十二国記第5巻『図南の翼』 黄海の民を描く重要な巻【感想】
十二国記シリーズ再読計画も、第5巻の『図南の翼』までやってきました。
この『図南の翼』、外伝よりの立ち位置ながらも、シリーズ最高傑作に推す声が少なくない名作です。
やはりインパクトが強かったのでしょうか、7年ぶりの再読ながらも、この巻はけっこう内容を覚えていました。
僕が読んだのは講談社文庫バージョンですが、今では新潮文庫から新たに発売されています。
本書の主人公は珠晶。前の巻にチラッと登場し、読者に異様なインパクトを残したあの供王珠晶です。
その珠晶の過去が物語られるのがこの巻。珠晶が王になるために家を飛び出し、ホウ山に向けて旅をする話です。
前の巻を読んでいれば、珠晶の旅がどういう結末に至るのか、読者はもう知っているんですけどね。
一人で旅をするのではなく、仲間とパーティを組み団体で昇山します。RPG感が強く、指輪物語のような王道ファンタジーを思わせますね。
珠晶の強運と王気がまわりを巻き込んでいく様が痛快。
他の貴族の従者たち、黄海の民、他国の王族、みなが珠晶の支配力に知らずと影響されていきます。
第2巻と対をなす構成
この『図南の翼』ですが、第2巻『風の海 迷宮の岸』と対をなす構成になっているところにも注目したいですね。
第2巻では読者はタイキとともにホウ山で昇山の者たちを待っていました。
一方、本書では珠晶らとともにホウ山を目指して昇山します。お互いの内容を補いあっているわけですね。
第2巻を知っていると、今ごろホウ山では麒麟や女仙たちがあんなふうにして待っているのかとわかるし、本書を読むと、昇山してくる者たちの背後にはこんな大変な旅路があったのだなとわかるわけです。
昇山の者たちの苦労を知ると、ホウ山の麒麟や女仙たちはいくらなんでも気楽すぎないかと思えてきますが。
供国について語りながらも、さりげなく奏の王を初登場させる演出もグッド。
少しずつ、十二国記世界の全貌が明らかになります。
実はものすごく重要な巻だったのかも…?
最新刊の『白銀の墟 玄の月』を読んでみて思ったのですが、この『図南の翼』という作品は思っていたよりも重要なポジションにいるのかもしれないですね。
それというのも、『白銀の墟 玄の月』を読んだ感じ、どうも黄海の民が十二国記シリーズのカギを握ってきそうな雰囲気があるのです。
そして黄海やそこに生きる人々を直接描いた作品といえばこの『図南の翼』。
したがって本作はメインストーリーから外れた単なる外伝というよりも、世界観のコアに触れたきわめて重要な巻だった可能性があります。