スピノザ入門にはこの本 上野修『スピノザの世界』
17世紀を代表する哲学者のひとりスピノザ。
存在するすべてが神であるとする汎神論で有名な、オランダの思想家です。
そこまでメジャーな哲学者ではないため、彼の哲学をわかりやすく紹介した本は少ないのが実情。
貴重な例外がこの『スピノザの世界』(講談社現代新書)です。
スピノザはほんと独特の考え方をするんですが、著者はそれをわかりやすく解説してくれます。
もとの思想が難しいのでスラスラ読むことは難しいですが、哲学の入門書としては上位レベルの一冊だといえるでしょう。
前半は『知性改善論』の解説
前半ではおもに『知性改善論』が解説されていきます。スピノザの真理論ですね。
存在のすべては神であり、人間はその神の一部。神が真理である以上、人間が真理を分有するのは当然だ。
スピノザはこのように発想します。
ここにはデカルト的な主観客観問題が発生する余地がないですね。
むしろこの発想ですと、なぜ虚偽が発生するのかというほうが謎に思えますよね。
スピノザはそれを、人間の認識の局所性のせいにしています。
人間というのは神の局所的な様態化です。神の一部分がウニョウニョと変形して人間になったとイメージするのがいい。
その場所からだと、いわば全体を見渡せないのです。その視点の局所性のために真理からのズレが生じる。
この局所的な認識をスピノザは、イマギナチオと呼びます。
逆に、神と十分に接続することで真理を正しく反映した概念を、共通概念と呼びます。
真理はすでに与えられている。このようなアプローチは、ハイデガーを思わせる部分もありますね。
後半は『エチカ』の解説
『スピノザの世界』の後半は主著の『エチカ』が解説されていきます。スピノザの倫理学ですね。
スピノザ思想の強烈な特徴として、神にも人間にも自由意志を認めない点があります。
幾何学の問題を解くように、すべてを必然の相のもとに見ようとするのですね。
そしてスピノザはそこから倫理を導き出します。
これは普通じゃないですよね。普通は自由意志があるからこそ倫理や道徳が要請されると考えるわけです。
スピノザではそこがまったく逆になっています。
内容に関心のある人は本書をお読みください。
『宮廷人と異端者』もおすすめです
『スピノザの世界』を読み返すのは7年ぶりでした。
直前にスピノザの『知性改善論』(岩波文庫)を読んでいたんですね。そして40ページ目ぐらいで読むのをやめました。
本書の前半はその『知性改善論』を扱っています。「えっ、知性改善論ってそういうことが書かれていたの」と思わされますね。
で、実際に知性改善論をめくり返してみると…やっぱりよくわからない。
思うにこれは、訳のせいなんじゃないかと。1931年の訳だから、古めかしい専門用語が連発されるんですね。だから理解できないというのはあると思う。
スピノザを岩波文庫で読んだら、まず確実に挫折します。
したがって入門には上野修『スピノザの世界』から入るのがいいでしょう。
マシュー・ステュアートの『宮廷人と異端者 ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』もおすすめです。
ライプニッツの評伝ですが、スピノザとの対比で描かれるので、スピノザの生涯や思想もわかりやすく切り取られています。
読み物としても抜群におもしろいです。『スピノザの世界』の次の2冊目におすすめ。