独創的なアイデアの生み出し方『知的生産の技術』【書評】

2020年10月24日

『文明の生態史観』などの先進的な研究で有名な民俗学者、梅棹忠夫。

彼が頭脳労働者のためにまとめたテクニック集が、『知的生産の技術』(岩波新書)です。今回、十数年ぶりに読み返してみました。

1969年に出た古い本ですが、普遍的な内容を秘めており、その結果2020年の現在でも売れ続ける異常なロングセラーの一つとなっています。

オーディブルにオーディオブック版もあります

 

内容は手帳、カード、読書、タイプライター、手紙、日記、原稿、文章の書き方などなど。体系的な本ではなく、縦横無尽にテクニックを紹介するタイプ。

現代であればパソコンやスマホの項目もあったのでしょうね。

 

本書の代名詞ともいえるほど有名なのが、カードの章。

京大型のやや大きめなカード(単語帳みたいなやつ)を使って、アイデアを編集するテクニックが紹介されます。

まず、思いついたことはなんでもカードに書いていく。

アイデアをカードに書き出すことを習慣にすれば、いつかは膨大な量がたまりますよね。

次に、それを組み替えて編集する。この組み換え作業こそが大事だと梅棹は述べています。

アイデアとアイデアの思わぬ接合が独創性なわけですが、このカードの組み換え作業は独創的なアイデアに直結するものですね。

たしかドイツの社会学者ニクラス・ルーマンもこの方法を使っていたと思います。どこで言及されていたかは忘れましたが。

梅棹忠夫の読書術

個人的にもっとも影響を受けたのは「読書」の章。

ここで梅棹は、線を引きながら本を読めと主張しています。それだけなら誰でもやっていることなのですが、梅棹は線を引くべき箇所は2種類あるというんですね。

まずは「大事なところ」。その本や著者を理解する上で重要な文章に線を引いていきます。

次に「面白いところ」。かならずしも重要な箇所とは限らなくても、自分が面白いと感じた文章ってありますよね。そこにも線を引きます。

そして注目すべきことに梅棹は、「大事なところ」よりも「面白いところ」が大切だというのです。前者でなく後者こそが、オリジナルの着想やひらめきに通じるからですね。

僕は読書のあとのアウトプットのさいに、なるべく主観的な意見を差し挟むようにしています。なぜそうするようにしたのか考えてみると、この『知的生産の技術』に影響されて始めたことだったような覚えがありますね。

ともかく色々な面で非常に啓発的な新書です。

 

梅棹忠夫といえば『文明の生態史観』

冒頭でも触れましたが、梅棹忠夫といえば『文明の生態史観』(中公文庫)が有名です。

世界の文明の差異を空間的に把握した名著。文明の違いを時間的に把握するヘーゲルやマルクス主義へのアンチテーゼになっています。

ウォーラーステインやブローデルなどの研究に見られるように、現在では空間的な文明の把握が主流になっていますが、梅棹の研究はそれらを先取りしていた面があるとして再評価されています。

梅棹に興味の湧いた人は、これも読んでみるといいでしょう。