柄谷行人と見田宗介『戦後思想の到達点』【書評】

2020年3月1日柄谷行人

柄谷行人と見田宗介の読者であれば必読の本がでました。大澤真幸がふたりにインタビューする『戦後思想の到達点』(NHK出版)です。

自伝的な内容になっています。大澤真幸の質問に答えるかたちで、柄谷行人と見田宗介の過去から現在までの仕事が整理されていく。

今までの仕事がコンパクトに要約されるので、入門書としても読めるかも。

 

大澤真幸の頭の良さが光りまくってますね。質問のほうも本質をついていて面白いし、質問が深いおかげで柄谷や見田の返答もまた興味深いものになる。

インタビュアーのほうがこれだけ頭がいいケースってけっこう稀かも。

とくに柄谷行人との対談がおもしろいです。柄谷の変化を初期の夏目漱石論と結びつけて、存在論的次元から、存在論に媒介された倫理的次元への回帰だと理解するところなどは、鳥肌が立つほどです。

なぜ柄谷行人と見田宗介なのか?

本書は「戦後思想のエッセンス」というシリーズの一冊目とのこと。戦後の思想を総括し、そしてそれを超克することが狙いだそうです。

創刊号に柄谷行人と見田宗介が選ばれたのは、このテーマを体現する存在だからですね。つまり、戦後日本に深く規定されながらも、そこをはるかに超え出ていく普遍的な思想を紡ぎ出したという点で。

アクチュアルな状況に対応しながらも、そこに埋没しない。普遍的なことを考えながらも、自国の社会から遊離することもない。この両面を併せ持っています。

戦後の思想を総括し、そしてそれを超えることが狙いというなら、このふたりはまさに適役なわけです。

 

基本的に日本の学者は、海外の研究を輸入するのが仕事といえます。しかしこのふたりは、例外的にオリジナリティのある存在なんですよね。

しかも柄谷の場合は逆に海外に影響を与えるほどですからね。著作は外国語に翻訳され、アメリカ、中国、韓国などに多数の読者をもっています。

カント研究の本場ドイツでカントの講演を行うなどというのは、そのわかりやすい例です。ふつうは本場のドイツ人が、わざわざ日本人のカント論なんて聞きたがりませんよ。

どうしてこのような存在が戦後日本に生まれ得たのか?大澤も言っていますが、本当に謎の存在です。

印象に残ったところ

以下、柄谷行人のパートから面白かった内容を一部挙げてみます。

・ドストエフスキーは近代文学ではなくルネサンス的な文学だ

・小林秀雄のドストエフスキー論は平坦であり、その意味でルネサンス的ではない

・廣松渉とは学生時代からのつきあいだった

・柄谷は一人で勝手に思索するタイプなのに、なぜかその思考が同時代の最先端とシンクロする

・中学のころからソクラテスとデカルトが好きだった

・バスに乗るときに交換様式論を思いつき、降りるときには全部できていた

・日本は亜周辺の意義を、中国は帝国(帝国主義ではなく)の意義を再考せよ