『ローマ人の物語 キリストの勝利』なぜ異教は敗れたか【書評】
ローマ人の歴史を描いた本といえば、塩野七生による「ローマ人の物語」シリーズが有名です。
新潮文庫で全40巻という膨大なシリーズ。といっても一巻あたりのボリュームは200ページ前後と少なく、なぜここまで分割する必要があったのかと思いますが。
この「ローマ人の物語」を初めて読みました。
手にとったのは終わりから2番目に位置する「キリストの勝利」。ローマ帝国そのものには興味がないのですが、キリスト教の歴史に関心があったんですね。
キリスト教とローマ帝国というものがどうも頭のなかで結びつかないので、本書を読むことにしたわけです。
なぜローマの伝統宗教は簡単に追放されたのか?
本書はローマ帝国がキリスト教に飲み込まれる様が描かれています。大まかな流れは以下の通り。
コンスタンティヌスは帝国をまとめあげる統治の手段としてキリスト教を優遇
↓
その後継者らも同じ路線を強化していく
↓
ユリアヌスは反動的な政策をとりキリスト教への優遇をストップ
↓
アンブロシウスがテオドシウスらを操りキリスト教を国教化
だいたいこんな感じの流れ。塩野はローマの寛容的な精神を好んでおり、排他的な一神教には批判的な論調です。
疑問なのは、なぜキリスト教の国教化というただならぬ事態を成功させることができたのかという点。
キリスト教を公認しただけならまだわかるのですが、キリスト教を国教にしてそれ以外の宗教を追放するというのは次元が違いますよね。
普通に考えれば相当な反発が出て大混乱に陥りそうなものですが。なぜローマの神々はわりと簡単に葬り去られたのか?
たぶんローマ人は宗教に関心がなかったんだろうなと思う。現代の日本人みたいな。宗教のことはどうでもいいと思ってたんじゃないか。
というか、そうでないとこの出来事は説明がつかないと思う。
ここは非常に興味深いですね。このテーマに関連する本を読んでみたい気持ちです。
悪文なのにスラスラ読める不思議
塩野七生の著作を初めて読みましたが、非常に読みやすいです。
司馬遼太郎のような美文ではなく、どちらかといえばむしろ悪文のような気さえしますが、なぜかスラスラ読める。
これが売れる秘訣かなと思いました。
他の巻を読むかどうかは未定。次に読むなら西ローマ帝国の滅亡を扱った最終巻ですね。個人的に、興隆期や全盛期よりも終末に興味があります。
あと本書の登場人物ではやはりユリアヌスが存在感を放ちます。ギリシア哲学に憧れ、キリスト教を抑制した「背教者」ですね。
この人に関しては昔から辻邦生の『背教者ユリアヌス』という本に興味をもっており、そのうち読むかもしれないです。