覇権国なき国際政治はどこへ向かうのか『Gゼロ後の世界』【書評】

2021年9月27日

イアン・ブレマーの『Gゼロ後の世界 主導国なき時代の勝者はだれか』を今更ながら読んでみました。

2011年の本ですが今でもぜんぜん有効。現在の国際社会の置かれた文脈を完璧につかむことができます。もっと早く読んでおけばよかった。

タイトルにある「Gゼロ」とはどういう意味でしょうか?簡単に言えば、世界にリーダーがいないということです。

アメリカは膨れ上がる債務の影響で世界の警察ができなくなりつつあります。2020年現在、その状況はさらに悪化中。

一方で、中国を始めとする新興国は国内問題への対処に精一杯で主導国としてのコストを負担する用意も意欲もないとのこと。みんなのためにコストを負担する暇があったら自国の利益を追求するわ、というわけですね。

Gゼロは存在するだけで世界に悪影響をもたらす構造であり、長きにわたってそれが存続することはできないとブレマーは言います。

ではこれからの世界はどうなっていくのか?

著者は以下の4つのパターンを展望しています。

・G2
・協調
・冷戦2.0
・地域分裂世界

まずG2とは他に抜きん出た国力を持つ2国すなわちアメリカと中国が協調する体制のことをいいます。リーダーが二人いるということ。

しかしこれが実現するためには中国がリーダーとしての能力と自信をもつ必要があります。中国はその段階に達していない、とブレマーは見ています。国内問題に対処するだけで精一杯であり、主導国としてのコストを負担することはできない、と。

実際、中国の上層部もそのように考えているようです。おそらくこれは2020年の現在でも変わっていません。対外的な拡張があっても、世界の政治や経済のインフラを管理するリーダーとしての役目を目指しているというより、あくまで国内の経済問題や社会問題への対処の観点からそうしているのだと思われます。

 

次に協調。これは19世紀ヨーロッパのウィーン体制のようなシステムのことをいいます。G20を中心とした各国が協調して平和な世界を作るみたいなことですね。

しかしより複雑化した現代社会でそんな芸当を演じるのは無理だとブレマーは断じています。

 

次は冷戦2.0。アメリカと中国が主に経済分野で戦争状態に突入するシナリオです。

ブレマーはこの可能性は低いと見ています。ほぼ完全に別世界に住んでいたソ連とアメリカの関係と違い、中国は世界中の国と強固に結びついていて、紛争が発生したら自らにとっても多大なマイナスとなるためです。

 

最後は地域分裂世界。世界が複数のブロックに分かれ、それぞれがそれぞれの大国を中心にやっていくというシナリオ。

これがもっとも実現性が高いとブレマーは見ています。たしかに実際こうなりつつあるように思う。

 

ブレマーの理想の真逆へと爆進するアメリカ

ブレマーの立場はグローバリストな模様。アメリカは世界に関与し、リーダシップを取るべきだといいます。

そのためにはグローバル経済への投資が不可欠であり、債務の削減も必須(これのせいで外部に展開できなくなったのだから)。これをどうやってアメリカ国民を納得させるのかが政治家たちの腕の見せ所だ、と。

彼はよくツイッターでトランプを批判していましたが、それもむべなるかなという感じですね。ことごとく自身の理想と真逆を行ってるわけですから。

世界への関与ではなく孤立主義。グローバル経済への投資ではなくその切断(たとえばアジア経済圏への切込みとして構想されたTPPから脱退など)。借金の整理どころかFRBにお金を刷らせまくって債務がとんでもない額に。国民を説得するというより国民の感情に波乗りする。ブレマーにとって悪夢のような時代だったといえそうです。

国際社会はこのまま地域分裂世界が深刻化していくのでしょうか?