ドラえもんのタイムマシンに元ネタはあるのか【広瀬正『マイナス・ゼロ』を読んで思ったこと】
ドラえもんのタイムマシンってすごいな。今さらこんなことを思い始めました。
なにが凄いって、次の2点ですよ。
・空間移動機能が搭載されている
・亜空間に置いてある
こう思うようになったきっかけは、広瀬正の『マイナス・ゼロ』(新潮文庫)を読んだこと。
これは日本のSFを代表する小説で、タイムマシンが登場するんです。けれども、ドラえもんのタイムマシンとは次の2点で仕組みが違うんですね。
・空間移動機能がない
・実空間に置いてある
このせいで主人公はトラブルに見舞われることになります。
主人公が過去にワープすると、地形が変わっているんですね。1メートルほど土地が低くなっている。そのせいで、ワープ後の垂直落下により主人公はお尻を強打してしまいます。
元の世界に帰ろうとするときも大変です。その位置のまま現代に戻ると床にめりこんで大変なことになりますから、村人の助けをかりてタイムマシンをはしごなどで1メートル上に押し上げ、そこでワープする羽目になるのです。
なんだかこっけいな描写ですが、たしかに時間移動しかできないタイムマシンだとこうなりますよね
われわれの想像するタイムマシンはこのようなトラブルとは無縁ですよね。これってドラえもんの影響かもしれない。
ドラえもんのタイムマシンはレベルが違う
まずドラえもんのタイムマシンには空間移動機能がありますよね。
これは作中でも自覚されています。たとえば「のび太の恐竜」では、空間移動機能の故障が冒険の発端でした。
さらに、ドラえもんのタイムマシンは亜空間に置いてある点が特徴です。これが凄いです。
広瀬正の『マイナス・ゼロ』に登場する類いのタイムマシンを考えてみれば、その凄さがわかります。
マイナス・ゼロ型のタイムマシンですと、時間旅行が文字通り命がけになってしまうのですね。
過去や未来、とくに未来にワープするのが危なくてしょうがないのです。
たとえば未来にワープしたら、そこは放射能に汚染された死の大地かもしれない。あるいは爆弾が炸裂する瞬間かもしれない。そこまでいかなくても、たとえば高速道路ができていて車が突っ込んでくる瞬間かもしれない。
『マイナス・ゼロ』に登場したようなタイムマシンでは、仮に実在したとしても、まったく実用に耐えないわけです。
しかしドラえもんのタイムマシンはこの問題を解決しています。
なんといっても亜空間にタイムマシンがおいてあるわけですから。そして亜空間で時間と空間を移動し、降りるときも現地の空間上にポカッと穴があいてそこからのび太らが顔を出す。
これなら移動先がどのような環境でも危険はないですよね。もし爆弾が炸裂していたとしても、22世紀のテクノロジーでシールドが張られていたりなんかして、亜空間のなかは安全でしょう、おそらく。
ドラえもんのタイムマシンに元ネタはあるのか?
タイムマシンものの元祖であるウェルズの『タイムマシン』でも、登場するタイムマシンは『マイナス・ゼロ』のそれと同じタイプでした。
そこらへんにごろっとタイムマシンが置いてあるんですね。たぶん空間移動機能もついてなかったと思う。
ウェルズはここから生じる問題については考えていませんが、広瀬正はそれを突き詰めて考えたといえるでしょう。
タイムマシンというとき、ふつうはウェルズのようなタイムマシンを考えるはず。これとドラえもんのタイムマシンには発想に相当の差があります。
ドラえもんの作者はあれをどうやって思いついたのでしょうか?自分で考え出したのなら天才ですね。
元ネタがあるのかどうか、気になるところです。