柄谷行人は対談も面白い『ダイアローグ』【対談相手を紹介】
柄谷行人でおすすめしたい本に、『ダイアローグ』シリーズがあります。柄谷が過去に行った対談を集めた本で、第三文明社から発売されていたもの。
全部で5巻あります(僕がもっているのは第4巻まで)。
僕は作家や学者の対談が好きでよく読むのですが、高度な内容を気楽に読めるのがポイントですね。アイデアの源泉が明らかにされて、著作以上に理解が深まるというケースもよくあります。
しかもこのシリーズ、対談相手がやたらと豪華。内容もおもしろく、著作を補ってくれる。柄谷への理解を深めたい人に、一読をすすめます。
ダイアローグ第1巻
第1巻は1970年から1979年までの対談が収録されています。柄谷がまだ文芸批評に軸足を置いていた時期ですね。
対談の相手は以下の通り。
吉本隆明
磯田光一
長崎浩
中村雄二郎
蓮實重彦
中上健次
安岡章太郎
岸田秀
廣松渉
注目すべきは文芸批評の大先輩である吉本隆明と、戦後日本を代表する天才哲学者・廣松渉ですね。まさに巨大な対談相手。とくに後者に対しては柄谷が尻込みをしている感もあり。
対談の内容でいえば、哲学者の中村雄二郎との対談が個人的にはいちばん好きです。独特の静けさと美しさがあって。
ダイアローグ第2巻
第2巻に収録されている対談は1980年から1984年にかけてのもの。ゲーデルの不完全性定理などを持ち出して、形式化の問題について考えていた時期ですね。
対談の相手は以下の通り。
日高敏隆
小林司
寺山修司
田川建三
丸山圭三郎
栗本慎一郎・今村仁司
森敦
岩井克人・浅田彰
多木浩二
中沢新一
村上龍・坂本龍一
笠井潔
まず目を引くのは寺山修司ですね。柄谷と接点があったのかという感じ。
それから中沢新一も。この時期の柄谷は論理学的な問題を考えすぎて精神が不安定になり、オカルト的な方面に傾倒したりもしていました。中沢との会話内容はそういうトーンが強く出ています。
ダイアローグ第3巻
第3巻は1984年から1986年の対談を収録しています。『探求』が刊行され、柄谷の思索にいわゆる転回が生じた時期ですね。
対談の相手は以下の通り。
木村敏
小林登
加藤典洋
岩井克人
大岡昇平
浅田彰
松本健一・笠井潔
蓮實重彦
子安宣邦
目を引くのは加藤典洋ですね。この二人が対談していたというのはけっこう凄い。それからビッグネームの大岡昇平も。
個人的に好きなのは精神病理学者・木村敏との対談。当時柄谷が傾倒していたウィトゲンシュタインの哲学について語り合っています。
ダイアローグ第4巻
第4巻には1987年から1989年の対談が収録されています。ソ連崩壊前夜ですね。日本はバブルの真っ只中。柄谷もまだ哲学モードが強めです。
対談の相手は以下の通り。
青野聰
竹田青嗣
水村美苗
ポール・アンドラ
岩井克人・浅田彰
秋山駿
リービ英雄
大澤真幸
丹生谷貴志
中上健次
磯崎新
野家啓一
三浦雅士
島田雅彦
フレドリック・ジェイムソン
目を引くのは社会学者の大澤真幸。柄谷と対談していたのかという印象。しかもこの時の大澤ってまだそうとう若いですよね。
竹田青嗣が柄谷と対談していたというのもちょっと驚きますね。内容は予想通り(?)、柄谷が竹田に対して辛口です。
おもしろかったのは哲学者の野家啓一との対談。野家は主に分析哲学や科学哲学を専門にしている人ですが、ここで柄谷のウィトゲンシュタイン論を高く評価しています。
まとめ
浅田彰をはじめとした批評空間メンバーや、盟友中上健次との対談はあまりおもしろくないですね。対話というよりも、内輪の雑談みたいなノリが出てしまって。
やはり普段は接点のない人とのダイアローグ(対話)こそ見ごたえがあります。
第5巻もそのうち読んでみたい気持ち。