『翻訳というおしごと』フリーランス時代の必読本【書評】

2021年1月29日

翻訳者になりたい、翻訳業界のことを知りたい。このような思いをもつ人にオススメの本が出ました。

実川元子の『翻訳というおしごと』(アルク)です。

この手の本としては山岡洋一の『翻訳とは何か 職業としての翻訳』が有名ですが、今から読むならまずは『翻訳というおしごと』にしたほうがいいです。

『翻訳というおしごと』の構成

全体の構成は以下の通り。3つの章から成ります。

・翻訳業界の仕組み
・「三つの呪縛」を解き放つ
・明日も翻訳者として輝くために

 

翻訳には3つのジャンルがある

第1章の「翻訳業界のしくみ」では、業界を3つにわけたうえで、それぞれの動向が解説されていきます。

翻訳には3つのジャンルがあります。実務翻訳、映像翻訳、そして出版翻訳です。

 

いちばん規模が大きいのは実務翻訳。ぼくがやったことのあるのはこれだけですね。経済ニュースや金融レポートを訳したり、製品のマニュアルを訳したり。産業翻訳とも呼ばれます。

 

成長著しいのは映像翻訳。インターネットの恩恵を受けて拡大しています。これからは5Gによる動画の時代と言われていますから、さらなる拡大が見込めますね。これから翻訳者を目指す人は、このジャンルを意識しておくといいかも。

 

苦境に立たされているのが出版翻訳。出版業界そのものがピンチですので、それにつられて翻訳も仕事がなくなっていく傾向にあります。

 

翻訳者が陥りがちなトラップとは?

第2章の「三つの呪縛」を解き放つでは、翻訳者が陥りがちな罠が3つ取り上げられ、熟練の翻訳者たちの経験をもとにその対処法も解説されます。

1つ目は「語学力の呪縛」。留学しなくちゃ翻訳者にはなれないんじゃないか、という思い込みですね。著者はこれを否定しています。

帰国子女であろうとなかろうと、「いい英文、いい和文にふれ続けていくことが重要」というアドバイスが印象的。

 

2つ目は「過信の呪縛」です。学歴の高いひとや、試験の数字が高いひとが陥りがちなトラップですね。自分の能力を客観視できず、なかなか成長できなくなってしまいます。

翻訳力は読解力と表現力をかけ合わせたものだ、という定義が印象的。英語が読めるだけではダメですし、日本語が書けるだけでもダメ。両者が高い水準でそろっている必要があるというわけです。

 

3つ目は「フリーランスはこうあるべきという呪縛」。具体的にいうと、フリーランスは一人で仕事をするものだという思い込みのことです。

著者はこれを否定し、フリーランスこそ横のつながりが必要だと主張しています。そのうえで、翻訳者ネットワークの存在を読者に紹介するという流れ。

翻訳者という職業は「なる」よりも「続ける」ことのほうが難しいという指摘が印象的です。

 

総フリーランサー時代の心得

第3章の「明日も翻訳者として輝くために」では、これからの時代に翻訳者として生きていくための心得が解説されます。

著者やさまざまな翻訳者の体験談が織り込まれており、翻訳者に限らず、すべてのフリーランサーに参考になる章ですね。それどころか、これから流動性を増していく労働市場において、すべての労働者が参考にすべき内容といえるでしょう。

好きな分野を伸ばすことがいかに重要か、そして自分を安売りすることがいかに悪いことか。この2点はとくに重要だと思われます。

「他にすることがなければ、ついそれをやってしまう、というのが『好きなこと』なんです」という、鈴木立哉さんの言葉があまりにも印象的。

 

マイナー言語も重要だ

最後のほうにはマイナー言語(英語以外)の重要性も説かれていて、これも考えさせられる。

翻訳の分野が英語ばっかりになると、日本に入ってくる情報が英語圏(とくにアメリカ)的な価値観ばかりに偏る可能性があるというんですね。

その結果、日本人のものの見方が平坦になると。すでにそうなっている気はしますよね。

これを考えると、マイナー言語を操れる人が減っていくことは、かなり危険だなと思える。文化的にもどんどんやせ細っていきそう。

 

巻末には参考図書や翻訳団体の情報も載っていて、これまた有益ですね。

参考図書にも載っていますが、本書の次には山岡洋一の名著『翻訳とは何か 職業としての翻訳』をオススメします。

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Posted by chaco