考の出発点で、その考察の結果として感性の話が出てくるんです。

いわば『純粋理性批判』という本は、思考の順序とは逆向きに話が構成されているわけです。

石川は本来の思考の順番通りに解説を進めるんですが、これは著者の知性寄りパーソナリティが反映している気がしますね。この順番で解説されることってかなり珍しい。正直、普通の読者からするとアンチノミー論はとっつきにくいんですよね。

 

『判断力批判』の解説でも想像力の話は意外なほど登場せず、自然の合目的性(目的因ではない)をカギにして解説が進められます。

自然は目的を持っているかのように見えるが、それは人間の反省的判断力が意味づけしているからそう見えるだけだ、という話。ちなみに「反省」とは意味づけする能力のことを意味するそうです。

余談になりますが、僕は『判断力批判』だけ読んだことないんですよね。光文社古典新訳文庫は早くこれも訳してほしい。

 

最後の宗教論も理論的には非常に興味深いのですが、カントはやはり理性的な宗教を考えていたようで、ついていけない感じはします。

実践理性が道徳を基礎づけ、その道徳が宗教を基礎づける。カントの考える宗教はこのように道徳宗教なのですね。

キリスト教と明らかに対立する面もあって、たとえばカントはイエスに最高レベルの権威は認めていません。神の観念は理性の内にあるのであり、外的な世界にそれと匹敵するものは存在し得ないというんですね。

どれだけ正確に見える三角形を描いても厳密に見ればそれは真の三角形ではなく、真の三角形は精神の内にしか存在しない。同じように、イエスがどれだけ高級な人間であったとしても、それは理性の内にある神の観念には相当しないというわけです。

この辺は明らかにキリスト教とすれ違いますし、キルケゴールやドストエフスキーもこの議論を良しとすることはないでしょうね。

 

石川文康の『カント入門』、とにかく全体的に話が高度で難しいですが、貴重なカント入門書であることは間違いないです。