【洋書】『神の歴史』一神教はいかにして神を造ったか【書評】

キリスト教

カレン・アームストロングのA History of God(邦題は『神の歴史』)を読みました。

ユダヤ教、イスラム教、キリスト教における神の歴史をたどる宗教学の本です。神の歴史というより、一神教の信徒らが神というシンボルをいかに作り変えてきたかの歴史といったほうが正確かも。著者は次のように言っています。

This book will not be a history of the ineffable reality of God itself, which is beyond time and change, but a history of the way men and women have perceived him from Abraham to the present day.

のちに神と名指される体験がまずあった。神というシンボルはラベルにすぎない。これが著者の考え方ですね。本書はその神というラベルについての歴史です。

記述は一神教に批判的ですが、アームストロングは若い頃に修道院に属していたこともあり、自ら宗教者としての道を歩いてきた人ですから、宗教性へのリスペクトが感じられて非常によいです。

構成ですが、ユダヤ教とイスラム教とキリスト教をバランスよく語っています。中盤のイスラム教パートがとくに分厚い印象ですかね。かなり詳しい記述。

後半は宗教改革、啓蒙主義、19世紀における神の死ときて、最終章で20世紀の最新状況が概観されます。最終章ではバルトやティリッヒといった神学者の名前が次々に登場し、現代神学入門といった趣もあります。

一神教を神秘主義的な方向に改革せよ

アームストロングは一神教にかなり批判的なスタンスです。一神教がこれほどまでに歴史を支配できたのは、それが人間にとって都合のいい神様だからだと著者はいいます。

A personal God like Yahweh can be manipulated to shore up the beleaguered self in this way, as an impersonal deity like Brahman can not.

人格的な神であれば、人間的な価値観をなんでもかんでも投影して思い通りに操作することができるというんですね。これ一般的なイメージとは真逆の主張で、けっこうインパクトありますね。でも言われてみれば確かにそうかも。

最終章でも、1970年代以降に世界的な盛り上がりを見せる原理主義に対して、強い批判がなされます。

著者はこの一神教を改革し、従来の神秘主義者らが思い描いてきた神の概念を主流にすべきだという考えのようです。

ユダヤ教にもキリスト教にもイスラム教にも神秘主義者らが数多く存在し、宗教的真実を洞察してきました。ただしなぜか、東洋の宗教とは違って、神秘主義が主流になることはなかったんです。著者としては一神教もそっちの方向に回帰させたいわけですね。

仏教の顕教と密教の区別を使うとわかりやすいです。顕教は一般民衆向けにアレンジされたわかりやすいストーリー。密教は宗教的体験をより正確に反映した難解な教説です。神秘主義とはこの密教にほかなりません。

原理主義的な一神教は、顕教のストーリーを宗教の核心だと錯覚したものにすぎない。本当は密教にこそ本来的な宗教性がある。そしてそれは自由で思いやりに満ちた性格を秘め、現代社会とはるかに親和的だ、という話の流れです。

神のシンボルはプラグマティックにとっかえひっかえされてきた。ラベルはラベルでしかないのだから現実に合わなくなったら捨てればいい。本書の歴史的な記述はこれを証拠立てるためのものといっていいかもしれません。

従来の一神教の神は現代の社会とはそぐわなくなっている。とはいえ人間は意味を求める生物だからスピリチュアルな領域なしにはやっていけない。だから新しい宗教性が必要、ということですね。

英語の多読の一環としてなんとなく手にとった洋書でしたが、思ったよりも強力な内容で、著者の考えも僕自身のそれに近い感じ。

日本語訳でもっとしっかり読み直してみたい気もします。

ちなみに本書の副読本には岩波現代文庫から出ている『聖書時代史』と、中公文庫から出ている井筒俊彦の『イスラーム思想史』がおすすめです。