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宇宙物理学の伝説的啓蒙書『ホーキング、宇宙を語る』【難しすぎ】

2023年11月22日

アインシュタインの再来といわれた物理学者ホーキング。

そしてこの車椅子の天才が一般読者に向けて書き下ろした伝説的な啓蒙書がこの『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』(ハヤカワ文庫)です。

はっきり言って内容はむずかしいです。本書は1,000万部以上も売れているそうですが、内容の大部分を理解している人はおそらく1%もいないと思われます。

とりあえず最初に読む宇宙物理学の本じゃないことは確か(最初に読むべき本については後述)。

とはいえ文章はユーモラスで面白く、ときに哲学的な味わいも感じさせる奥深さがあります。読み物としての力がすごい。

僕はたしか高校1年生のときに初めてこの本を読んだのでした。その時は「こんなに難解な書物がこの世に存在するのか」と思いましたね。

しかし今回超久方ぶりに読み返してみたところ、そこそこ理解できるようになっていてちょい感激。なんだかんだ読解力は伸びてるんだなと。あと宇宙物理学系の本を何冊も読んで基礎知識がついてることも大きいかも。

本書の大まかな構成は以下のとおり。

・第1章「私たちの宇宙像」…アリストテレスやプトレマイオスの話で導入。またホーキングの科学観も語られます。彼は科学理論についてかなりプラグマティックに考えている模様(後述)。

・第2章「空間と時間」…ニュートンからアインシュタインまで。ニュートンの絶対時間と絶対空間が否定され、相対性理論の時空間が登場。

・第3章「膨張する宇宙」…ハッブルの発見について。アインシュタインの考えと異なり、実は宇宙は膨張していた。これは宇宙の始まりへと思索をいざない、その出発点において相対性理論が機能しえないという気づきにつながります。

・第4章「不確定性原理」…生まれたばかりの超極小の宇宙では、アインシュタインの理論が機能しない。したがってそれに変わる超微小世界向けの理論を探求する必要が出てきます。こうして話は量子力学へとつながります。

・第5章「素粒子と自然界の力」…量子力学が扱う超微小な粒子についての解説。

・第6章「ブラックホール」…ブラックホールの性質について。ペンローズと共同で研究したブラックホール内部の特異点のことなど。

・第7章「ブラックホールはそれほど黒くない」…ブラックホールは粒子を放出している。なぜこのような現象が起こるのか?粒子・反粒子のペアが鍵(ちなみにロヴェッリいわくホーキング最大の研究成果はブラックホールの蒸発を予測したこと)。

・第8章「宇宙の起源と運命」…インフレーション理論と量子重力論について。たんなる計算上の手続きとしての虚時間の導入。

・第9章「時間の矢」…時間とは何か?熱力学的な時間、心理学的な時間、宇宙論的な時間の3つにわけて探求。

・第10章「物理学の統合」…一般相対性理論と不確定性原理を融合させるためにはどうすればいいのか?弦理論(ひも理論)について。

・終章「人間の理性の勝利」…現代科学は哲学的な問いを忘れてしまった。一方で哲学者は科学理論の最前線を理解できない。しかし究極的な統一理論が完成すればこれが変わる。ふたたび存在の問い(なぜ宇宙は、われわれは、存在するのか?)が問われ、みながそれに参加できるようになる。この問いに答えることができたとき、人間理性は神の心を知り、最終的な勝利を得る。

 

統一理論から存在の問いへ

ホーキングは科学理論についてかなりプラグマティックな見方をしている模様。だから「虚時間」みたいな概念を平気で導入できるのかなと。

虚時間とかきくと「えっ、そんなわけわからんものが宇宙に秘められている!?」みたいに感じますが、ホーキングからしたら、虚時間は計算を無矛盾にするための小手先のテクニックにすぎないとのこと(一応は)。

ホーキングは科学の理論について次のように言います。

理論とは要するに宇宙全体あるいはその限定された一部についてのモデルであり、モデルの中の量をわれわれの行う観察に関係づける一組の規則である(『ホーキング、宇宙を語る』林一訳)

そして優れた科学モデルは次の2点を満たします。

・なるべくシンプルでなるべくたくさんの事象を説明できる
・未来の事象を予測できる

とはいえ、

どんな物理理論も、仮説にすぎないという意味では、つねに暫定的なものである。理論を証明することはできない。ある理論が、実験結果とこれまでいかに多く合致してきたとしても、このつぎに実権をしたときには、結果が理論と矛盾しないという保証はない。(同書より)

しかし、理論の内部に数学的な矛盾がなく、しかもその理論が現実の事象について正しく予測を行うなら(ブラックホールの存在を予知するなど)、それは正しい理論だと見なしてよいとのこと。

そして物理学の目標は全宇宙を記述するただ一つの理論を提供することだと、ホーキングはいいます。

 

さらに話はそこにとどまらず、哲学的な存在の問いへと向かいます。

たとえ、存在可能な統一理論が一つだけあるとしても、それはまだ一組の規則と方程式にすぎない。この方程式に生命を吹き込み、この方程式で記述される宇宙をつくるのは何だろうか?科学が数学的モデルの構築に用いる普通のやり方では、そのモデルで記述しようとする宇宙がいったいなぜ存在しているのかという疑問には答えようがない。宇宙はなぜ、存在するという面倒なことをするのか?統一理論には自分自身の存在をもたらすほど大きな強制力があるのか?それとも創造主が必要なのか?もしそうだとすれば、創造主は宇宙に何か他の影響も与えるのではなかろうか?そして、創造主を創造したのはだれなのか?(同書より)

「なぜ何もないのではなく、何かがあるのか」と問うたライプニッツ的な波動。

思うに、無こそ人間が頭のなかで勝手に考え出しただけの抽象モデルなのかもしれませんね。パルメニデスがいったように、無は存在しないのかも。存在しか存在しないのかも。まあ存在したら無じゃないですが。

 

冒頭でもいったように、本書は最初に読むべき宇宙物理学の本ではないです。もっと簡単な入門書からスタートしましょう。

どんな本から入ればいいのか?以下の記事を参考にしてみてください。