【洋書】金融こそが格差を解消する『セイヴィング・キャピタリズム』【書評】

2021年9月11日

正直な話、金融に良いイメージを持っている人は多くないと思います。なんとなく汚職や経済格差の元凶みたいなイメージがありますよね。

しかし実はその印象は事実と反している。

それを実証し声高に主張する本がこのSaving Capitalism from the Capitalist(邦題は『セイヴィング・キャピタリズム』)です。

「資本家から資本主義を救い出せ」というおもしろいタイトル。強力な金融システムこそが格差や汚職を根絶する力なのであり、そのシステムを制限しようとする既得権力をこそ打ち倒せというニュアンスです。

富を社会に行き渡らせる金融システムは庶民の味方であり、不平等や格差はむしろ金融システムの本領が発揮されていないことが原因だというわけです。

 

自由市場経済vs政治

本書が解き明かすのは次のようなテーマです。

・なぜ自由市場は有益なのか
・自由市場はどのようにして生まれたのか
・なぜ有益なはずの自由市場に反対する勢力がいるのか
・自由市場に反対する勢力は何者なのか

個人が富を得るには、高度な金融システムが不可欠です。しかし十分なインフラを整えるのは簡単ではありません。どうしても政治の力が必要になってくるからです。

しかし少なからぬ政治家にとって自由市場は敵。自分たちの既得権を脅かすからですね。既存の不平等な経済システムから甘い汁を吸っている人びとが、政治家の支持基盤になっていることが多いのです。

したがって経済格差を解消するためには、政治の改革が必要になる。こうして本書のテーマは、市場vs政治というテーマに収斂していきます。

 

著者らの先輩ミルトン・フリードマンは市場の効率的な作動を前提として政治の介入をしりぞけましたが、シカゴ大学の後輩である著者らによると、その立場は十分なものとはいえないらしい。

市場が効率的であるためには、賢明な政府による制度設計が不可欠なのです。そのコアにあるのが所有権の保護ですね。

日本は明治政府がなんだかんだで優秀だったおかげで、ここまでの経済大国になったといえます。

 

金融の害悪を防ぐには高度な金融システムが必要

弱者を食い物にする悪徳高利貸しがいる。この害悪をどうやったら防げるのか?金融という仕組みそのものを敵視するべきなのでしょうか?

本書はこの問題に対して、「金融システムを強くすることで問題に対処せよ」と教えます。

高利貸しが生息できるのは金融システムが不十分なせいであり、強力な金融システムさあれば庶民は低利でお金を借りることができるからですね。

僕はこの「金融の害悪を防ぐには高度な金融システムが必要」というロジックに、大きな影響を受けました。

これは色んなフィールドに応用可能な考え方なのです。たとえば「宗教の害悪を防ぐには高度な宗教が必要なのだ」というふうに。

 

原書の英語は読みやすい

専門的なテーマを扱っていますが、文章はとても読みやすいです。そもそも英語圏のテキストというのは、小説や新聞よりも専門書の文章のほうが簡単なのです。

僕が読んだのはたしか2011年ごろだったと思いますが、専門的な知識があまりなくてもけっこうスイスイ読めましたね。読み物としても案外おもしろい。

経済系のノンフィクションを洋書で読んでみたいという人にオススメの一冊です。