分裂するアメリカとファンダメンタリスト『宗教からよむ「アメリカ」』【書評】

2020年、アメリカの内政は混乱を極めています。

しかし森孝一の『宗教からよむアメリカ』を読むと、現在の問題は1990年代の前半にはすでにはっきりと姿を現していたことがわかります。

「アメリカは今後、一つの国として存続し続けることができるのだろうか」という不安と疑いが、ますます強まっている。レーガン時代以降、アメリカ社会を覆っている「保守化」の潮流は、このようなアメリカ人の「アイデンティティ・クライシス」を背景に持っている(森孝一『宗教からよむ「アメリカ」』)

1995年に発売された本ですが、現在書かれた文章だと言われても違和感ないですよね。

 

ロバート・ベラーが言うように、アメリカ社会はキリスト教をコアにした「見えざる宗教」によって統合されています。アメリカは巨大な宗教国家なのです。

そのシステムが動揺しています。大きな転機となったのは1960年代のベトナム戦争。

アメリカ的な価値観に疑問が持たれるようになり、アメリカの若者はカウンターカルチャーに没頭していきました。白人と男性を中心とした旧来の価値観は崩れ、女性や異民族さらには様々なマイノリティを受け入れていこうとする多様化の流れが加速します。

ちなみにウォーラーステインの世界システム理論では、このベトナム戦争によってアメリカのヘゲモニー国家としての地位(要するに覇権)は終わったと考えます。

 

アメリカといえども多様性を受け入れすぎることへの危機感はあります。それが反動として表れる。

1980年のレーガン大統領誕生はその象徴ですね。彼は保守大連合によって選挙を制しました。そしてこの大連合の重要な一角をなしたのが新宗教右翼です。

新宗教右翼のコアとなる主張は次の3つ。

・世俗的な人間中心主義への批判(神への回帰)
・伝統的な家庭を守ること
・アメリカ中心主義

見事にベトナム戦争以降の多様化に反対しています。

需要なのは、このようなファンダメンタリズムが社会の片隅に住む少数派なのではないということ。むしろアメリカの一大勢力をなしています。

外から見ると大学やメディアなど多様化を推し進める勢力が目立つけれども、社会の草の根レベルではそれに対抗しようとするファンダメンタリストが大勢いるんですね。

彼らは「古き良き」アメリカ(もっとも、当時のアメリカを「古き良き」と感じるのは一部なのですが)を取り戻そうと望んでいます。

 

宗教もこの多様化と保守の対立を沈静化できない模様。いやむしろ火に油を注いできたと著者はいいます。

アメリカ宗教界のリベラルは「解放の神学」をコアにもっています。マイノリティからキリスト教を解釈しなおそうという運動で、1960年代の南米から始まり、アメリカにも広まっていったものです。黒人、女性、性的マイノリティにも権利を与えようというのですね。

ファンダメンタリストはこれを認めません。彼らからすると「解放の神学」はアメリカのアイデンティティを破壊し国家を危機に陥れるものにほかならない。

1990年代当時、両者の対話はまったくといっていいほど存在していなかったといいます。おそらく現在でも状況はそう変わらないのではないでしょうか。というか悪化してそう。

本書の議論は現在のアメリカにもそっくりそのまま当てはまる所が多いです。本書の議論を追うと、トランプ大統領が誕生するにいたった流れがはっきりわかりますね。

アメリカ統合のカギはキリスト教にあり

現代のアメリカは優秀な移民が経済を引っ張っています。悪くいえば凄いのはトップ層だけです。

多様性を排斥したら、その経済システムが目に見えて衰えることになるでしょう。現実的には多様性を受け入れる方向でやっていくしかないと思われます。

数十年後には白人がマイノリティになると予測されています。これは想像を絶する事態で、保守が慌てるのも無理はないですよね。しかしその流れを無理に止めようとすると、今回のような内乱や分裂へと至ってしまう。もはや引き返せないところまで来たのであり、レーガンやトランプが巻き起こした現象は「古き良き」アメリカの断末魔といえるでしょう。

これ以上の多様化を受け入れて、アメリカは社会を統合することができるのか?

 

カギはキリスト教にあると思います。将来のアメリカ社会を統合できるとしたらこれしかないと思う。

ピュー研究所の予測では、2050年のアメリカ国内でのキリスト教徒の割合は66.4%です。現在の78.3%に比べると低下しますが、それでも大半がキリスト教徒であることには変わりがありません。

そしてイスラム教徒は2.1%。ヒンドゥー教徒や仏教徒、ユダヤ教徒はいずれも1%台です。他の大宗教もマイノリティにとどまっています。ここもカギ。

多様性を受け入れる方向でキリスト教が一丸となりつつ(つまりファンダメンタリストには上手いこと退場してもらう)、キリスト教以外の宗教はマイルドに制限していく。これしかないでしょう。

宗教にまで過度な多様性を認めたら、アメリカは分裂して終わると思います。

もう少し「アメリカと宗教」の観点から勉強を続ける予定。次は森本あんりの『キリスト教でたどるアメリカ史』を読みます。