シェイクスピア『ヘンリー六世』百年戦争と薔薇戦争【書評】

2020年10月24日シェイクスピア, 英文学

世界最大の劇作家シェイクスピアのデビュー作がこの『ヘンリー六世』といわれています。

複数人で書いたとも言われています。実際、作中のテンションにムラがあるような気がしました。

僕が読んだのはちくま文庫バージョン。松岡和子による訳です。福田恆存みたいな格調の高さはありませんが、文学性を維持しつつ読みやすくもあり、けっこういい感じなんじゃないかと。

2009年に買ってそのまま積ん読状態にあった本なのですが、グリーンブラットの新刊(『暴君 シェイクスピアの政治学』)に触発され、これがチャンスだと思い一気に読破しました。

読む前は長い作品で心配だったのですが、初っ端からいつものテンションで安心しましたよ。作品はベッドフォードの次の台詞から幕があきます。

「天は黒雲に覆われろ、昼は夜に道を譲れ!この世に異変をもたらす彗星よ、きらめく長い髪を大空に振りたて、謀反を起こす悪しき星々を鞭打ってくれ、奴らの暗躍がヘンリーを死に追いやったのだ」(シェイクスピア『ヘンリー六世』

この『ヘンリー六世』、舞台は百年戦争と薔薇戦争のころのイングランドおよびフランスです。

両国がバチバチやりあっていた頃の話で、第一部ではいきなりあのジャンヌ・ダルクが登場して読者をワクワクさせます。

中盤はジョン・ケイドの暗躍で階級闘争の様相も呈し始めます。グリーンブラットの『暴君』(岩波新書)がこのケイドに着目していますね。このへんのアクチュアリティはすごい。

この『ヘンリー六世』(全三部)は『リチャード三世』と合わせて四部作を構成しています。実際、本作にはリチャード(後のリチャード三世)も登場し、野心を秘めたまま暗躍します。

劇の終盤、ヘンリー王はリチャードに向かって次のように言います。

私は予言しておく―何千何万もの人々が
いまはまだ私の恐ろしい予感を露ほども感じていないが、
やがて無数の老人が、無数の未亡人が溜息をつき、
無数の孤児たちが目にいっぱいの涙をため、
男たちは息子の、妻たちは夫の、
孤児たちは親の非業の死を嘆き、
お前など生まれてこなければよかったと歯ぎしりするだろう。(同書)

リチャードはその場でヘンリーを刺すと、次のように言い放ちます。

俺には兄弟などいない、俺はどの兄弟にも似ていない。
年寄りどもが有り難がる「愛」なんて言葉は
似た者同士の人間のなかに住み着いていろ。
俺の中には置いてやらない、俺は俺、天涯孤独だ、
クラレンス、用心しろ、お前のせいで俺は日陰の身だ、
だが、お前のために暗黒の一日を用意してやる。(同書)

こうして物語はあの名作『リチャード三世』へとつながっていくわけです。

 

なおシェイクスピアの史劇にはさらにもう一つの四部作がある模様。『リチャード二世』『ヘンリー四世』(全二部)『ヘンリー五世』がそれです。

僕はまだいずれも読んだことがないので、今年中に読んでみるつもりです。

史劇を読んでいると、イングランド史にも興味が湧いてきますね。この機会に『イギリス史10講』(岩波新書)あたりで学習してみようかと思います。