【洋書】『帰ってきたヒトラー』ブラックユーモア炸裂の名作【書評】

2020年11月29日

ティムール・ヴェルメシュのLook Who’s Backを読みました。『帰ってきたヒトラー』の英訳バージョンです。原書はドイツ語。

あのヒトラーが2011年のドイツに復活するという筋書きで、センセーションを巻き起こした名作(問題作)です。

ヒトラーが帰ってきたというと深刻な事態が想像されますが、基調としてはこれ以上ないほどにユーモラスな本です。

ヒトラーは大真面目ですが、周りの人間は彼を本当のヒトラーだとは認識していない。しかもヒトラーも周りの人間が自分を偽物だと思っていることに気づかない。

お互いの認識は食い違ったまま、どこまでもコメディカルに物語は進行します。

こういう構成ってドンキホーテが祖なんですかね?

 

そしてヒトラーが魅力的な人物として描かれる点がポイントのひとつ。

あの弁論の才能とリーダーシップで、ヒトラーはまたたく間に人気者になっていく。しまいにはYoutuberとして大成功を収めます。

実際、ヒトラーが別の名前と風貌をもって現代に蘇ったら、いともたやすく権力を掌握できるでしょうね。

頭のキレにせよ弁論の才にせよ、たとえばトランプ氏などとは比べ物にならないレベルなわけですから。

本書はヒトラーを風刺しているようにも読めますが、逆にヒトラーによって現代社会を風刺しているようにも読めてしまいます。

どちらが本音なのか?

どちらもというのが真実でしょうけれど、なにかデンジャラスで恐ろしい本に見えてくることも確かです。

英訳版の文章むずい…

この『帰ってきたヒトラー』の英訳版ですが、英語は難しいです。以前、日本語訳で読んだことがあるので、もっとスラスラ読めるかと思っていました。

物語は主人公ヒトラーの一人称で綴られるのですが、ヒトラーは古めかしい文体でしゃべるんですね。戦前日本の政治的文書に出てくる勇ましい文体みたいなかんじ。

これが難解さの理由かと思われます。

あと、内容がかなりハイコンテクストな点も厳しいかも。ドイツの歴史や政治にくわしくないと、チンプンカンプンになる場面が多いです。

まぎれもない名作なのですが、残念ながら多読向けの洋書としておすすめすることは難しいですね。

 

読むなら日本語バージョンがいいですね。河出文庫から出ています。

この日本語訳がほんとうにすばらしい。文章がきれいなことに加え、ユーモアを上手くすくい取れている点が最高。読んでいるとなんども爆笑してしまいます。

訳者にめぐまれた作品のひとつですね。