【洋書】『小公子』小公女と対をなす児童文学の名作【書評】

2020年10月24日

『小公女』と対をなすバーネットの名作が、『小公子』です。原作のタイトルはLittle Lord Fauntleroyというキャッチーさのかけらもないもの。

ちなみに小公女のほうの原題はLittle Princessと、わかりやすくキャッチーですね。

日本では小公女のほうが有名ですが、この小公子も非常に評価の高い作品です。

僕は小公女のほうを新潮文庫で1回、原書で2回読んだことがあります。小公子を読むのはこれが初めて。いきなり原書で読みました。

文章はとても読みやすいです。The Secret Garden『秘密の花園』)やA Little Princess『小公女』)とともに、英語学習者にオススメしたい洋書。むろん、英語学習という観点を抜きにしても読む価値があります。

 

主人公は少年ではなく老人のほうだった

主人公セドリックは、ハンサムな容姿と天使のような心をあわせ持つカリスマ的な少年。天使のような母親と一緒に、アメリカに住んでいます。

ところがイギリス人の父が不慮の死に遭い、セドリックは伯爵の地位を将来的に継ぐ立場に置かれる。少年はイギリスにいる現伯爵の祖父のもとへと旅立ちます。

セドリックの祖父にあたるこの現伯爵。この人は孤独な老人で、周りの人たちから恐れられ、疎んじられています。いわばディケンズ『クリスマス・キャロル』のスクルージみたいなキャラですね。

 

実は、この老人こそが物語の中心です。『小公子』は序盤のつかみが弱く、いまいち面白みに欠けるきらいがありますが、それは物語の中心が登場してくるのが遅いからだと思います。

この孤独な伯爵が、セドリックとの交友を通じて少しずつ変化していく。周りの人間みなが老人を疎んじていますが、セドリックだけは(たとえ勘違いにせよ)老人を信頼し、愛情を寄せ続けるのです。

セドリックのこの信頼が、老人を変えていきます。『クリスマス・キャロル』のスクルージを変えたのは亡霊でしたが、『小公子』では主人公の少年がその役割を果たすのですね。

 

『小公女』では主人公セーラが徹頭徹尾話の中心でしたが、この『小公子』のほうは主人公セドリックが引き立て役になっています。まったく予期せぬ話の構造だった。

『小公女』は涙を禁じえない名作中の名作ですが、この『小公子』のほうはまた違った味わいがありました。大人になってから読むと、老人のほうに感情移入してしまうはず。

完全な信頼を寄せる純朴な存在と、その信頼を受けて変わっていく悪人という構図は、『風と共に去りぬ』のメラニーとスカーレットを思い出させもしますね。